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十六生目 帰結

 オジサンは人間の文字は読めても発音はわからないらしい。

 だから単語が何を示すのか照らし合わせながら探っていったそうだ。

 まあ私も同じくこの見たことのない文字の発音はまるでわからないんだけれどね。

 文字の読み方を細かく探る方法も分からない。

「ええと……こ、これは森林って書いてあるね。ここの場所の名前だね」

 オジサンは地図の端に大きく書いてある文字を指した。

 読めない文字の後に森林と書かれていて、人間たちはここをなんちゃらの森林と呼んでいる事がわかった。

 なんちゃらの部分は固有名詞のため発音が分からないとどうしようもないらしい。

「ここ……あー、こ、これは入り口、かな。それと反対側、次へと書かれているね」

 森に入り口と出口とな?

 まあ人間の事だから柵とか要塞とかそれこそ道が作ってあって、そこからなら安全に出入り出来るようにしてあるとかそういうのかな。

「あ、じゃあここは何ですか?」

「あー……そ、そうだね、これは注意って書かれているね」

 他の部分と違う色と筆記体で明らかに後から書かれたらしい部分。

 大きく目を引くように書かれたそれに付属して何の注意なのかが書かれているようだ。

「ど、どれどれ……群れ、ホエハリ、良くいる……こっちは……読めないけど追いかけ回されるって書いてあるから、読めない部分は巨虎に関してかなぁ」

 なるほど、要注意の魔物に関してかな。

 群れの中に人が突っ込むのは確かに自殺行為だし、虎に延々追っかけまわされるのは最悪だろう。

 オジサンがたおしたのは一匹だけだしまだいるだろうからね。




 空にライトが打ち上がる。

 日が傾いて来る程度に話を聞いたが未だ救援が来る気配はない。

「うーん……なるほど、結構書き込みがありますね」

 地図に関する話を多数聞いて私が思ったのはそれだ。

 最初の頃、地図はかなり雑だったに違いない。

 それを事細かに加筆してある。

 現在位置さえハッキリすれば私ですら入り口の方に歩いて行けるのではないだろうか?

 そのぐらいしっかりしている。

 危険な敵情報がハッキリしているので迂回路が取れる。

 私の群れの位置もわかったら良かったのだけれど。


 もはや背後の肉は無く骨と化している。

 あの骨もいずれ無くなるのかな……

「チィチチッ」

 ついにイタチも戻ってきた。

 別にお前は来なくていいぞ?

「あ、後は仲間が来てくれるだけかな……?」

 オジサンさんが広げてあった地図をしまう。

「あれ?オジサンそれはどうするのですか?」

「お、俺の秘密の場所に隠しておくんだ。せっかくだし貰っておこうと思って」

 これの所有者はおそらく今悔しい思いしているだろうな……

「そ、そうそう、もしここにキミの仲間が来たら俺は離れるね」

「あれ? どうしてですか?」

 何か問題があるのだろうか?

 そう軽く聞き返したつもりだったがオジサンは今までになく暗い顔をした。

「まあ、ね……必要な事だから。お、俺はまあいつもここらへんブラブラしているから……まあ、会いに来ないほうが良いかもしれないけれどね」

 どういう、事だろう。

 何だか嫌な感じがする。

 動揺が私の言葉を止めた。

「あっ……じゃあね」

 その言葉を理解するのには時間がかかった。




 耳が複数の足音を捉える。

 鼻が同族のにおいを嗅いだ。

「確かか?」

「こっちだ!」

 聞き覚えのある声。

 森の茂み奥から現れる姿。

「あ……」

 来た。

 ついに来てくれた。

 私が、私が来てほしくてたまらなかったもの!

「いた!」

「大丈夫!?」

 みんなだ。

 群れのみんなが来てくれた!

「やった……ありがとう、ありがとう!」

 大きく手の代わりに尾を振って迎える。

 ん……? あれっ。

 急に疲労がどっと押し寄せてきた。

「ああ、ひどい汚れ!」

「おい、敵がいるぞ!」

「ああ……そいつはおとなしいから大丈夫です……」

 イタチが驚いて離れようとしているのが見える。

 ただ……なぜかまぶたが。

「おい、大丈夫か、おい!」

「ん……眠……」

 あれ、意識が……?

 声が、どこか遠くから聴こえる……

「早く群れに……」

「よく頑張ったな……」

「おい敵、どっか行け……」




 まどろみの中から私の意識が浮上する。

 何だか凄く久々にゆっくり眠ったようだ。

 いや一晩外でさまよっただけのはずなんだけれど。

「起きた?」

 私が声の方に顔を向けるとあの顔があった。

 私が欲して止まなかった顔。

「母さん……!」

 立ち上がり顔を合わせようとして、コケる。

「ムリをしないで」

 代わりに母さんが顔を近づけて舐めて来た。

 こう、心の中が癒やされていく。


 私はあの後緊張の糸がほぐれそのまま眠ってしまったらしい。

 もう今は群れの中にいるようだ。

 脚が痛みを訴えかけてくる。

 追い掛け回された時に酷使した筋肉痛だ……!

 一日の中であそこまで走り回ったのは初めてだ。


 外はとても恐ろしいことの連続だった。

 何回も死ぬと、むしろ死んだと思った。

 私の生はこの群れの中でなければまるでちっぽけで。

 殺し殺されが繰り返されてあげく自然へと還っていく。

 私はまだあまりにも弱くてむごい現実にくじけそうだった。

 けれど私は生き延びれた。

 外ではオジサンという味方もいた。

 確かに外は過酷で私が死にたくないと何度願ったか。

 けれど外にはまだ私の知らない多くの世界があった。

 その先に前世の記憶やなぜ転生したかの事の答えも待っているのだろうか?

 わかるのは、少なくともこの群れの中には無いということ。

 安心と安全は何とも交換出来ない。

 けれど、私の大事な事も同じように……


 それに群れの中でも本当の安全ではなかった。

 また烏の群れに襲われる事もあるかもしれない。

 それ以外にもきっと恐ろしい魔物が群れを狙ってくるだろう。

 いや、魔物だけじゃない。

 人間たちも、恐らくは。

 あの場所に地図が落ちていたということは、人はあの付近も通るという事だ。

 私はもっと強くならなくてはならない。

 生きぬいて私が転生した今回の生を謳歌しなくては。

 守ってくれた群れに返す恩もある。

 だからこそ、だからこそ。

 強くならなくちゃ。


「ところで、近くにお友達? が来てるのよ。ほら、そこに」

 そう言って母が少し離れた場所を指す。

 ん……?

 うん……!?

 おい、おいこら。

 イタチ! おめーは我が家に呼んでねーぞ!!

「さすがわたくしの仔ね、ちゃっかり外でお友達を作るだなんて」

「いや、ええと、友達というかなんというか……」

 朗らかに笑う母、苦笑いするしかない私。

 そしてなぜかここまで私をつけてきたストーカー野郎。

 私の波乱はまだ続きそうだと、この時確信した。




 私はその後順調に回復し兄弟やハートたちに迎えられ無事教わりに戻った。

 あの時吹き飛ばされたハートやジャックたち、烏の群れに襲われた仲間たちは何とかヒーリングで治し動けるものだけで捜索隊を組んでくれたらしい。

 母がとても行きたがっていたが群れの決まり事的に却下、代わりにジャックの姉が来てくれたそうだ。

 感謝してもしきれない。

 まず無事に帰れなかっただろうからね。

 日常はそうして戻ってきたが一部変わった事が。

 ちょくちょくイタチが顔を覗かせるようになった。

 最初の頃はそのたびに警戒モードが村全体に広まったが、じきに『なんだお前か』とゆるくなっていった。

 私は警戒解かないぞ!

 あと良くハートに貢物? としてちょっとした肉を置いていったりもするように。

 そのせいでハートたちの方があっという間にイタチと仲良くなってる。

 兄弟たちはまだ怖いものなんてしらないとでも言うようにいつの間にか私よりもイタチと仲良くなってる。

 アイツ……群れに取り入るのがうまい!

 危機感を感じた私は父が一緒にいると知っていても母の所に赴き進言。

 もちろんイタチ追い出せというむねだが。

「まあ、貴女の友達を無下に扱う事だなんて出来ませんよ」

 と却下。

 違うんだ! 友達じゃないんだ!

 ってアピールしてもなぜか仲が良いと見られる始末。

 ツンデレアピールじゃねーから!

 アイツむしろ一番やばかった奴だからな!

 イタチも地道に群れに取り入る努力が実って事実上兄弟がイタチとたわむれていても黙認。

 群れの守りが奴にも適用されだしている。

 何が悪いかって、群れに対し悪いことは何もしない事。

 私が群れに見つけて貰って倒れた時に私が変にイタチを庇ったことやイタチも私たちに何もしない事。

 食料を盗ったりもしないから馴染んてきてしまった。

 一体どうなってるんだ……!

 父も何も言わないし、ココはホエハリの群れだぞ!


 結果、私だけが警戒する日々を過ごすことになった。

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