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五百七十一生目 時渦

 私はその日から行動を開始した。

 まずは不落要塞遺跡ことンジャ・ログ城からだ。

 色々な過程はすっとばし空からの急接近を試みる。


 空には凶悪な魔物たちがうろついているものの逆に言えば素早い動きでどこかに飛び去る小さいのなんて虫以下の認識。

 あっさり包囲網を抜け地形なんて関係なく距離の離れた城まで到達した。


「うっ……」


 速いということは私にも負担がかかるというわけで。

 シートベルトなしの吊り下がりジェットコースター……

 他ふたりが平気な分なんとか地上までおりてもらい歩く。


 近くまで来るとその存在感は凄まじい。

 近くにはおそらく城下町があったのだろう苔すら生えないデコボコな大地。

 何度もしつこく高温で焼かれでもしたのか土質が普通の土と違う。


 ぶっちゃけ焼き固められている。

 朱の大地でも珍しい状態だ……

 そして何やりはンジャ・ログ城か。


 ……その場所は既に夢の跡だった。

 どこまでも立派に立ち並んでいただろう城は多くがまるで生気を感じさせない。

 そして目立つのはこの大地で岩と木材で出来ている点か。


 原型はほぼそのままだが横から見た感じ剥がれ落ちている部分も見られるか。

 しかし剥がれ落ちているのは時間による老朽化ではない。

 何かの力で壊されたかのような……


 ただ近づいてみて地上から接近できないと言っていることがわかった。

 接近すればするほどに不可視の渦が視えてくる。

 美しくも儚い朱き城は何かで守られているようだ。


「いや、これは……結界じゃない?」


 さらに接近し私の身体が跳ね飛ばされるギリギリに。

 私の身体を吹き飛ばそうとしてくる渦が触れた瞬間だけ可視化して(エフェクト)でえぐってくる。

 風とは違う。


 風は良くも悪くも空気の塊が重く弾き飛ばしてくる。

 しかしこちらは触れるごとに私の身体を魔力と拮抗し弾き飛ばそうとしてきていた。

 感覚的に言えばピリピリ来るだけで痛くない大きなハリセンで正面からはたいてくる。


 しかも連続なのでまあまあつらい。

 近づけば近づくほどただ跳ね飛ばそうとする力が増す。

 この渦はわざとこの場を隔離しているというより結果的に発生している?


 これに近しいものはよく見たことが有る。

 凄まじい力の奔流の周囲にあるものだ。

 実際城からもただものではない力は何か感じるし……


 時が戻って一定の時間で普段は停止しているんだっけか。

 だったら現代と過去の差がこの渦内外で変わるのかな。

 無理やり進んだら私の身体が過去に戻っちゃうじゃんやめて下がろう。


 なんで地上から入れないのかはわかった。

 逆にすごいよこれは。

 研究材料の塊で破壊を試みられなかったのがよくわかる。


 時を……戻す……そうだな……さっき触った感じから……


「おい、どうやら地上から入ろうとして諦めたようだな」


 だとしたらあっちの魔法式は使えなくて……ええっ!?

 いや……気配としてはわかっていた。

 気配上いくつかの生命反応があるし。


 ただそのうち1つが声をかけてくるとは思わず変な風に振り返ってしまった。

 そこにいたのはひとりのニンゲン。


「えっ?」


「うわ怖っ」


 大丈夫だ普段から鍛えてなければできないような関節の曲がり方をしただけで折れてはいない。

 ちゃんとした関節の向きで直して正面から見る。

 彼は体をマント状の布で覆い頭は露出している。


 バンダナを巻いて長めの髪が目にかからないようにしている。

 何よりも彼の怖いところは私をもってしても話しかけられる瞬間にびっくりしたことだ。


 ある程度自負はしているが私に奇襲はほとんど効かない。

 野生時代とても学んだからね。

 彼からはまるでそのような気配を感じない。


 いろんな生物は例えそこに何かがあっても動かず気配もないなら脳が気にしないようにする。

 彼はそれをごく自然にできている。

 近づけばそこそこおじさんなのもわかるのに遠くからしたらまるで全体像がぼやけるのだ。


 にへらと笑っているおじさんはまるで力の気配を感じさせない。

 そうこの感じ……すごく理解ができる。

 実力を隠している……!


「へへっ、あんたも斥候とかやるタイプの冒険者かい? まるでどこにでも溶け込んでいそうな実力の隠され方……おじさん嬉しくなっちゃうね」


「ま、まあ……私もするっちゃあしますが、もしかしてあなたも? まるで気配が自然の一部でしたし」


「ありがたいね、まあそんなところさ。それと、この城を攻略しようと挑み続けている身でもある」


 おお。

 ありがたいことに先の民だ。

 ありがたく話を聞こう。

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