五百六十七生目 秘密
偽名のハコビ。
ニンゲンとしての名前ハウコニファー・ビルズブレット。
そして化け物としての名前……むしろ仇名である死滅。
「ということは、単なるギフテッドじゃあ、ないんだよね……」
「そうだね、まあ、オレたちのようなパンピーには想像もつかないような能力で……オレも詳細はしらない。ただその能力は全てを滅わらせる。発動すれば、不落をも消し殺す……ゆえに死滅といわれているそうだ」
「そんな、あんなただの女の子っぽい子が……? それに、不落を死滅させるってまさか、要塞を?」
わざわざ"観察"もしていない。
というのも見た目だけじゃなくて普通にふつうの女の子の力量を感じた。
私自身が力量察知をある程度コントロールできるからコントロールしている気配にも敏感だがそんなことされているようには思えなかった。
実力と釣り合わない莫大な力を持っている……ということか。
「そう。あのか弱い子が枢機卿にまで上り詰め保護……または監視されている力を使い、不落要塞遺跡ンジャ・ログ城内部で根幹を見つけ次第、破壊する。前々から計画はされていた作戦だが、これまでは早急性がなかった。しかし、ピヤア団どものせいでそうとも行かなくなったがな」
気になる単語がいくつか出てきたが……
「破壊……なるほど。そういえばこう言うのもなんなんのですが……征火隊にとってピヤア団とは何なのですか?」
「癌」
1番気になっていたことを投げたら1番棘のある返しが来た。
何よりも今までの言葉と違って今のは一切の遊びがなかった。
いきなり心の奥底に眠る何かを引きずり出してしまったかのような。
彼の圧力が一気に変わってピヤア団にむけたもののようなそれが一気に霧散する。
次の瞬間にはいつもの軽い調子が戻っていた。
「ま、色々あってさあ、ピヤア団と征火隊のことはこちらのことだから……ってごまかすのは、今回はナシ、なんだよな」
「バレット」
今まで静かに冷たい目を投げかけてきた女性が声をかけた。
いきなりで私の心臓がびっくりしたよ。
声は優しい声音なのにどことなく芯の部分に冷たさを感じさせた。
「わかってる、わかった上で……説明せにゃならん。相手もトップクラスだし、変に情報を惜しむもんじゃない。あんたらも、並々ならぬ間柄なんだろう?」
「まあ、はい。実質上魔王を討伐する回りでも、そのあとたびたびちょっかいをかけてきたのもそうですし……その……私から申し上げても良いかわからないんですけれど、この大陸に来てからかなり色々と嫌な関わり合いを見てきましたし」
私はちらりとバルクの方を見る。
その顔にまっすぐ見つめ返されるものの……
目と匂いはほんの少し揺れた。
「……」
「バルクの爺さんそんな怖い顔しなさんな、だからこその癌なんだからさ。ま、癌を生み出せし我が教団の言えたことじゃないけどな」
「バレット!」
改めて女性征火隊が言葉を強く止める。
しかしバレットが女性を見て……
大きなため息とともに女性は下がった。
「いつも苦労かけてから悪いね、後で怒られるよ」
「そのときは、ワタクシも一緒に叱られます」
「ハハハッ、頼んだ! さ、どこから話すか」
「ピヤア団については後でまとめて聞きたいので、まず依頼の破壊について詳しくお願いします」
「じゃ、そっちからだな。ンジャ・ログ城は、当然多くの冒険者や領地を治めるものが挑んだことがある。詳しい仕掛けは後で資料を渡すが、とにかく空から入ろうと踏破すら無理だと言われている。その中身は、一定時間滞在したさいに必ず追い出されるということだ」
「えっ、なんなんですかそれは」
いきなりぶっこまれた。
それが本当ならとんでもない無理探索である。
話を聞く限り早く進めばどうにかなるとかではないだろう。
「しかも奥に行くほど時間制限が厳しくなる」
「うわあ……」
「そこで死滅の力だ。追い出される城の力、正式には時を戻す力だ。あそこはとある時間から変動せずループする力があって、そのループ時点で自分が居た場所の時間も戻される。だが、死滅の力はループを一時的に破壊することだけはわかっている。ループポイントで与え続けなきゃいけないけどな……あっと、ついてこれているか?」
「もはや、ワタシにはサッパリ」
「あ、私ならなんとなく把握できてますからお構いなく。つまり時間制限をハウコニファーが撤廃してくれるんですね」
このエゲツない仕組みは私が前世でこんな創作読んだよね〜ってならなくちゃついていけなかった。
本当に読んだか定かじゃないけど。
なのでバルクさんがついてこれないのは仕方ない。




