六百八生目 覚悟
私はみんなで励ましあいながら先へと進む。
周囲の合戦音がいつか本物になるのではないかとヒヤヒヤしながら。
それはそれとして連絡が途絶えていた間の念話はなしをまだ受け取っていた。
『あと、向こうの兵站は異様だ……事前調査より遥かに投入量が多い。派手に動かした武器類や食料それに医療品たちはブラフだったんだ。枯らす作戦だったが早々に雲行きが怪しい』
相手は明らかに電撃戦じみた動きをしている。
総力を時間も惜しいようにどんどん突入していた。
それなのに豊富な兵站で勢いが衰えない……というのはかなり嫌な展開だ。
このまま総力戦に持っていかれてしまう。
それはこちらの望みじゃない。
防衛線を張るのにもう兵器を使わされるあたりかなり嫌らしい。
『それと先程から繰り返し、戦場に広域念話が入っている』
『広域念話……? 敵の?』
『ああ。えー、要約した内容は「貴殿らは当該要塞にて不法な侵略占領行為を行っている。特に破壊工作は到底看過できるものではない。ゆえに、ただちに降伏し、そちらの重要人物や物資を拘束する。その中に、死滅を含むこと」とかなんとかだな。要は、こちらの戦略はある程度割れているらしい。ただ、だからといって戦いの方では負けていないし、死滅で何かをするのは知っていてもどうするか、死滅とは何なのかは秘匿されているからな、どこまで割れているかはわからないが……直接的な砦への関与は少なめだから何もかも、というわかでもないだろう。もしバレていたら大慌てで、こんな正当性ばかり訴えかけることは言わない』
『うーん……そうかあ……そういうことかもしれない……ねえ、向こうも既に砦の時間を暴走させ遡らせる秘術を掴んできている可能性は考えられている?』
先程から話していて考えがなんとなく繋がった。
向こうもおそらく派手な電撃戦からの総力戦は派手なブラフ。
ここに何十日も陣を貼るかこちらの頭を取って勝ちとするかをしたいのではない。
向こうは火力をもってして鉄壁の遅延戦法を取るのが目的。
その目標は……砦の時間を暴走させ全て一帯を過去に引き戻す。
今回相手が動いたから仕方なくこちらが先手をとらざるをえなくなっただけで元々向こう都合だ。
逆に言えば向こうは何からの目標解決手段を持っている。
向こうに先を越されたら負けだ……
こちらが先行していると考えたいが。
『ああ……一応は。何せ、向こうが急いで準備を始めてはいたからな。だが、ローズオーラが考えに至るとしたら、かなり危険率が高そうだ。こちらでも最優先に話をするが、どちらにせよ……』
『うん。私達がどれだけ速くやれるか、だね』
結局はそこにたどり着く。
兵器が本格運用されだして大型軍用魔法まで放たれれば戦場はまともじゃいられなくなる。
それまでに私達がたどり着かねば。
なにより敵の動向的に今まさに時の渦に干渉しているかもしれない。
勝てるとしたらこちらの死滅……ハウコニファーのみ。
『……ん……何……いお……また…………』
『もしもし、もしもし?』
うーん念話が途切れた?
まるで電波が圏外に行ってしまったかのような。
これは明らかにおかしい。
念話妨害によるあの無理矢理途切れる感じじゃなかった。
だとするとやはりこの時空……たんにモヤが濃いところが悪いってわけではなさそう。
次念話が繋がる感じがしたらやっぱ時間に悪さされていそうと言っておこう。
「みんな、実は……」
かくかくしかじか。
戦況はやばいみたいな余計な情報は省きつつだいたいは念話で話した内容を伝える。
……みんなの覚悟が顔に現れていく。
「なるほど、1発かあ」
「まあなんとかなるだろ」
「だいぶ奥まで来ているからな!」
「まあ、この日のために、まさしく全部攻略するためにおじさんがいるんだから任せときなさい! それ以外のことは出来ないんだけれどね」
「念話が不安定なので、次いつ情報が入るかはわかりません。ただ、時空が変に乱されているから念話が繋がらないみたいで、さっきつながったのは一瞬死滅の力でフラットに持っていけたからかと」
「意図的な時空の乱れ……本当にそんなことができるとしたら、それこそアタクシと同等の力かも」
「ギフテッド……解放の力?」
なんだろうな……それだとあんまり向こうらしくない。
長い間悪の団と戦ってきているしピヤア団とも長いからなんとなく直感的ななのだが。
向こうはそういうのがいたらバラして悪用する。
もちろん直感なのでそれ以上はなにも言わなかった。
私達は雑談という名の意見交換をしつつ敵を退け道なき道を進む。
もはやだいぶ登ってきて城の1番高いところまでわずか。
そのまま進むと。
なんか。いるような。
高い塔から1番高い大きな城本館内部へ通じそうな道の上に。
「ハァァ? ズルだろ、あれ」
「イオニムシが2体いるんだけれど……」
「おじさん、あの2体が同士討ちして落ちるまで待ってもいいかなって……」
「お、終わった!」
さっきまでの覚悟はどこへやら。
イオニムシが2体細い道を塞いでいるのを見て全力でやる気を失っていた。




