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五百九十八生目 夢幻

 服は多数ある。

 魔法の属性に合わせてあるのだ。

 そして魔法を使う感覚でスッと意識すれば。


 服が普段の冒険服に戻った。


「……とまあ、魔法を使うさいに1番適したものへ瞬時に着替える技術なんだ。学べば誰でも出来るけれど、教えてくれる相手が限られるんだよね」


「ちょっと羨ましいかも……」


 ハウコニファーが感心したように言う。

 説明はしたけれど教えることは私には出来ない。

 身につくのと他者に教えられるのはだいぶ違う……


「俺は最初に見た、あの空に舞う姿が好みだ。あそこに、我々の色が加われば、それはどれほど見事な空を描くか。我らに服飾の文明はあまりないが、触発された女たちが早速結っている。男たちは、イメージをそのままに、鋼で出来ぬか思案中だ」


「そ、そうなんですか……ありがたいような、恥ずかしいような……」


 私が彼らと出会ったさいたまたま(くう)魔法を使った直後でドレス姿だった。

 お気に召したらしい。

 私達は歩きながら族長に案内されるがまま進む。


「あっ、族長」


 すると小屋のなかからひとり顔を見せる。

 手に何かを持っているようだ。


「うむ」


「頼まれていたもの、出来たよ。私も見たい。渡して」


「ああ。空の姿にこれをつけよ」


「……あっ、私!?」


 彼女から何かを受け取った族長はそのまま私に押し付けてくる。

 手にとって広げてみると……

 美しい夕焼けの空を思わせる複雑な赤み。


 たっぷり織り込まれた硬めの布繊維だがここに使われている素材の一部って。


「これって、トゲを使っている……!?」


「うおっ!? 触って大丈夫なのか!?」


「心配ない。加工して閉じ込めてある。刺さることはない」


 台車が置かれた先でウサギにトキハリーたちがトゲをグサグサ刺している。

 ハウコニファーやイタ吉も驚いているけれどアレが時で獲物を消さないのに必要らしい。

 刺して運んで来なかったのは意外にも慎重さが求められる作業なのだとか。


 みるみるウサギはモヤが凝り固まったかのような結晶に包まれていく。

 彼らの言葉を借りるならば「時から確保した」状態らしい。

 あとで解説して録画しよう。


 さてそんな危険を封じ込めたこの長い布。

 片側がドレスと繋げられるようになっていた。

 空のドレスに瞬時着替えを行なってからつけてみる。


 前側の部分腰から垂れ下がっている。

 試しに動いてみる。

 ちょっと舞ったり。


 アインスに任せて軽く空を舞ったりして。

 編まれた布が呼応するように強い色合いを放ち舞うたびに華やかな揺れ方をする。

 私自身の尾とはまるで違う。


 降りると周囲の目線を一手に引き受けていたことに気づいた。

 なんだか少し恥ずかしくて冒険者服に戻す。

 みんな声すら出ずに見守っていてくれたらしい。


 族長たちは目を見開きそのトゲが花開くように隆起していた。

 そしてなにより。

 あまりに強いまるで怒りのように強い喜びと衝撃の感情のにおいが湧き出ていた。


 自慢の服と貰えた飾り。

 その調和に満足してくれたのかな。

 それならば礼になっただろうか。


「……さすがだ、おまえ。さすがだ。我が妻に会う前ならば即座におまえを求めていただろう」


「おや、私は捨てられるのかい? なんなら、私が彼女をもらおう」


「今生において、おまえを捨てることはないと誓っているとも」


 なんだかすごくほめられたけれどいちゃつき出したな……


「おばさん、すっごく良かった……」


「ま、威力が上がるってのはいいことだよなあ」

「俺たちの武器も見てくれよ!」

「俺たちもなんか着るべきか……?」


「いやあ、おじさんひどく驚いちゃった。戦闘中とはひと味違ってねぇ」


 なんだか少しむずかゆくなる。

 まあそれほどまでに喜んでもらえてなにより。

 なにせ褒められて悪い気はしない。


 ウサギの処置も終わったらしい。

 ……そろそろかな。


「族長、もしかしてもうじき……」


「ああ。我らは移ろいゆく。その時がきたというのみだ」


 ……彼らの姿が薄れていく。

 ウサギも建築物も。

 まるでこの場が不安定になるかのようにチリチリとモヤの欠片が立ち昇っていく。


「これって……?」


「時が来たということだ。我らがおまえたちと時のチャンネルが今まで合っていたことこそが、異様だったのみ。我々の出会いは一度きり……ソレが本来の定め」


 この空間が本来流れるべき時が乱れきっていたがゆえに彼らの存在で異様な安全圏が生まれていた……という解釈であっているはずだ。

 本来彼らの里は移ろいゆくもの。

 同じ場所同じ時に存在せずいつかどこかで巡り合うもの。


 悪い言い方をするとここに引っかかっていた(・・・・・・・・)のだ。

 彼らにとっての自然に戻るだけだ……

 少しさみしいが。


「いやあ、魔物ってホント色々いるね……おじさん、ココ最近ずっと学ばせてもらっているよ。だから冒険はやめられない」


「まあ、またどっかで会うだろ!」

「んじゃなー」

「お別れってことなのか?」


「さて。次に会うとしても、それはいつの我らか、はたまたどこでか。

それは誰も知らぬ。ゆえに……今回、最後に会えたのがおまえたちで、よかった」


 きらめく輝きがあたりを覆うとすんなり景色が変わる。

 まるでそこには最初から何もなかったかのように。

 ただ雪が積もっていた。


 この日からしばらくして世界各地に不思議な化かされた話がまるで昔から合ったかのように湧いてくるけれどそれはまた別の話。

 あと時空が関係ないということでむしろ世界に同時多発するとはまだ思っていなかったのも……

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