五百七十三生目 隠匿
人類国宝であるかどうかはひとによるだろうけれど……
少なくとも冒険者の到達点であることに間違いない。
そりゃ私でもわからんわけだ。
ちなみに"観察"してもよくわからない低数値が出る。
あと名前も違う。
本名なんなんだろうね……
少なくとも自称ペラさんは冒険者としての到達点にいる。
こんなどこにでもいそうな雰囲気なのに……
「おじさんが貰ったのは『跡付』。ローズオーラちゃんのは?」
「……あっ! 『自由』でした」
一瞬どの話かと思ったが雰囲気で察した。
冒険者ギルドから貰えた特別な称号だ。
ニンゲンの二つ名にも相当するのに当然のようにもっているとは。
やっぱり種類があるんだね。
なんで私に自由なんていうたいそれた二つ名なんだろうか……?
「自由! そりゃあすごいねえ、冒険者にとって誉れとしか言いようのない称号だ。むしろ、自由というだけあって様々なことに手を出しているのかな? それで勝ち取っている?」
「跡付……まさしく斥候として調べて、追跡して、特定してってことかな……? いやむしろ、跡を付ける、未踏の地すら踏破して見せる、その地に足跡を付ける、とかも含んでいるのですかね?」
「あははは、大した意味はないと思うよ、しらんけどねっ」
「いやあ、自由なんて曖昧な言葉に深い意味合いはないと思いますよ、ハハハ」
互いに軽快な笑い。
なんだろうこの……
探る気はないのに互いとも1から10を得てしまうような。
痛くない腹の探り合いになってるような。
やめよう。
誰に言うでもなく互いに空気で認識した。
「それで、潜ってみるかい? 中に。割と慣れれば建物内に入らなければ帰るのにまにあうよ?」
「いいですね、でも、どこから侵入しましょうか……上って言ってもだいぶ高いですし」
「何、飛空艇だけが飛ぶ手段じゃないというコトだよ」
というと……?
私単独ならともかくペラさんも大胆不敵な笑みを見せていた。
「ぎゃああーー!」
「おおげさおおげさ、冒険者やってれば空を飛ぶ機会なんてたくさんあるでしょ!」
「そうだけど、そうですけれどぉー!」
空が苦手な理由。
それは私の制動が効かない瞬間がメインだと私こと人格の1つツヴァイは理解した。
アインスとドライは楽しんでいる。
結果2-1で叫んでいる割に完璧に楽しんでいるひとりの魔物が完成した。
私は今背中に大きな布を広げ空を飛んでいる。
この非常識な状態は下に設置した上昇させるという力と風を巻き起こす使い捨ての魔道具によってなりたっている。
見た目は大きな扇風機なのに!
ちなみに使用後自壊する。
儚い……
そして私がこんな不安定なもので飛んでいるのも理由がある。
ペラさんのスキルだ。
形さえ整えば一緒に飛べるのだ。
ペラさん自体はマントを使って飛んでいる。
物理法則的には不可解でも魔法則では成り立っているように見える時もある。
そして遥か高く飛んで今。
「やっほー! ほら、確か魔法も使えるよね! 渦は視えるかい!」
「み、視えまーす!」
「じゃあ、中心は穴があるのも!?」
「本当だ!」
ふたりとも空気の音がうるさくて声を張り上げながら会話する。
台風の目みたいに不可視の渦にはうすいところがある。
ここの嗅ぎ取りはさすがにホラー時でもミスはしないと思う。
鼻は息をする時に使う器官でほぼ常にし続ける必要がある。
それを逆手に取って鼻だけは特に安全性をチェックしやくなっていて。
私の鼻もあの中心は危険度が薄いと言っていた。
「よーし、ついてきなよー!」
「は、はーうわああああぁ!?」
穴にめがけ急降下!
しかもペラさんは何か懐から取り出す。
ナイフ……?
この世界で魔物に打撃を与えるためのナイフは前の世界でいうなんとか包丁系より……太く重い。
対人用だとむしろ薄さを求められたりもするがだいたいの刃は対環境用。
魔物とそれらを取り巻く大自然。
なので歴史的にだんだん刃物が巨大かつ不可思議な変化をしてきたというものがある。
ペラさんの持つナイフは……見た目よりもその中身にぞっとした。
神の素材を使い神力を織り込んでニンゲンたちが打ちそしてニンゲンの手に使えるようになった品物。
それは神器にも匹敵するニンゲンの器。
宝具と呼ぶにふさわしい一級品だった。
エクセレントハイレア以上の品質は確実……
つまり国家が管理するような力を単独所持していた。
これこそ冒険者のたどり着く到達点。
絶大な信頼があるからこその所持だ。
私のはそう考えると結構ズルなんだよね……昔から宝具レベルとまではいかなくても規制レベルの武器持ってたし。




