五百九十三生目 大技
激しく回転して一帯を斬り刻む。 ハチロクの攻撃はこういった防御型が多く多対1にすぐれた攻防をする。
ライムはイザって時に大技を決められると非常に危険なため放置できない。
回転攻撃を回避でキャンセルしてその回避行動を武器を投げるという武技でキャンセル。
それは安全な地帯で見るならば美しい舞のようだっただろう。
剣が来ているのはこっちだけれどね!
「あれ動きにスキがなさすぎだよおおー!!」
「武技を極めるとああいう動きが出来るんだよッ」
大盾化させたゼロエネミーとトゲの鎧化でゴリゴリと嫌な音と共に防ぐ。
武器が跳ねて背後に跳んで行き……
投げていたハチロクの気配がどこかへ!?
いや跳ねた武器の手元にワープしたのか!
相変わらず曲芸じみた動きをする。
「どこ!?」
「上!」
「ひゃあ!」
大上段を武技で。
ハウコニファーは避けきれない!
私は割り込んでゼロエネミーで受けつつイバラを伸ばす。
「うぐっ!?」
しっかり重い!
ハウコニファーはちゃんと急いで距離をとりつつ良さげな魔法をチョイス。
「今助ける!」
ちゃんと言っていたことは実戦できているらしい。
考えながら戦えている。
イバラにより敵を背後から締め上げて無理矢理引き剥がす。
そこに炎の波がやってくる。
私は魔法陣で守られていた。
ハウコニファーの大魔法だ。
いきなり来た大技にハチロクは防ぐように身構えつつ押し流されていく。
まるで大海原に飲まれるかのように。
これが本来の効果……
「よかっ……たぁー! ちゃんと効いた! やった! やった!」
「テンション高いところ悪いけれど、まだ!」
「ええっ!? 完全に入ったのに……」
ハチロクがあの程度で倒れるわけがない。
ほぼ確信といってもよかった。
ハチロクはこういう攻撃を食らった際に……3、4、5ここ!
急に真正面炎の壁をかき分けてくる影。
それにたいして左右左で攻撃を受け止めてから……
前へ踏み込む!
すると背後に大きく薙ぎ払った斬撃。
誰もいないのは私が結果的に避けたからだ。
ハチロクの武技だ。
連続で切り裂いて背後に下がらせたところを異様な踏み込みと共に首を斬り跳ねる1撃。
わかってなきゃ即死を狙われるような技だ。
わかっていても普通に高威力のためまともに相手しないようにしなければガードごと崩される。
ただ逆に今は大ぶりのまま相手が背を向けているわけで。
その背に大剣化したゼロエネミーが突き刺さる!
「うわあスプラッタ!?」
「それがまだなんだよ!」
地面に倒れ込んだところを尾をイバラ化して伸ばし先の赤いトゲを刺す。
猛毒の1刺し……
しっかり毒を入れて離れる。
ハチロクは搦手が有効だがその中でも継続的にもダメージを与える手は重要。
ハチロクは毒にかかって生命力がどんどん削られていっている。
その状態でも平然と剣を構えてくるあたりハチロクの継続戦闘能力は群を抜いている。
ただそろそろ……
「「オラァ!」」
「おまたせー」
イタ吉たちやペラさんが戻ってきた。
ついでにハチロクへ斬り込んでくれる。
ハチロクはそれらを複数発生させた刃で受けて流す。
ハチロクは両腕や他のところに光の剣を発生して守ることが得意だ。
ただ普段はひと振りの剣なため片手ハンデは狙えない。
「うわっ、ハチロク!? 面倒な相手引いちゃったねぇ」
「そうなんですよ……っと!」
朱竜の翼のような光が宙に現れる。
大盾ゼロエネミーを構えつつハウコニファーを構える位置へ。
羽ばたくと熱波が放たれる。
「はわぁ!?」「「うおおっ!?」」「どひゃー!」「ウッ!」
全員が叫んで熱波を受ける。
幸いなことに放射型のため慌てて隠れたイタ吉や私の背後にいるハウコニファーは無事。
ペラさんはおかしいので受けながら空中に飛んでいる。
やはりというかさすがというかランクが極まった冒険者というのは単なる一般人ではなかった。
強いというのもそうだがマントを纏って敵の攻撃さながら突っ込みチャンスと見ている時点でなかなかえげつない。
危険に突っ込む冒険者の姿勢そのものだ。
確かにあのマントは特殊だろうから並の防具よりもはるかに仕事をするだろう。
飛び道具なら跳ね返すし。
それでも防いでいる私だってギリギリと熱で痛みが走り焦げるのだからただでは済まないはず。
ペラさんはそれよりも攻略速度を意識した。
それだけなのだろう。
「ヒドラ!」
ナイフを突き出して叫ぶ。
※
宝具 ヒュドラダガー ヒュドラとは呼び名であり真名である。
竜の翼を模した姿をしている。
本来の肉体と魂からわかれ大きくその形を歪められたとしてもけして死にはしなかった。
それは意志がなくとも下等な存在に呼ばれれば反射的に殺そうと毒を吐く。
再度再生を果たすその時のために。




