五百七十九生目 死滅
私がもらった許可はハウコニファーをバシバシ鍛えていいということだ。
よく学びよく遊びよく命の反復横とびをする。
"峰打ち"を起動させているから死ぬことはないとはいえ彼女にスレスレを叩き込んだ。
私に叩き込めばすぐ経験を稼げるとはいえこっちが真面目にやらないとどんどん効率が落ちる。
あと遺跡の難易度も大事だった。
正直速度重視しつつ護衛突破はかなり難しい。
彼女が戦うというより自衛できることを徹底的に叩き込む。
長期間を考えるとやらないほうがいいこともあるが付け焼き刃なら必要なことはした。
いつ自分が死ぬかを1撃で死ぬ攻撃をスレスレで回避させ身につけさせ……
その日動けなくなってから回復させて動かすようなやり方だ。
長い間真似しちゃいけないよ。
身体と心が成長する時期にやりすぎれば故障待ったなしだからね。
そして座学の時間を増やした。
そちらは非常に優秀で特に知ってから理解し身につくまでのループが異様に早い。
だてに純魔やっていない。
「……という感じで、非常に優れたお孫さんでしたよ」
「さすがはハコ! 良かったなぁ〜!」
「エヘッ、おばさんにもおじいちゃんにも褒められた!」
教皇はハウコニファーの封印の指輪をしげしげと眺める。
そのあと反対の左手を取り制御の指輪をみる。
優しげに古く固まった指を柔らかな指へと沿わせた。
「立派になったなぁ……」
それはこの場でかける言葉としてはあっているのかはわからなかった。
どちらかといえば力の評価ではなく……
ただ孫を愛する一言。
ただ肝心の孫は硬い手でゴリゴリやられてちっとも話が進まず不快だったらしい。
明らかにプリプリと怒る。
「おじいちゃん〜〜!」
「おお、わるいわるい。封印の方は、とりあえず仮解放にしておいたよ」
「仮……ですか?」
「ああ。誰かとともに死滅の力を使おうとすれば、封印がとけて発動するようになっておる。仮封印状態は少し不安定でな……詳しい解き方は、後で教えよう。それと、本封印の仕方もな」
「あ、それはアタクシもわかるー!」
「うむ、危なくなったら封じるんだよ」
「わかったー!」
やはり祖父の前ということもあってハウコニファーはとても朗らかだ。
ようはテンションが高い。
訓練中は若干意識が危ないときもあるし。
そこからしばらく雑談をしてハウコニファーだけわかれる。
ハウコニファーは別の準備だ。
私は1対1で教皇と向き合う。
「……騒がしくて、すまなかったね。貴方様がやってくれることを考えると、どうしてもわたくしも、不安にかられますね……」
「いえ……そのお気持ちはよくかります。あんな小さい子が、世界の命運どうこうに揺れ動くことになるだなんて」
かなりのえげつない話だ。
ハウコニファーは転生者ですらない。
それとなく探ったので分かる。
まだ子が担うには重すぎる。
大人だったら背負えるものでないからこそだ。
「あの子の……ハウコニファーの死滅の力は、父親の、つまりわたくしの息子に当たる者の力、でした」
「過去形、ということは……」
「ええ、ハウコニファーの両親……わたくしの、息子と義娘は、不滅のコントロール事故で……先代の中でも飛び抜けて才能があった、故に起きた事故だったのです」
「死滅の力を引き出しすぎたのですか」
「ええ……これまで死滅は人間ひとりに扱える力ではないとされてきました。つまり、力はあるのに引き出すことはできなかった。しかし、やっと使うことが出来る者が現れました……息子です。歴代の者たちは、複数人で無理やり力を引き出していましたが、息子はたったひとりで行えました。それが……よくなかった」
「死滅というのは……どのような力、なのですか?」
「犠牲の数と質に対して、莫大な力をも封じ消し去るという、人の手に余る力です」
「そんな……!」
私は驚いたが表向きと裏向きの感情があった。
……この話勇者関係の話じゃないか?
秘蔵された資料の中に大量の犠牲を払って魔王の膨大なパワーを封じ込め討った話がある。
というか封じた力が宝石剣たちだ。
なんとなく死滅の力の正体が見えた……
「そして何よりも、犠牲と結果が釣り合わないことのほうが多い。息子は、力が暴走し義娘を巻き込んで……ただ、その結果驚くべき封印が起きたのです。その時腹にいた子を封じたのです。ハウコニファーは今もスクスク育っている。封じられたのは、ハウコニファーがその瞬間に受け継いだ、死滅の力……死滅の力を、死滅の力で封じたのです」
かなり不可思議な現象だ。
未来の出来事そのものを事前に封じたことになる。
だとすれば死滅の力は神の力に匹敵する……?




