五百六十三生目 追加
「征火隊の話をする前に、貴殿が海外から来たことを考慮してこの国の最大宗教派閥の話をしよう」
「宗教の……?」
既に嫌な予感しかしない。
宗教関係と聞いたときに即蒼竜の顔が思い浮かぶのをやめたい。
それはともかくなんとなくはわかるけれど……
なにせ征火隊である。
名前もそしてこの大地も。
なんとなくね。
「もちろんこの朱の大地では多くの宗教が朱竜様を神として祀るものが多い。最近では他国からフォウス教なるものも入ってきてはいるが……」
光教はニンゲンがニンゲンによるニンゲンのための宗教だ。
存在するのかしないのか不安定な何かを神として崇めつつ偶像崇拝禁止をしている。
ぶっちゃけ前世の宗教感覚的にはこちらのほうが近い。
こちらの様子をうかがいつつもバルクは言葉を続ける。
「たくさんある朱竜系宗教派閥なのだが、そのなかに強大だったり広く知られていたりする中で、最も古いとされる朱竜教、その名も始まりの派だ」
「フォンダター派……それが、征火隊が支える宗教ですか?」
「そうだ、察しが良いな。はるか昔からあるため、正直煉民主国民たちは国の治安装置より征火隊のほうが人気は高い。まあ、古いだけであって強大でも幅広いわけでもないから、主に首都にしか展開はしていないのだがな」
まあどこでもそういう象徴的な暴力装置というのはあるよね。
具体的に言うとヒーロー。
こいつらがいればこの街や国は安心というメンツだ。
バルクはしわがれ声を出すかのように……
しかし声の芯は常にはっきりと力強く出す。
「今回の騒動を受け、貴殿に出していた依頼を訂正する運びとなった。自由の称号を得しものよ、まずは詳細な話を見てもらいたい」
訂正……訂正ときたか。
確かに事前に話されていた依頼ではかなり不当なものになっていた。
ぜんぜん簡単なことではなかったし。
そういう報酬向上の話も……あるだろう。
しかしそれだけじゃないなこの紙によると。
……ああー。なるほど……
連結的な依頼……
もしもの時の選択……
そして今だ多くをしめる謎。
「自由には責任がともなう……単なる自由ではなく、勝ち取った力あるものの自由は。そこの名が正しく世に轟くためにもな」
「それは私もそうおもいます、けれどもこの内容……先程までの依頼を国際要人保護移送クラスに引き上げ、そしてこの依頼に連結して、同人物の少女を保護しつつ、古代の遺跡に行く、というのは……詳細が何もわからないのですが」
そうこの紙。
高価な白い紙を使いもったいぶった話を振っているのにあまりにも情報がない。
とりあえず先程までの依頼は格を遥かに引き上げて報酬が渡される。
そして同時に続きの依頼を渡したいというもの。
詳細が少なすぎる。
こんなの普通は依頼としては通らない。
つまりはまあ普通の依頼じゃない。
相当ぶっ飛んだ……危険なものだ。
「詳しいことは受けなければ話すことはできない。我々としても貴殿の腕と経緯頼みで依頼をすることとなる。アノニマルースこと魔物たちの街の神、世界を救いし魔王討伐者……人や国とのしがらみが薄く、危険組織を追って朱竜の秘密にたどり着かんとするもの」
「……一体どこまで知っているんですか?」
「こちらも、ただの相手に出せる話ではなくなっている、という本気だ」
遠くで正答の意を魔道具が返す。
この依頼そのものが吉と出るか凶とでるか。
その答えを魔道具が返してくることはない。
ただ私の中ではこの依頼こそ大当たりなんじゃないかというカンがある。
今まで冒険者をやってきた経験上のカン。
相手の調べ上げがすごいという点も大きい。
なにせ私が言われた話の多くは冒険者ギルドでも秘匿情報となっている部分が多い。
相当高い承認がなければ私がアノニマルースと明確に関わりがある魔物というところまで情報が出せないのだ。
確か複数人信用のおける冒険者ギルド員が必要。
国をまたいでその承認がいるという時点でめんどうなのにそれでもか。
多分そういうスキルを駆使する郵便ギルドの連絡専門員を使ったんだらろうな……
私も念話とかなら飛ばせるし。
逆に言えばそこまでして……おそらく私がしばらく朱の大地にこれなかった日にちフルに使うぐらいで計画した内容。
しかも怪しい朱の大地冒険者ギルドだけではなく様々な国や組織を渡って。
そこまでして何事も無ければよかったとした。
しかし実際にはことが起きた。
ゆえに私はこの依頼を受けねばならなくなったのだから。




