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五百九十七生目 燃服

 移動。

 いくらスキをついたとはいえあれだけで死ぬようなウサギではない。

 というより死んだらだめなのだ。


 死んだら時の渦に飲まれ戻されてしまう。

 まずは気絶をさせ……

 彼らの種族はウサギを狩り運ぶ。

 石で出来た台車という案外文明の利器だ。


「えっ、知り合い!? おばさんと、この族長さん、が?」


「時の渦の中に潜む者が、今の時を生きているという状況、非常に理解しづらいだろう。しかし、我らは時を得ている。全てから隔離された場所で時を歩んでいる」


「時間を、コントロールできるんだ!?」


 ハウコニファーが驚き目をひんむく。

 いるとは私も聞いていたが初めてあったときはすごく驚いた。

 私に近い種族だったとは!


 つまりケンハリマ系列に近い。

 彼らの種族は現代では雲隠れしているものの時空を超越した場所でまだ生きていた。

 もはやどこの時間軸を中心にして生きているのか……それすらよくわからない。


 少なくとも私達外部侵入してくる時代には噛み合っている。

 ゆえに新しく侵入してきてもこちらを認識して応対できるのだ。


「魔力波で仲間とやり取りするらしくてね、彼らはみんな魔力を読めるようだから……私もそれを利用してさっきのことをして、獲物を見つけたと伝えたんだ」


[トキハリー 時間が狂うという特殊な環境下で生きていくために、時間すら身体の内に身につけるという術を得た。彼らの針は日が傾く時の影とも言われ、その時間を狂わせる]


 トキハリーたちの頭からは長い桃色や赤色の髪の毛みたいなたてがみが生えている。

 ただそれらは毛というよりも針だ。

 しかも物質らしさがなく常に色合いが移り変わる。


 これが時空をも掌握する針……!


「前も話したが新しい者もいるから話す。我らの針に、これだな……この針には触れるな。他者が触れるとどうなるかまるでわからん。時空の間に飲まれたくなければな」


「時空の狭間!?」


「本当かどうかはわからないけれど、危険なのは確かだよねえ。彼らがここで暮らせるのも、さっきの時間操作をして猛攻撃もこの針を使ったとあればさあ。おじさん学がないのでじぇんじぇん意味がわかりません」


 針はしなやかに垂れ下がっている。

 しかし使う時にはこれらが恐ろしいほどに開きたち奮い殺気を帯びる。

 私のものとだいぶ質が違って面白い。


 話している間にあっさりとモヤの場所についた。

 肝心のウサギたちはトキハリーを恐れて出てこないから楽だった。

 それでも残り数分といった具合に身体がモヤだらけなので困る。


 ハウコニファーと手を繋いで。


「死滅の名にて命ずる! 我が身を散らし、おぞましき身を蝕む力を封じよ!」


「よし、ありがとう、治療!」


 親指と人差し指そして小指が消えた。


「ああうぅ……! ふたつのことで痛いぃ……!」


「ほう。本当に消えたのか」


 溜まっていたモヤたちは消えた。

 そして……

 モヤが晴れたことでそこにあったものがはっきり見えてくる。


 彼らの時空特異点。

 原始的な集落を起こし寝て寒さを凌ぐだけの小屋。

 そして奇妙な祭壇。


「変なところについたな……」


「ちょっと初期のアノニマルースっぽくない?」


「あ、それわかるな」

「割とこういうとこあるよな」


 イタ吉たちが納得したところで。

 今度はハウコニファーがちょっとオドオドしているのに気づく。

 余裕が出てきたらしい。


「あ、あの……ココのモヤ、払っちゃって良かったのかな。最終的には、ここを壊しちゃうし……」


「……ってこの娘が言ってますよ」


 受信機用意しておけばよかったなあと今更になって思う。

 翻訳をすると毅然とした態度だったトキハリー族長は疑問符が浮かぶ顔をした。

 こうしてみると妖艶さが薄まりキュートだと思う。

 ちなみにトキハリー族長は男だ。


「ならば伝えてくれ。そうだな……まず、ここにいるものたちに説明を過不足なく受け、我々は全員合意している。そもそも、現代のおまえたちが何をしようと、我々は我々の時空を生きる。時を操るとは、そういうことだ」


「……だそうだよ」


「ううう、複雑で頭が……!」


「まあようは、彼らは彼らの時間を操って生きるから大丈夫だよってことだよ」


「なるほど……?」


 彼らにとってはなぜこちらが時空や城を破壊することが自分たちを脅かすと思われたのかが不思議なのだ。

 常識が違いすぎるがゆえに。

 じっくり話したことはないけれどそんな想いをした。


 彼らの常識から照らし合わせれば彼らのいる時も場所も勝手に変わるものなのだ。

 移ろいゆくのすらそういうものだと認識している。

 こっちの世界である物理的方式が全然通じないのでたまに会話が通じていない気がする。


「あと、おばさん。おばさんに戦闘中まで聞けなかったんだけれど、なんで服がコロコロ変わるの?」


「あ、これ?」


 その服は火を象ったようなもの。

 服としてはスポーツ用に近いもので。

 赤めのピッチリした袖のない服装にひじやひざにサポーターのように特殊な布がついている。


 全体的に燃え上がるような装飾で動きやすく私のお気に入りだ。

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