五百六十六生目 正解
バレットは顔の前で手を組み膝にヒジを置く。
これから話し込むからだろうか。
……征火隊女性隊員の眼差しが冷えたものから普通にかわった!?
こ……これはまさかマジモードなのか。
じゃあ真面目に話を聞かないと。
「……まずアンタから見て、ハコビという少女、どう思う?」
「……セクハラですか?」
「ちげーよ、好みかどうかって話じゃねえ。見てくれじゃなくて、どう映ったかということだ」
「……自由奔放だけれどおそらく貴族の子。教育がなされていて強気だけれど言うことが聞けないわけではない。それと……偽名ですよね」
「……なるほど魔道具要らずか。どうしてわかった?」
「名前を呼ぶときに、みんなから嘘のにおいがするんですよ」
「においときたか! ハハハッ、それ多分比喩とかじゃないんだろう!? すごいな! オレからは良い香水のかおり、するだろ?」
また若干冷ややかな目線が向こうからバレットに注がれだす。
……このように遠くからの目線が来ればちょっと咳1つで話が進む画期的システム。
「それで、本当の名前は?」
「ま、本当の名前というか……まず彼女がいくつかの顔を持っていることをお知らせしよう。まずは世間知らずな少女ハコビ。オマエも知ってるな。そして我々征火隊がよく知る姿、朱竜教フォンダター派枢機卿のひとり、というか教皇の一人孫ハウコニファー・ビルズブレット様」
「えっ!? お、女の子だよね!? 小さな!?」
「ハハハッ、驚いたか? もちろん見た目と年齢が狂っていることもなく、詳しくは伏せるが、ま、オレの好みの対象外ってことで理解してくれ」
「それでなんとなく理解できてしまう自分を恨みたくなるな……」
「そんでだ、当然単なる贔屓で枢機卿になれるわけがねえ。むしろカノジョは逃れられないから、あそこにいる。定められた運命として縛り付けられた、呪いとでも言うべきか……ところでローズさんよ、人は人の中に突然変異するものがいることは知っているか?」
「突然変異……? 前世の存在を名乗ったりする?」
「いやまあ、そういうのもたまにはいるかもしれないし、たいていはヤバイだけのやつなんだが」
割とこの世界では異世界転生者の存在そのものはポピュラーだ。
……ほぼほぼこう……「そうだね!」っていわれて処理される感じの。
本の中にある世界観だけれども現実味の薄い感じ。
たまたま出逢えばなんとなく納得してしまう部分もあるだろう。
だがそれが公にどうこうされるかといえばそうでもなくて。
一般的な反応は今目の前にいるバレットが示してくれた。
つまり違うということ……
異世界関係なく突然変異……あっ。
もしかして最近嫌な感じのやつと会って大変だったけどそれと似たようなものかな。
「じゃあギフテッド持ち、ですか? 他の人よりやたらと強かったり成長したり、何より特別な技能を持つという」
「おっ、知っていたか。さすが冒険者だねえ、情報の幅という点では1番か。そうだ、生まれつきの祝福、他の生物において抜きん出た実力の持ち主。それがギフテッド持ちだ。まったく生まれから格差だねえ!」
「私は……いま思うとギフテッド持ちだったのかもしれませんね」
「心当たりがあんのかい? 特殊なスキルとか、鍛えてないのに大岩持ち上げたとか?」
「いやそういうのはないんですけど、なんとなく今まで生まれてすぐから戦って戦って常に死にかけていたのになぜか生き延びてきたので……」
「お嬢さん……それはギフテッドじゃなくてただのバッドラックだぜ……というか生まれてすぐ戦うって何? 死の英才教育?」
なぜかかわいそうなものを見る目で言われた。
我が母の教育方針に間違いはないので安心してほしい。
「そこは良いんですよ、別に生死を反復横とびして致命的な病にかかったりもしましたけれど、今の本題じゃないので。その……ハウコニファーがギフテッドということですか?」
「そういうこった。その、お嬢さんの話も色んな意味で興味が尽きないんだが……ハウコニファーはギフテッドだ。神からの賜りもの……または、神の呪い。その側面を持つ者の名前は、死滅。人の名前じゃない、けれどそれこそが彼女に名付けられた1つの本名だ。かわいくないからハウコニファーでいいと思うけどな!」
死滅……それが名前?
ただギフテッドだというだけでそんな名前が?
まるでそれは……
「化け物みたい、か? そーだなー正解!」
「うっ」
やはり油断すると全部心を読まれるのやめてほしい。
私だぞ聞いているのか私。
それにてしても正解なのか……
そんなことが正解であってほしくなかった。




