五百七十五生目 訓練
生き物というのはその時どきで面を使い分ける。
どこでも一貫した態度というのは時として悲しいすれちがいを生む。
まだ未熟な子どもだったころは先生をママと呼んで恥ずかしくなったりするものだ。
それはそれとして目の前にいる彼女は側面とかいう問題なんだろうか。
丁寧さとあどけなさはそれぞれの側面に別れれば成立する。
ただ無理をしているにおいがしなさすぎる。
幼いのに脳内でここまで切り替えられるのか……?
まるでスイッチのようだ。
教養でなんとかなるレベルを超えている。
おそらくはハウコニファーの特殊な能力。
「それでは立ち話もなんですから、客間へ行きましょう」
私はハウコニファーの側仕え的な方に連れられて部屋に案内される。
側仕えそのものではないだろう。
宗教関係者であって貴族ではないので。
そういえばすっかり今のショックで忘れていたけれど枢機卿なんだっけか。
つまりは直属の部下か。
遥かに年上だけれど。
明らかにいい感じの部屋に通された私達は向かい合って座り部下さんたちはささっと去っていった。
何かがあるというのは知っているのだろう。
事前に配備されていたお茶を飲む。
「ふぅ……」
「へへっ」
うわっ!?
今ハウコニファーの脳内でスイッチが入れ替わった音が聴こえた。
具体的に言うといきなりニヘラと笑ったあと滑るように椅子から抜け出し……
私の横に座ってきた。
圧倒的ハヤワザ。
いや速度はかわいいもんだけれど。
「おばさーん! 聞いたよー! 来週、一緒に行ってくれるんだよね!」
「う、うん、そうだけれど、その変わり身は何!?」
「ふふふ、初めて見た相手はビビってくれる、アタクシの特技ナノ。でも、あんまり見せる相手はいないんだけれどねぇ〜」
「なるほど……じゃあ、私が今日ここに来た理由もわかってます?」
「うん! 来週の予定ぎめと準備だよね」
なんやかんや1週間というのは短期間だ。
たまに1週間で山程イベント詰まるようなタイムアタックでもしてるのかという状態もあるが……
基本的には計画準備の時間としては心もとないまである。
なのでアクセスは許可が降りた初日にした。
「そう、準備。当日の話もたくさんしたいし……訓練もしないと」
「へぇー、ドラゴンスレイヤーでも訓練ってまだするんだねっ」
「いや、あなたもですよハコビ」
「へっ?」
なんだかツカエさんみたいな口調になってしまった。
キョトンとしているハコビことハウコニファーの目を見る。
……何処かで鳥かごの中にいる火の鳥のさえずりが聞こえてきた気がした。
「え?」
とりあえずということで訓練所に移動した。
もちろん教会内にそんなものはない。
征火隊のものだ。
許可をとっていたのはハウコニファーへの訓練。
"観察"して強さそのものは察してはいるもののそれとは別にどこまでやれるのかを知りたい。
というわけで私とハウコニファーが距離をとり向かい合う。
「軽い訓練です! 聞いている例の力をなしに、打ち込んでみてくださーい!」
「死滅をなしに……う、うん、やれるだけやるぅ……!」
もはや凄まじいへっぴり腰だ。
そして大きな動きにくそうな杖を構えた時点でわかった。
彼女は純魔だ。
純魔とは純粋な魔法使い……絶対に前へ出ず後方支援と爆撃につとめるタイプだ。
そして冒険者に純魔はいない。
というより成長過程で勝手に純魔からそれていく。
なぜなら冒険者とは冒険し探索するものだからだ。
圧倒的にフィールドワーク派。
敵は魔物ではなく大自然。
動けないと単純に冒険できないのだ。
軍兵だとそこらへんはまた変わってくるけれど……
最近帝国では冒険者ギルドの見直しが入っているらしい。
兵隊たちですべてを賄っていたがやっぱり兵隊と冒険者は違う。
冒険者は魔法使いでも杖で相手をぶんなぐるのが良しとされ……
兵隊は剣の振り方1つとっても統一させた部隊のほうが良い。
どちらが優れているかではなく何を想定しているかの差でしかないのだ。
むしろ今までよく兵で迷宮探索してきたよ。
……目の前のことに対して思考を戻す。
純魔だとわかった時点で現実逃避してしまった。
マジかあ……
当たり前のように城攻略に不向きだ。
そして純魔でも肉体は動くタイプもいるにはいる。
結局とんだり跳ねたりできればいいのだから。
そして目の前の相手は。
「い、いくよー!」
詠唱しているときに足を止めてる……
止めたくて止めてるというより止めざるをえないっぽい。
目を閉じて集中していて……
うん。これマジかい?




