六百十四生目 内乱
私達は長い階段を登りながら離す……
「朱竜を中心とした大国家ってのは、宗教としてってわけじゃあなさそうだな」
「そうだよ。もちろん、天上の王としていただくという意味では原始的な宗教だったんだけれど、そのころはあらゆる生物は炎をもとに導くような、そんな傲慢ながらいさぎよく力強い神様だったらしいんだ。まさしく神々の時代だね」
「はあ〜、にわかには信じがたいが……なにせ、あの暴れん坊で有名な朱竜神が、律儀に誰かたち神輿に乗っていただなんて……」
「……いえ、秘匿情報なんだけれど、我がフォンダター派の資料にも
似たような記述が……本当に隠していて、理由が正確性の不明さからなんだけれど……おばさん、その話誰から?」
「うーん言っても信じるかわからないけれど、朱竜のライバルと、親戚かな」
「……へ?」
「ど、どういう意味?」
「あー……ローズの言っていることはたいてい突拍子もないが、別に嘘は言わねえんだよ、おそらくな」
イタ吉は腕を頭の後ろに組む。
何なんだその態度は。
私は基本意図的に嘘はつかないよ。
言わないことがあるだけで。
ただこういう反応になるから言わないことがあるんだよ!
「はぁー……はあ? うえ? ど、どういうこと? おじさん冒険そこそこやってきたけどわかんなくなっちゃった」
「まあそこは良いじゃないですか。問題は、ここの先で国がおちる瞬間が見られるかもしれない、ということですよ。いわゆる……朱竜の恥部にもあたる過去を」
「朱竜様の……隠されるべき過去を……!? ええっ、あ、アタクシ的に大丈夫なのかなそれっ!? 緊張しちゃう!」
「見る気はマンマンなのな」
「そのぐらいのほうが良いよな」
「なるほどねえ……それはわりとおじさん的にも気になるかもね。 隠された歴史の闇ってのは、いつも突然明かされるものなんだ」
ペラさんはなんだかワクワクしているように見える。
私も話を聞いてはいたが不思議な光景が見られるかもしれない。
当時の何かが……このンジャ・ログ城を襲った。
結果なんで時の渦に閉じ込められ大地を朱竜が焼き出したのか竜たちも知らないのだから。
「なんか、景色が変わってきたぞ!?」
「気をつけて……朱竜たちがこちらに干渉できるタイプかできないタイプかはまだわからないんだから」
私達は炎で出来た壁の前まで来た。
不思議と熱は感じない。
その壁は1部扉として開いており中を覗き見られる。
なによりモヤの塊がそこから這い出ていた。
私はうなずいて"見透す眼"を使った。
「これは……中になにもない? いや、何かが出てきている? 私達が先に進んだことで、当時の物語が始まってる、みんな!」
「おうよ、こっそりみるぜ」
「あっ! アタクシも!」
「おじさんも〜」
みんなが見始めたあたりから物語は始まる。
舞台の地は摩訶不思議な空間。
周囲の炎は全て朱竜を称えるように燃え盛り。
1つある巨大過ぎる玉座には相応しき王が窮屈そうに座る。
朱竜だ。
活動的な姿ではないのか現代であったような浮く火山みたいな感じではないし大きいとはいえだいぶ縮んでいる。
常識的怪物サイズ。
見上げれば目が合うその玉座に駆け出すのはひとり。
ってあれえ?
「ライム……じゃん?」
「やっぱりそうだよね」
まさかのここでライム登場。
なんだか疲労を感じる足取りながらも踏むだけでダメージを受けそうな燃える床を平然と踏んでいく。
受け入れられているのだ……朱竜から。
『そうか。虫の中でオマエだけか、戻れたのは』
「ハッ」
ライムが朱竜の前に跪く。
その鎧は前見た時と違い深く傷つき汚れている。
そしてなによりライムの声だ。
今まではなんとなくはっきりとしない重なってぼやけた声だった。
しかし今のははっきり若々しい声。
……女性のものだ。
「ユニ・スクレットは未だ外での活動部隊がいるものの、連絡は途絶え城で戦い、ここに戻れたのは……」
『そのような分かりきった話を、オマエから聞く意味はない』
「ハッ……」
『扨、我は未だ得心には至らぬことがある。なぜ我が出ていって灼いてはならぬ。初めから言っていることだ。虫どもの前に必勝の神威は無敗、瞬く間に終わることだっただろう』
「我が神よ、我が愚考をお赦しください」
『良い、赦す』
「我が神よ……我々は必ず勝ちすぎたのです。我々は愚かでした。神の恩恵に頼りすぎて、神の恩恵で勝手に身を焼かれたのです」
朱竜の顔は竜だからほぼ変化はない。
ただにおいは確実に不機嫌になった。
『それが理解できん。その後の言葉を聞いてもな』
「畏れ多くも……我が神、あなたの焔は眩しすぎる。瞬く間に身を焼くから、熱さすら感じさせない。故に起こったのです」
そこで少し区切って。
「内乱が」
……ああなんだか何が起こったのかの全貌が見えてきたぞ。
神だからこそ考えが及ばないことが起きたのだろうな。




