五百八十二生目 砲撃
バレットが話しかけてきた。
「ま、ハウコニファー枢機卿、そう緊張しなさんな。おふたりもやり直しがきくらしいしリラックスしてな。ローズオーラさんは、相変わらず美しいな、二人だけそっと抜け出して、秘密の花園へ連れ出していきたい……」
「結構です」
バレットは相変わらず軽口を叩いていた。
御者のおじいさんとハウコニファーを世話してくれるツカエさんはここから少し離れたところでバックアップをしてくれている。
最悪の場合が敗走のためその準備だ。
中に突入する案もあったらしいけど数が増えると俊敏性が落ちるのでやめた。
限界ギリギリの数で突っ切る。
別に中で大ボスみたいな敵と戦う必要はないからだ。
……ないよね?
フラグがたった気がするけれど頭を振ってかき消す。
っとと。周囲から変な目で見られた。
「……?」
「ええと、それでバレットさんは何をしにここへ?」
「おや、何か用事がなければお嬢さんに会いに来てはいけないのかい?」
「駄目ですね、戦争前待機なんで」
「ツレナイなぁ、そこがいいんだけれど……ま、伝令っちゃあ伝令さ。もはや衝突寸前、魔法炉を温めておいて、いつでも飛び出せるようにとさ」
ついに来たか。
ここから一気に戦場となる。
みんなもどこかしら雰囲気がキリリと引き締まる。
魔法炉に火……ではなく風や空の複合エネルギーの光が灯り駆動音が鳴り響く。
出力安定。
浮上スタンバイ。
あたりに高音の騒音が響き出す。
前世のエンジンって基本的に音が重かったんだけれどこっちのエンジンは音が軽いんだよね。
ニンゲンによっては耳障りかも。
キュインという音と共にほんの僅かに浮く。
「そして、こっちのほうがずっと、大事だ……グットラック!」
「「うん!」」
バレットたちが急いで持ち場に戻っていく。
みんなの期待が集まってくるのがわかる……
神力の流れだ。
戦術塔がうなりだし双方の塔から別々の魔力波が飛ぶ。
交差するように打ち消すように。
私達も恩恵に預かり全身がなんだか身軽になる。
速度上昇の恩恵を受けてリーダーのニンゲンがスッと空に飛ぶ。
順番に空へと飛んでいく。
私達もその後に続くよう空へ浮かんでいった。
(こういうのもおもしろいね〜!)
アインスに操作は任せつつ軍として空を飛ぶ私達の陣形を見る。
遠くから見たら私達は数十の塊で飛行している。
鳥たちの陣形に似ていて先行・右翼・左翼・後尾だ。
私達は右翼側に所属する。
その群れがさらに4つほどある。
今回は空に本気なのがうかがえる。
上空にいる部隊はさらに多い。
さらに敵側も増援が見込まれる。 衝突したらひどい騒ぎになるだろう。
……緊張の一瞬。
嫌に静かな時間が流れる。
もはやほぼ開戦していると言ってもいい。
それなのに互いの動きが始まらない。
互いに戦う理由が曖昧?
そんなわけがない。
今更語る段階でもないだけだ。
互いに怖気づいている?
そんなわけがない。
もはや幾星霜に積み重なった先の決着をつけようと全員が意気込んでいる。
では待つものは何か。
機だ。
たったひとつほんのわずか。
相手を出し抜く一瞬を司令は互いに見ている。
そんなものはないかもしれない。
だけれども単に先へ動けば対策される。
遅すぎたら大技を叩き込まれる。
互いに生きて帰り敵を倒すために。
パンパンに膨らんだ場の空気は今にも弾けそうで。
それはほんの僅かな始まりだった。
……遠くのチカッと光っている光源の方から強大な力が!
「避けろーッ!」
誰がともなく叫び軍勢は大きく割ける。
前方から迫るは大型の光線。
凄まじい質量の魔法攻撃!?
あたりに感じる気配が多すぎて正確に察知するのが遅れた。
それでも最悪敵ごと焼きかねない放火はみんなが避けるのみで済む。
ただ飛空船はそううまくはいかない。
ドラゴンクラスの飛空艇は圧倒的戦力と装甲を持つらしい。
引き換えにあまりに大きな的でなおかつ鈍足。
放たれた光線を避けきれるほどじゃない。
グッと角度を変えて避けようとしている前にニンゲン部隊が陣形を組んで立ちふさがる。
基本的な魔法陣を描くように並んで。
瞬時に質実剛健な魔法陣が描かれる。
今のは陣形による軍魔術効果により魔法陣形成大部分を省略した形だ。
それでも間に合わないところだった。
ギリギリ魔法陣で受ける。
ただあくまで付け焼き刃だ。
腕は相当良かったが斜め方向に弾くのが精一杯だった。
地面へ跳ね返り時空の渦を割く。
しかし途中で何かうやむやになって消えてしまった。
ただこれで渦の上に穴が空いた!




