六百生目 鎧幽
戦いとは時にむごい結果をあらわす。
互いに命をかけた争いになるならば特に。
そして過去の戦争は互いの命こそが削り合いの対象だった。
今目の前に繰り広げられているのはそういう生々しい戦場だ。
近代の戦争は相手のリソースを削り兵器が兵器を壊し兵站を断ってまとめて降伏をせまるものと言われている。
しかし遥か古代はそんなわけにはいかなかった。
剣と銃……つまり兵力こそが最大の削りあいで。
どちらかの本拠地を完全に滅ぼすまで続く。
どちらにせよ死者が多く出るが……
何よりも血と死が濃い。
兵器が大暴れしている恐怖の戦場とは違い……なんだか生生しく描かれる。
さっきの思い出たちとは違い火の手すらあがっていないのにそのときよりも過酷な音が場を支配する。
勝どき。悲鳴。呻き。
何もかもが恐ろしい。
怨嗟の連鎖が伝染する。
「これでしばらく動けるのは良いんだけれど……」
「んで、どこがゴールよこれ」
「おじさんもまだそこまでは分かってないんだよねぇ」
「ペラさんも一瞬ここでウロウロ出来ただけらしいからね……とにかくここの突破法を探ってみよう」
私達は複雑な道のりを駆けていく。
最初城内に入ったときよりかなりわけがわからなくなっている。
ハウコニファーが放った光により封印場所方向は示されていた。
「おんなじ空間の繋ぎパターンは、あまり期待できなさそうだね……」
「じっくり新しいパターン分析できたらいいんだけれどねえ、ほとんど初見だからさあちょいちょいちょい!?」
不意打ちだ!
ペラさんが慌てて連続で下がりながら避けた攻撃。
それは兵士たちの合間を縫って放たれた弾丸の連撃。
「何、あれ?」
「うわっ、こわくね?」
「若干キメェ」
「うわお……まさしく、怨霊って感じかな?」
それはヒトガタではあった。
ただし鎧の間から青紫で命を吸いそうな炎を吐き出しながら。
しかも鎧自体が継ぎ接ぎだ。
正規兵とその他と城の壁と……
他にも矢やら剣やらが刺さっていて痛々しいが新鮮さがなく。
つまりは錆びていて。
完全にニンゲンを辞めていた。
"観察"!
[イオニムシ 戦場に湧き出る悪霊の1つ。それは永遠の戦場でなければ出来ないほどに積みさかなった殺気と怨念が鎧の幽霊として出来上がったもの。未来永劫己の内で想いが戦い続け、結果的に生きとしいけるもの全てを斬り伏せる。それは、ただしく戦争が終わる時が来るために]
「……って感じらしいよ。結構強いかも」
いやまあ……まさしく永遠の戦場だもの。
ここの戦いはまるで正規兵が落とされるのも時間の問題に見える。
しかし違うのだ。
観測者たる外部の私達が進まなければここの時が進むことはない。
永遠に死を繰り返すだけだ。
彼ら自身も気づかないだけで。
その積み重ねが目の前にいる相手。
説明の通り早速近くにいる不干渉だった兵たちふたりを捕え……
「な、いつの間に!?」
「何だ、この魔物……!?」
凍りつくような息吹の声と共に。
腕が新たに生えて剣を突き刺す。
「んな、なんなんだあいつは……」
「見て、なにか様子がおかしい!」
刺された兵たちが苦しみとは違う恐怖や怒りのようなうめき声を上げ始め……
あっという間にあの鎧からはみ出る炎に飲まれる。
そして……
いつの間にか腕が離され自立し。
そこには変化しまイオニムシたちがいた。
合計3体になった!?
「うわまずい、仲間を増やせるタイプだ!」
「強そうなのに最悪の能力持ちだねぇ……みんな、捕まらないようにね、おじさんもがんばるし」
「多分無制限ではないとはいえ、頭数はそのままふりに繋がっからなあ」
「じゃあ早速ぶったたきゃあいいんだろ!
「あぁん!? もう行くのか!」
イタ吉たちが早速攻めに転じる。
明らかに向こうに時間を与えちゃだめだしね。
私は周囲を警戒しつつ魔法。
ペラさんは突っ込みながらゴゾコソなにかやっている。
「相手は幽霊系! 物理技の効果は薄いから、属性を付与して!」
「私やおばさんの出番だね!?」
「そう、そういうこと」
つまり合わせ魔法と行こうか!
イタ吉やペラさんが前線をはっている時に私達は魔法を構え……
火魔法!
「"フレイムエンチャント"!」
「ホーリーエンチャント!」
私の魔法に1つ遅れてからハウコニファーの魔法が放たれる。
ハウコニファーにも様々な複数の魔法テクニックを伝授している。
普通に味方への付与全体化が出来ているのがその証拠。
まず私の魔法で味方の武具に炎が灯る。
その後に来た魔法で炎が変質し白い輝きがこもった。
これは訓練中偶然見つけた技だ。
エンチャント系魔法は割と互いに邪魔をしてしまい上書きしがちだが……
ハウコニファーの認識で聖なる力が炎と同一視されていたのが良かったらしい。
光系魔力の反発を退けて同一化させた。
多分私も原理をつきつめれば出来ると思う……まだまだ魔法は奥が深い。




