六百十三生目 発現
前のところではおよそ5分だった。
今度は更に短くてもおかしくない。
それこそ数秒。
私は手をハウコニファーに向ける。
ハウコニファーは私の手を何も言わずにとった。
ハウコニファーの興奮と緊張の熱がたしかに伝わってくる。
「よしいくぞ!」
「ヤバいと思ったらすぐ封印!」
「どんなやつがいるかなー?」
「「進もう」」
私とハウコニファーの声が揃う。
ペラさんはギリギリまで持ち物のチェックをして……
イタ吉たちは不敵な笑みを浮かべた。
光の壁の向こう側には……
くぐり抜けるとすぐに聴こえて来たのは勝鬨。
鼻には戦場特有のにおい。
死のかおり。
そして目に入ってきたのは。
外。
巨大な神殿らしき空間で外の景色がそのまま見える不可思議な場所。
しかしすぐに気がつく。
外の景色は城じゃない。
まるではるか遠くがずっと燃え続けているかのような。
それなのにここで息苦しさや暑苦しさは感じない。
炎は聖なるもの……それがこの大地での共通認識か。
「す……すごい……ここは……伝説の地……!?」
「ハコ!」
「あっ!?」
何か知っていそうだけれど早速体中をモヤが!
ハウコニファーが素早く腕で拳を振り上げた。
「もう言うこと聞いて間に合ってー!!」
それは詠唱ではない。
まるでだだをこねるかのような一声。
ぎゅっと手を握ってきた。
ハウコニファーの体が凄まじい光が迸る。
体のあちこちから光が放たれ……
一気に熱が上がっていく!?
というか今度は体が炎に包まれだした!?
「ハコ!?」
「大丈夫……そうか……こう!」
ハウコニファーからの炎は熱く感じない。
この炎はオーラなような……?
ハウコニファーの握っているほうの手からピシリと言う音がした。
そして空中にあるモヤが。
私達の体にあるモヤが。
全てハウコニファーがあやつるかのように空へ舞い集まっていく。
「この声に答えよ、死滅!!」
ハウコニファーらしいお転婆なのにどこか凛々しく聖女のような。
そんなひと声とともに伸ばしていた手を強く握る。
するとモヤたちは一気に固まっていき。
燃えるように強い光を放って消えた!
「うおっ!?」
「すげぇ……もしかしてこれが本来の……死滅の力……?」
「ハコ!」
「っはぁ、はぁ……だ、大丈夫、ほら、手もある」
ハウコニファーが倒れ込んだところを支える。
その手は確かにあった。
……生命力と行動力が減っている?
まさか死滅をより少ないデメリットでコントロールを!?
私はハウコニファーを回復しつつ立たせる。
「ハウコニファー、もしかしてここにきて完璧に使いこなせた!?」
「うーん……そこまで言われると流石にあやしー。けれど、前よりずっと、アタクシの中にある力に向き合えた気がする」
光の輪をハウコニファーが杖から放てばただ1つ道の先へと指差す。
先へ進むこと。
それこそがこの時空の乱れをおさめること。
炎はハウコニファーの制御の指輪に込められて。
きらびやかな火が宝石のように小さくともった。
「あっ」
ハウコニファーが私から手を話した時にズルリと何かが落ちる。
それはハウコニファーの父親が残した封印の指輪……
しっかりしめてあったはずなのに地面へと落ちる。
そして不自然にも宝石にも縦にヒビが入って割れた。
「お、おお……? おじょうちゃん、大丈夫なのかい?」
「パパのが……! そっか、パパ、これまで守ってくれて、ありがとう……これからは、アタクシだけで大丈夫」
ペラが心配する中ハウコニファーが封印の指輪を拾い上げる。
結び目が完全にちぎれている。
ハウコニファーがぎゅっと握りしめた。
「その指輪が、封印の代償になった……?」
「ううん。多分……アタクシがちゃんとコントロールできるようになったから、パパとママが安心して還ったんだと思う」
それは……素敵な解釈と笑顔だった。
「んでさ、さっきいいかけてた伝説のなんとかって?」
一通り落ち着いてからイタ吉が声をかけてきた。
「ああ……伝説の地だね。ここは朱竜様が住まうと言われている空間なの」
「あいつが? アイツってさ、ずっと飛び回ってんじゃないのか?」
「昔はそうじゃなかったって記録が……あと、さすがに帰る場所くらいはあるでしょ」
「フーン」
「まあ少なくとも、ここはそうってことだな」
「もしかしているんじゃねえ? 昔の朱竜さ」
みんなの中にイタ吉の言葉で一気に緊張が走る。
朱竜が……いる!?
本物ではなく過去の記憶でしかないけれど。
ただそれが私達にどのような干渉があるかわからない。
……言うか。
「その……事前情報で実はあったんだけれど……ここのもとあった国、そこには朱竜がいたらしいんだ」
「というと……? 朱竜神はそれこそ、朱の大地なら古来からいるはずじゃあ」
「少し違うんだ。昔は朱竜がしていたことは……大地を焼き続けることじゃない。朱竜を中心とした大国家が、ここにあったはずなんだ」
それは蒼竜と祖銀の話をすり合わせてわかった話。
蒼竜は話が深いところまでするがすごく主観的で祖銀は客観的事実を知っているがその場に立った肌感覚はわからなくて。




