百六十六生目 炎上
こんにちは、多分今はお昼頃です。
この街内が昼ということは荒野の迷宮では夜かな。
今私が何をしているかというと、うだるような暑さの中火を吹く山に向かっています! 以上!
九尾の実験に付き合う事になりまずは素材を獲ってこいと言われた。
取るのではなく獲る。
つまりハンティングだ。
街を出ればそこは火山の迷宮。
灼熱溶岩の地獄だ。
転生はしているものの本物の地獄は記憶にないんだけれどね。
「あーっつい……」
思わずグチが溢れる。
もはや何度この言葉を言ったか。
九尾が『向かう前に街で燃えないように準備したほうが良いじゃろう』と言った理由がわかる。
燃えるってなんだよ、と言えば文字通りである。
街を出てしばらくは熱いだけで済む。
しかし火山付近へ足を踏み入れると文字通り装備品やら毛やらが燃えだす。
シャレにならない。
修復屋でついでに直してもらったバッグも燃えそうだったので空魔法"ストレージ"で亜空間にしまい込む。
スカーフもだ。
準備として大量の持ち運び用の水と街で売っていた火消し薬を用意。
さらにグラハリーに進化した。
この状態で重いのを覚悟で全身を鎧化した。
これで最低限燃えない。
が、燃えないだけで熱いものは熱いので何度も何度もグチが口から溢れる。
「あっつい……」
火魔法"クールダウン"を自身に何度もかけるしかまともに歩ける方法はない。
多くの探索者たちも燃えない溶岩装備や火消し薬を全身にかけつつの行軍になることがほとんどのようだ。
水を亜空間から出して飲もうとするとどんどんとお湯になる。
急いで"クールダウン"をかけて普通の水に戻し飲んで空の水瓶を亜空間にしまう。
街の依頼掲示板でも依頼を出してもなかなか受けてくれるやつはいないと、九尾が言っていた理由が分かった。
命の危険が大きすぎる。
私がガチャガチャと鎧を鳴らしながら歩く横には溶岩が流れている。
あちこちで謎のガスが上がるが風向きが幸いしてあまりこちらには流れ込んでこない。
そして良くわからない岩に誰かが採掘したような跡も見られる。
それらは今回の目的地ではないのでつとめてスルー。
本当は溶岩からもっと離れて歩きたいがそううまくはいかない。
なぜなら向かう先は山の中なのだ。
道なき道をいくらかの魔物たちとすれ違いながら歩み続ける。
ちなみにこっちを見つけた魔物たちは私に挑むものも多かったが"防御"したら軽く向こうの攻撃が弾かれ時には爪や牙が叩き折れて悲鳴を上げて逃げていった。
手を煩わすんじゃない。
今更だが私は狩りが苦手だ。
食事の必要性は分かってもいざ野生の獣を殺せるかといえばそうではないのと同じように学んで技術はあっても心が問題だ。
だから大体狩りは"私"ことドライに任せている。
私に出来るのはこちらが死ななくて良かったとという安堵と向こうの来世の幸せを祈るばかりだ。
グルグルと細い道を回り込むようにあるき続け山の中腹あたりにある洞窟へと入る。
昔噴火したさいの穴らしい。
つまり火山の中への進入だ。
「うわ……広い」
洞窟の中というより中身を大半くり抜かれた山の中に入ったかのようだった。
いやそれも半ば間違っていないのか。
ガスの向こうに微かに空の光が見える。
昔大噴火しこの中にあったマグマは溶岩となって外へ排出されたという事なのだろう。
そのおかげか中の歩ける範囲はそこそこ広い。
暑さは増したが何とかなる。
それもこれも街での事前準備のおかげだ。
ここら一帯の詳細地図が売られていた。
多くの探索者たちの賜物だ。
それを"観察"して光魔法"ディテクション"を使用したら脳内でマップを見ながら進めるような状態になった。
魔物の配置やどこになにが今現在あるのかは自分で見つけるしか無いが便利だ。
重い鎧を鳴らしつつ十数分進めば目的の場所らしきところにたどり着く。
耳を澄ませディテクションのレーダーに引っかかるのを待つ。
……
……いた!
お目当てはマグマの中らしく反応の先に向かってもただマグマの池が広がるばかりだ。
今回狩るのは穴子だ。
正確には穴子のような魚。
いや分類は爬虫類だっけ。
マグマの中に潜む魔物だ。
当然私はココに飛び込めばそのまま溶かされるだけなのでなんとか引きずり出す必要がある。
というわけで"ストレージ"から九尾の開発品を取り出す。
球状のコイツはスイッチを押し込んで数秒で爆発する代物。
カチッと肉球で押し込んでから蹴り込む。
マグマ近く上空でカッと爆発すると奇妙な音が周囲に広がる。
はっきり言えばうるさい。
私にとってはその程度なのだが……
マグマが揺れ中からかき分けるように勢い良くいくつもの影が飛び出してきた!
この爆弾はマグマの下に棲む魔物たちのいくつかにとって大迷惑な音らしい。
嫌忌して耐えきれず彼等がマグマから陸へとそのまま上がって私すら無視して離れて行った。
[ログロナゴLv.25]
[ログロナゴ 真っ黒な体皮は熱を溜め込む。その熱はそのまま活動のエネルギーに変換される]
長い2mほどの身体とおまけのようについている手足。
アンバランスな彼等は5匹、こちらが害意を持っていると気づかれる前に狩ろう。
ドライ、交代!