五百八十生目 乗物
死滅の力。
おそらくは神の力をニンゲンが扱えるように落とし込んだギフテッド。
勇者一行が魔王を倒すために身に余る力を手に入れた……
支払う代償が大きければ大きいほどというのは神の力っぽくない。
神の力は神力を使うためそこで他者から捧げられる犠牲を支払う。
おそらくはそういうことだ。
死滅……それはまさしく自爆とも言える技。
正気ならば回復できる範囲外で使おうとしないだろう。
そして回復できる範囲内だと逆にニンゲンの力では出力ができない。
困った扱いの力である。
「純魔なのは、もしや将来を見越して?」
「ええ、死滅は魔法に近い技……コントロールは魔法職のほうが扱いやすいと出ています。そしてハウコニファーは特別で、未来には死滅の力を完全コントロールできるかもしれないとも。しかし、あの子はまだ小さい……」
「……あの封印の指輪、力を持っているのは本物だけれど、機能はしてないですよね?」
凄まじい力がある指輪だと思った。
そしてこの部屋に入ってからハウコニファーが外に出るまで指輪に変化はない。
つまり……あれに形見以上の意味はない。
「ええ。ハコの父が身につけていたもの、それに対して封印の力をハコが感じてくれているのが大事なのです。孫自身の力である死滅が死滅を封印している以上、大事なのは心持ちなのですから。ハコは知らぬからこそ、あの指輪に安心感を覚える。自分の力が……本来は指輪ごときで封じれるとは思ってもいないのですよ」
やっぱそうなるのかあ……
ただ。
「なるほどやはり……だとすると、制御の指輪の機能本物なんですよね?」
「ええ。指輪を外した指の数だけ犠牲にして、死滅の力を放てます。本来はそんな低犠牲では何もなし得ないのですが、ハコならば可能です。だからこそ、回復が常にできる貴方に託すのですから」
「確かに……私なら指程度すぐ治せます」
「本当は、あの孫の美しい指を犠牲になどとてもしたくはないのですがね……既に何度か、幼い彼女のうっかりでなくしているのを見てしまっていて……いつ指が腕に、腕が首になるか不安で不安で」
なるほど……先程指を合わせていたのは本当に感慨深かったんだろうな。
ここまで無事に育つこと自体が奇跡……か。
そして私に託したのは私の回復術が大きな理由か。
確かにお孫さんが死んでも生き返させられる相手ならばギリギリのギリギリ……折れるラインとしては妥当なのだろう。
ただ生き返らせるだけならばまだ他にもいただろう。
かなり多くの厳しい追加条件を足したか。
例えば……大きな戦果を上げた英傑だとか。
女性の幼子という性に対して疎い相手だとか。
いろんな信頼測定をくぐり抜けたわけだ。
「本当に、ハコを、孫をよろしくおねがいします」
私は教皇から死滅について詳しくレクチャーを受けた……
[やっとできたあああ]
「えっ、何?」
アノニマルースの家にいた私のところに突然客が来た。
魔王ことフォウだ。
まあ私のところに突然誰かが来ることはそんなに珍しくはないが。
イタ吉はフラって来て冒険話して行くしアヅキはいきなり虚空から振ってくる。
たぬ吉は用を作って会いに来ているフシがあるしきょうだいたちは気づいたら家の中にいる。
ただフォウが叫びながらやってくるのは珍しいことだった。
ちなみにフォウに発声能力はない。
大きな帽子に目だけ暗闇に浮いてとってつけたような手足でチマチマ歩いている。
生物としては破綻しているが世界最弱の神なので問題ない。
私達の脳内裏で意識すれば常にそこにあるログとよばれる存在がある。
普段は獲得経験どうの観察結果はどうのと流れてくるが……
魔王はこれに対し最上位権限を持つ。
つまりここに直接言葉を書き込んで送れる。
地味に悪用し放題な能力なのだ。
[ほら。乗り物。修復できた]
魔王のやたら大きな帽子には2つのおもちゃがのっている。
片方はうさぎか何かのぬいぐるみに見えるもの。
もう片方は前世知識的にはプラスチック製電車に見えるものだ。
どちらもそう見えるだけだし私から探ってもそれ以上には見えない。
そういう存在だ。
あの2つは概念そのものが固められたものであり活性化するまでは他者観測でまともに出来ないことそのものを指す。
具体的に言うと見る相手によって何が乗っているかは別らしい。
これが最上位権限の持ち主が持つ神器……ということなのだろう。
魔王戦後乗り物の方はほぼ壊れていたそうなんだけれど。
「見た目は……とくにかわっていないけれど」
[展開後の兵装変化にくわえ。カラーリングやデザインも大幅にかえた。故にまた展開しても魔王との関連付けをされない]
……それはいいことを聞いたぞ?




