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六百十六生目 神使

「つまりどー言うことだってよ」


「んーとね、絶対負けなかったからハチャメチャに自分だけが得しようってやつがたくさん現れて、大きかった国はだいこんらん、しかも朱竜神の力は絶対勝つ力、同じ国ならみんな同じ、どうなっちゃうのー!? ってしていたら、ついにはお城にまで反乱軍がきちゃった、みたいな?」


「んだそれ、まさか自分のパワーをコントロールできてねえのか?」


「今ならともかく昔だからね、もしかしたらそういう神なのかもしれないし、性格上難しいのかもしれないし……なにより、あの自覚のなさだからね。神々が弱い存在の心を理解するのなんでとてもじゃないけれど困難なんだよ」


 ペラさんがまとめてくれた。

 彼らふたりの会話はまだ続く。


『では、なぜ明らかに負けている。なぜ我に灼かせない。なぜオマエひとりしか帰ってこない……!! 勇者部隊よ!!』


 勇者部隊……魔王(バベル)語でユニ・スクレットが翻訳された?


「我が神。本来は、負けてはいないのです。我らが死んでもその次が、その次が死んでもまだ繰り返すのですから……しかし。国としてのかたちを保てなくなった時点で、我らの目的は変わりました。国として勝つことはもうないのですか」


『ならば、我が全てを灼こう。この国を灼こう。その後に勝てば良い。我が過去を絶やすまで灼き、その後またこの城を建て直せば良い。我の必勝は揺るがぬ。国ごと灼けば、再度芽吹いたものに勝てる』


「そのお考え、大変痛感いたします。その考えが、同志たちにも届けばよかったのですが……私がここに来るまでに託されたことは、我が神。あなたに助けを乞うことではありませんでした。あなたを逃し、我々の弱さを許しを請うことでした」


『何だと!?』


 朱竜がさらに赤熱していく。

 もはや直視が少しまぶしいくらいだ。


「なんだかだいぶ不穏になってまいりましたね……朱竜様……」


 ハウコニファーが不安そうにこぼした。


『我におめおめと逃げろとでも言うのか! そんなもの、敗走と変わらぬではないか!』


「大変その心に報えない我が身の弱さを呪うばかりです。ただ、国は王あればこそ。王がいる限り、我らは負けません。我が神、王がいてこその国。必勝のために遠回りをさせますが、ここはお引きください」


『ならば約定だ。契約と言い換えてもいい。我が灼き続けよう、勝利の時まで。その日まで戦いは終わらぬ。代わりにオマエが虫にしては長く生きて、国を建て直せ! この城に、我の城を取り戻せ!』


「ハッ、その命令、我がユニ・スクレットが……」


『違う。オマエだ。今ココで、オマエの名で、契約しろ』


「ッ……!?」


 目に見えてライムが困惑した。

 彼らに取ってはまさに天上の存在。

 それから対等の指切りげんまんなどまさに思っても見ていなかったことだろう。


 ほぼ天からの恵み。

 しかし私からしたら悪魔の誘いにも見える。

 それでも忠義を誓う彼女に決断の揺れはなかったらしい。


 ライムは静かに兜を外す。

 長い髪が邪魔にならないように束ねてあった。

 ……? なんだっけ今私の記憶内フォルダに引っかかりが。


 ライムは兜を床に置いてから朱竜へとその顔を向けた。


「このアルセーラ、謹んでお受けします。我が神に勝利をもたらす時まで命を燃やし、再興のために努めます。どのような時をかけようと、必ず」


『我が必勝の焔は、アルセーラ、オマエに分け与えよう。オマエの老いに勝ち続ける。我ほどの能力はないが、オマエをわずかに勝ちに導く。虫には、十分だが……耐えよ』


「ハッ」


 朱竜が鋭い爪先をライムことアルセーラに向ける。

 小さな火が放たれ宙に浮く。

 朱竜にとっての火の粉でもアルセーラにとっては十分燃え上がる炎サイズ。


 跪いたままアルセーラは腕を伸ばし。

 炎に触れようとすると。

 途端に火が彼女に燃え移った!


「あああっ、ぐううっ!!」


 アルセーラは戦った感じまだ戦闘歴が浅かった。

 それでもかなり重要そうな軍人。

 そんなアルセーラをもってすら悲鳴をあげもがき苦しむほどに熱く痛いらしい。


 そんな様子を興味なさげに朱竜は見続ける。

 やがて炎が全身にまわり鎧が溶けて剥げ落ちていく。

 意識が切れたかのように倒れた。


 死ぬんじゃないか……誰しもがそう思った時に。

 倒れ伏していたアルセーラがふと起き上がった。

 鎧の一部がなくなり服も燃えていたが皮膚や肉体は無事。


 ただしその背中に一瞬赤熱して見えた竜の翼状やけど跡がまるでうまれつきあったかように残っていた。


「……生きている……?」


『オマエは契約し、我が神使となったアルセーラ。虫なりに活躍せよ。我は……灼こう。約束通り、国を。そしていつの日が勝利を掴め』


 この時の朱竜はどんな気持ちだったのだろうか。

 非常にいらだちはあるのだけはわかるがこんな契約をするなんて恐ろしく珍しい。

 朱竜は会議でも上がるように神使がいないはずの神。


 本当はいたのだ。

 きっと今も。

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