五百七十六生目 聖炎
純魔の特徴はその魔法に特化した感覚にある。
まず極端に妨害しづらい。
多分今蹴り倒しても詠唱を完成させる。
対魔法干渉術式というのは歴史のなかでたくさん研究されているもこの純魔の練る魔法に割り込むのは難しいという結論が常に出ている。
ハッキング難易度というやつだ。
逆に純魔はハッキングに向いていてあっさり敵魔法を暴走させ自滅させる。
なので純魔同士の対戦はすごい。
見た目何も起こらない。
互いに互いの魔法を打ち消し合っているのだ。
暴走は悪手。
暴走を織り込んで相手に向かわせる。
1流の純魔は自分や味方を守る魔法陣構築が鉄壁。
ゆえに1歩進んだり引いたりズレたりが凄まじい意味を持つ。
盤上のコマを動かして対戦する机上遊戯に近いかもしれない。
やがて初期と全然違う位置に足を踏み込みどちらかが参りましたと言う。
理解が及ばないとまるでわけのわからない決着だが行動力残量を覗き見ればわかる。
凄まじい量が消費されているはずだから。
あと脳を動かしすぎて不健康な痩せ方をすると聞いた。
さて現実に戻ろう。
『閑話休題』 体の動かし方はあんまりにもあんまりだったが魔法の方はしっかりしていた。
具体的に言うと私にも構築が読み取れないように何重も罠を張ってる。
……速度は要改善かなぁ。
私は特に対策しない。
素受けはまずいとは思うので防ぎ方を今考えている。
「これなら、どう! かな!」
魔法が発動する。
魔力が変換され紅蓮の炎が渦巻いていく。
炎という現象は燃え上がり揺れるのが普通で本来は球体や火の鳥に固められるものじゃない。
それを主張するかのようにハウコニファーの後方で激しく燃え盛る。
これは……
「聖なる炎よ、焼き尽くせー!」
明らかに慣れていない叫びだ。
棒読みに近い。
それはそれとして炎はまるで波のようにハウコニファーを隠して津波として私を飲み込む。
"防御"!
しっかり防ぐ。
おおおあっつい!
これは聖なる炎と言っていたか。
多分本当に単なる炎じゃなくて信仰から齎された魔法。
喰らってみてわかることもある。
ただまあ……
「それっ!」
「そんなっ!?」
炎が終わって腕で振り払う。
……地面や周囲が焼かれていない。
生命を……敵だけを焼き払う強力な魔法?
「私は火に耐性があるのと……今の威力は脅威じゃなかった。今の魔法、無意識に敵と味方をわけて、敵だけを焼く魔法ですよね? それは身内に対して有効打じゃない」
「えっ、それでも対象指定したから多少は効いて……ええっ? というか聖なる炎は相手の耐性程度は……」
「まあ色々あるけれど、今の火力だけはすごいよ! 対人じゃなければ、かなり強烈だと思います」
なんか複合的に魔力の指向性があったみたいだけれどどれもこれも私とのぶつかり合いで相性が悪い。
さらに魔法系に私が詳しいというのも結構わるかった。
魔法のスキをついて魔法を斬るみたいな高位剣士みたいなことはできないがどうすれば弱まるかはわかる。
発動後にあわせて魔法構築に対して特効の抗体魔力展開を使い防ぎきった。
でも熱かったからかなりのもんなのだ。
不意にうたれたら範囲内の相手は全滅するかもしれない。
この幼い身に合わないほどの魔力……これがギフテッド。
勇者グレンくんも広義のギフテッドなんだろうね。
……彼女のレベルは"観察"上は高い。
しかし比較上はあまりに弱かった。
技術の問題ではなくて力の問題だ。
おそらく純魔としての能力と宗教家としての能力がとても高い。
レベルが高いというかはレベルが上がりにくいということだ。
トランスなどをしてレベルがリセットされればレベル上げのチャンスとなる。
ただハウコニファーは純粋に子ども。
まだトランスは望めないだろう。
つまり私が見ているレベルと私の持つレベル差は思ったより大きい。
レベルが24という一見一般人より強そうなレベルでも実際は総合レベル的にめちゃくちゃ高い。
種族としての差というやつだろう。
「死滅の力は使えるの?」
「死滅は……おじいさまに聞かないとだめ。あと、許可自体はとってて、来週のときは使っていいことになってる」
ちょっと見たかったのにな……
ハウコニファーはかざした指輪を見せる。
幼い子につけるにしてはキュートではない……グーで殴ったら威力がありそう。
「右手のこれが、封印の指輪。おじいさまの許可があれば外れるよ。左手のこれが制御の指輪。アタクシはまだ力が完全に制御できなくて、飲まれてしまわないための装置なの」
指5つにそれぞれキュートな指輪がついている。
ただ……なんて複雑で丁寧な魔法の折り込み方。
これを贈ったニンゲンはよほどハウコニファーが大事らしい。




