五百七十七生目 勉学
制御の指輪は使わなければ外していて良いらしいが使うなら前々からつけたほうが良い。
ゆえに前見たときはなかったのに今はつけているそうだ。
なるほどこれがハウコニファーの祖父……フォンダター派トップが死滅使用許可を出すタイミングとかぶるのか。
「もしかして、その指輪はおじいさんが?」
「そうだよ! 制御の指輪はおじいさまが贈ってくれて、封印の指輪は生まれつきだったけれど、確かおじいさま以外の方がつくられたと聞きました」
制御の指輪も封印の指輪も大きさを調整できるようになっている。
ただ封印の指輪はなんというか……
色々と男性用サイズなのだ。
最小に絞ってなんとか指にはめている。
なるほど死滅の力は単なるギフテッドじゃなくて……
おそらく前代が死ぬことで新代に引き継がれるもの。
しかもいつかはわからない。
さらに扱いきれるかもわからないのだろう。
フォンダター派もきっと血の歴史がある。
その血の上で何度も機会をうかがってやっとのぞみが見えた。
ただその望みも性急な周囲の動きにより潰されようとしている。
身内の恥を潰し神の脅威を鎮める。
やろうとしていることはそういうことなのだ。
時は待ってくれない。
場ははるか昔に選ばれている。
ハウコニファーが大人になるまでには時間がかかりすぎた。
決着の時は1週間後。
「もうむびだぁぁぁ」
あのあといろいろ調整を見たものの準備運動でバテはじめた。
平均年齢の子から思っても運動神経が弱すぎる!
まあ体幹を鍛えることなどはまたあとにするとして。
場所を移した。
一応魔法で身体は治したもののハウコニファーは疲労のピークだった。
精神の方だ。
コレはまずい。
戦士であれと言うつもりはないがおんぶにだっこであれとも言えない。
この1週間で改造しないと……
今度は座学。
ちゃくちゃくと動き方や戦い方を軽く教えていく。
そうしたら意外な食いつきをされた。
さっきの疲労は引きずっているはずなのに姿勢がどんよく。
こんなにも積極的に勉学を受けるとは思わなかった。
もっとこう……遊びばっかするタイプかと……
「あ、何かしつれーなこと考えてる!」
「かんがえてないよ」
それはともかくとして。
だいたいコレまでの教え子たちは身体を動かして覚えていた。
ただ彼女は思いっきり座学派だ。
どのような精神状態でも先に体が動くのとは逆にどのような体の動かし方をしていても精神がブレないようにできる。
思考を止めないということは戦いで有利になる。
ただ大器晩成型だ。
期間が短いのだけはおしい……
とにかく今身になることを中心に。
疲れない動き方1つとっても学ぶのは大事なようだから……
基礎の基礎から教えを叩き込むのは久々でやりがいがある。
ほぼドラーグ以来。
そんなこんなで私たちは1週間を慌ただしく過ごす。
時間がないので"魂分・同体の奇跡"で3体にわかれ調査と実践。
ドライもアインスも大枠の私であるため気合をこめると他者からはわからない口調になる。
そもそもツバイという意識自体も言ってしまえば大枠の私ではない。
話す時は意識をして変える。
体外的な側面の私だ。
そんなこんなであっという間に時を経る。
一番大変なのは裏手の調整かもしれない。
失敗できない盤面でなおかつピヤア団や朱竜も相手……
アノニマルース軍も使う。
それが司令部の決定だった。
というか色々政治的なやりとりをしていたらしくねじ込んだらしい。
向こうは否定しているとはいえたくさんスパイ行為暗殺行為をした経緯がある。
最終的に押し切られたようだ。
あと皇国と魔物軍を舐めすぎた。
皇国は時間感覚がゆるいがいざというときの苛烈さが恐ろしい。
アノニマルースは私などのニンゲンを元に魔物独自の発展を政治的に広げている。
まるでお話にならないのならば決裂するだけだが逆に利益確保されてしまうぐらいに。
そう……ちゃっかり世界を救う以上にアノニマルースは金勘定を成功させているらしい。
お金や信用の勝ち取り方を手慣れてきている。
そして何より戦いの勝ち方も。
もはや私は最終チェックと調整だけして自分のやることだけをやるのみだ。
「……というわけで、魔法陣は自分たちの身をまもるために展開するので、大きさや傾向でどのようなものが来るかを予測できるんだ。種類を見抜けばほぼガードができるし、逆に読ませないようモザイクをかけたり偽装をします。ただ、そちらに変な労力をかけると単に遅くなるので、ここは気をつけたいところですね」
ハウコニファーは勉学用の書類を手にフムフムと頷いていた。




