六百四生目 屋根
イオニムシたちはモロモロの攻撃を受けて徐々に倒れていく。
頑強だった鎧たちの継ぎ接ぎが解けて砕けていき。
バラバラになって空虚な中身を晒す。
やがてピンクのモヤに包まれて嘘のように消えてしまった。
「ふぅー、戦闘終了、お疲れ様ー。おじさんくたくただよー」
「はぁあ、強かったなー」
「まだ行けるけどなー」
「エネルギー浪費が厳しいぜ」
「か、勝った……!? すごい、あんなに強そうだったのに!?」
「みんな、順番に並んでー。回復できる道具だすから、削れたエネルギー治すよー」
私は亜空間から携行食やら回復溶液やら出しつつ全員を"観察"して残量をみる。
今のは初見ゆえに対応が難しい部分もあったから少しずつ最適化されていくかな……
結構みんな消耗しちゃっていたみたいだし。
強いのはもちろんだが私やイタ吉としてはやはり過去の魔王戦よりは全然平気。
あの時は本当に切羽詰まる戦いしていたからね……
もちろん私が神力解放して全員に力を伝えて……とかしていないのもあるけれど。
けれども神力はイザって時以外使って乱用するものじゃない。
みんなからの貰い物は大事にしないと。
あと単純に私が神力を振るえば秒で朱竜に見つかるんで……
そして気持ちの問題もある。
神として相手と接するときと魔物として相手と接する時って大きく変わるのだ。
なるべく同等のものには同等にあたりたい。
でなければそれは見てきた暴走している神々と何が違うのか。
他にも理由はある。
継続戦闘という面だ。
正直神力を使い続けてみんなと戦うのは非常にエネルギー効率が悪い。
行動力も多く使って戦闘するしみんな高能力なため疲労しがち。
大本番はここではないのだ。
その他もろもろの理由でやんないけれど……
とりあえず回復を終えた。
「今後も同じタイプが出てくると考えると結構ユウウツだぁ……」
「流石に時間がかかりすぎたけれど、地形変化する斬撃と、自分を増やす行動は潰したいねえ。それさえなければ、もっと様子見せずに踏み込めるよ。あの剣技は厄介だけれど、囲めば対処できないものではない」
「アタクシから見たら速すぎて何がなんだか……」
「ただよう、肝心なのはアレだよな」
「ローズも気づいたか?」
「戦闘というか戦闘中に気づいたんだけさあ」
イタ吉が気づいたこと……
そもそも進もうとしていない時点でみんななんとなく察しているのか。
私も脳内マッピングを見ていて気づく。
「……上へ続く道が全部塞がれているね?」
「そうなんだよなぁ〜」
「どうすんだこれ」
「一回帰るか?」
「いや、空間のつながりは確かにめちゃくちゃだけれど、だからこそどこかにほころびがあって進めるはずなんだよ。これおじさんたちがしばらく調べてわかったこと」
「それに、モヤの濃い場所の反応はあるんだよ! これはぜったい!」
「だとすると……」
みんなと共に同じ方向を向く。
そこにはあいも変わらず私たちなどいないかのように叫ぶものたち。
兵たちが一斉に乗り込み進んでくる出入り口の門があった。
「これ正しい道ー!? 本当にー!?」
「ペラさんもなぜか行けるって同意してたじゃないですかー!」
「先導するふたりが喧嘩してて、すごく不安になってきた……」
私とペラさんは言い争いながらハシゴをのぼっていく。
先程の時とは違って特定の場所からなら塀を乗り越え建物の上に行けることがわかったのだ。
外側は広くあちこち彷徨うハメになるかと思ったけれど道が物理的に塞がれている場所は多い。
あとなんで超えられない壁や壊せない道があるのかなんとなくわかってきた。
記憶だ。
この場に眠る多くのニンゲンたちが呼び起こした記憶により空間の道が定まっているんだ。
つまりハシゴがかかっていればそこは登れる。
その法則に気がついてこの場における見た目をより重視することにした。
行けそうなところ行けなさそうなところを目で見て標準的に判断するわけだ。
それにはハウコニファーの普通性が役立った。
ハウコニファーは普通通れなさそうなところと通れそうなところをちゃんと肌感覚で理解している。
私やイタ吉はともかくペラさんも十分冒険狂いのため基準が狂っているのだ。
わあわあ言いつつもお城の屋根縁に降り立つ。
いくつも塔があるなかでここが1番小さかった。
だからはしごがかけられたのだろう。
登りきり見るとすでに上では激しい闘いが繰り広げられていた。
城というのは攻められやすい場所をあえて作るのだという。
するとそこは1つの細い道筋になる。
そこに敵を寄せ集め柵を立て溜まったところを安全圏から集中砲火して落とす。
それが守り方のひとつなのだとか。
今屋根からひとり大きな悲鳴をあげて落ちていった。
上には頑強な足場で待ち構えている平野兵や……
遠くの窓から狙撃を狙っている魔法兵もいる。
私達が狙われないのだけが幸いだ。




