五百六十五生目 歴史
復活でーす
凍える瞳は真っ直ぐにひとりを見つめていた。
バレットを見つめていた。
……なんとなく彼女がここに呼ばれていた理由がわかった。
「それで、この場所についても話しておこうか」
あっ。ほんのすこし目から冷凍属性が薄れた。
彼女が何も言わない段階ということはあくまでバレットにとってあいさつレベルの口説きだったわけだ。
実際少しずつだが話は進んでいる。
まずこの依頼で守るのはハコビであるとしっかり定義された。
正確には御者さんとツカエも含まれているもののハコビのオマケとして。
ぶっちゃけハコビが生きていれば切り捨てて良いとさえ言われた。
もちろんそんなことはしないが命の順番をつけるという時点で本格的にハコビを護らねばならない理由があるということ。
征火隊というヒーローたちが明かせない生々しい話。
「オレは君と生々しい関係になってみたいがね」
という言葉が漏れ聞こえたのをつとめて無視する。
ついでにその言葉で征火隊女性の目線が死ぬほど冷たくなったのもつけ加えておく。
開始時期は1週間後。
準備を終えて乗り込むことになる先は。
「おそらく海外にもその名を轟かせているだろうところ……不落要塞遺跡だ」
「不落要塞遺跡……ああっ!」
イタ吉の怪しいゴシップ記事で見た!
まさかここでその名が出てくるとは。
……うん?
あのあそこって空からしか入れなくて入った途端罠とゴーレムにすり潰される殺人迷宮って……
あれ? 私が連れて行くの小さな女の子でしたよね……?
「ま……本当はそんな名前じゃなくて、本来の……『ンジャ・ログ城』と読んでほしいんだけどね」
「ンジャ・ログ城……? それが現地での呼び方なんですか?」
「残念ながら、ワタシも初めて聞きました」
「それはそうだろう。アレのただしい呼び名など、もはや歴史家すら曖昧で……オレたちのような宗教家だけがなんとか繋ぎ止めている。この大地において、歴史など炎に焚べるものだからな」
その時に見せたバレットの顔はなんというか今まで見たことのない。
哀愁というか諦観というか。
一瞬で消えた顔はどこかしら深い感情をにおわせた。
入る方法とか中でのやり方とかの詳細をつめようとしたら「おまかせ」とか「そっちのやりたいように」というぶん投げ具合。
まあ冒険者に任せるという信頼でもあるのかもしれないけれど。
「というか、これを言ってはなんですが、こんなに立派な征火隊があるのに、なぜ本人たちが行かないのですか?」
「そこ突かれるととても痛いねえ! ハハハッ!」
軽快……いや軽薄な笑い。
痛いとはいいつつも先程の城の名前よりも遥かに気楽そうだ。
実際そうなのだろう簡単に口を続けて開く。
「実はその日、君たちがンジャ・ログ城の中でやることをやろうとすると、十中八九もう外が大変なことになるのよ。それを絶対に中に通さない、そのためには全員でかからないと……いや、それでも不安なレベルの戦いになる。まあやんないと世界が終わるけれど」
「えっ、何が起こって……って世界が終わる!?」
「まず何が起こるか。これは簡単だ、かの朱竜神とクソピヤア団どもの兵、三つ巴の戦争になる」
え……?
とんでもないと言うかむしろ意味のわからない話が飛んできたのだが。
これはもう聞くしかないだろう。
ここは彼がどれだけ笑おうと私がキレようと外に声が響くことも筒抜けになることもかなわない空間。
魔道具の彼何かずっとチェックしていると思っていたが嘘発見器ばかりに気を取られているわけではなかったらしい。
むしろ常にこの空間の隔離性に気を配ってチェックしているようだ。 複数の魔道具を駆使しあらゆる方面で話が漏れていないかを。
彼が何も言わない限り心配しなくていいだろう。
もちろん私の方でも気を回すのは前提で。
ちなみに密閉し結界を張る系の部屋はドアを1度締めたあと行動力を少しだけ使うようにしながら思いっきり強く閉めるともう1段階閉まったような感覚と音がする。
事実そうでちゃんとやらないと機能しないので注意しよう。
さて現実逃避から戻って。
「ちょっと意味がわからないんですけれど、そのためには結局この依頼で何を成し遂げるのかが大きすぎる疑問点ですね」
「ま、そうなるよな……よし」
バレットは顔に手をやってそのまま髪まで後ろになでる。
気合を入れたのか顔つきが変わった。
「ワタシも少ししかお伺いしていないが……正直、あまりに現実離れをしているというか……」
「まあ、そうだろうな。この国は、この大地は過去の積み重ねは等しく灰になっている。辿ることが出来ないから、そうならざるを得ない。だが、あんたは魔物で外国人だ。柔軟な思考、期待しているぜ」
「は、はぁ……?」
ついでに前世持ちだからまあまあ現実離れしていてもこの世界ならありうるかあ……で受け入れる気はありますよ。
いわないけど。




