五百五十八生目 全力
いくら腕を振りまくっててこちらの攻撃をほぼ的確に防いでいても限度はある。
多分理性があるのならば石程度ならば無視して適当に防ぎつつ本体を襲う。
まあ実際は全攻撃向けているので完全にそうはできないかもしれないけれど。
しかし理性はなかった。
石を素直に嫌がり顔を防ぐ。
そうなると一気に攻撃の幅が狭まるわけで。
何なら足の方も止まってしまった。
「おっしゃナイス!」
「後は任せなー!」
「恨み晴らさでおくべきか!」
何も言わずともイタ吉たちが動く。
スキルを使った加速か速い!
あっという間にロガの足元へ。
「へっ!」
イタ吉はスキルを使ったのかスイスイとロガの身体を登っていく。
むしろロガの身体を床にして走っている?
私の魔法も含めて重力が迷子。
縦だから長いのであって床を走る距離なら数秒。
しかも相手は私の猛攻……まったく効いていない猛攻を受けて止まっている。
気づいたときには首筋に立っていた。
私とイタ吉それにアヅキは"以心伝心"で繋がっている。
故に何をするかもわかった。
私は猛攻をあえて止める。
イタ吉はすんなりと目の横まで行って。
ロガが気づいた時には振り下ろされていた。
「今更遅えぜ!」
イタ吉たちが一斉に目を斬り刻むとロガは悶絶しつつもスグに反撃へ移る。
しかしそこからこそがいつものイタ吉。
そして切り札そのものでもある。
私の魔法で帯電した爪と尾刃が切り裂いて。
そのまま周囲に散っていく。
まとわりついた虫を追い払うようにロガが自分の身体をまさぐっている。
しかし早いのなんの。
あっという間に頭回りを3体とも駆け抜けていく。
身体を駆け回って目を刻むし暴れているロガ自身が自分を斬ってる。
普通そんなヘマはしないけれど理性吹っ飛んでるからなあ……
そして当然その間こっちがフリーになっているわけで。
「助かりました主。オーバーヒートも終わりましたのでここからです」
「まだイタ吉が時間稼いでくれているから、今のうちに大技準備しようか」
もう向こうは優先順位も対処方法もへったくれもない。
ならば存分に利用させてもらおう。
補助魔法で火力は上がっているから……
久々にやってみるかな。
4連極化魔法砲とでもいえるワザ。
「そこで這い回ってる虫みたいなイタ吉、主が時間稼ぎをご所望だ、しばらくうまく這い回れ」
「ああわか……なんで今微妙に蔑んだ!?」
アヅキは私以外の態度がえぐいほど悪いのは改めたほうがいいと思う。
そしてこの場にはいないが似たようなタイプで私だけに態度がえぐいほど良いホルヴィロスも……
それはともかくとしてアヅキは無事元に戻った手甲を構える。
アヅキの大技は間違いなくオーバーチャージもある。
ただアヅキ自体の大技じゃない。
ゆえにさっと腕を振り手元に現れたもの。
アヅキが取り出したわけではなく発生させたそれはまるで仰ぐための道具。
しかし用途としてはまあ間違っていない。
「これほど体が大きいとなると、こちらとしても当てる手間がないというもの」
アヅキは風を操る。
そのせいかしらないけれど空中からジャンプでもするように真上へ移動。
翼は折りたたんで横に回りながら。
そして相手より完全に上へこれた瞬間翼を広げてブレーキ。
扇に凄まじい力が集まって行きアヅキも大上段で構える。
これがアヅキ自身の大技!
「吹き飛べ、ストーム!」
明らかに行動力以上のものを削った力が風の塊となる。
激しく渦巻く風が可視化され光によってその存在感を激しく主張している。
見るだけで恐怖がわくようだ。
当然本来はそのままにしておくわけがない。
しかし理性が吹っ飛んだロガは無謀にもその風に爪を伸ばし……
振り下ろした扇が風の塊を弾き飛ばした。
「ブラスト!」
暴風とは猛烈な空気のパンチである。
向こうのパンチとこちらのパンチどちらが強いかの結果が出た。
風の塊が鉤爪を吹き飛ばし拳を腕ごと反対方向に飛ばして。
顔に当たって巨体が浮いた!
ついでに風に紛れてロガじゃない絶叫も聞こえたが気のせいだろう。
うん。
「グオオオオォッ!!」
「ふう……主へ見せるには及第点、と言ったところか」
「俺ごと殺す気かバカヤロー!!」
イタ吉はすんでのところで効果範囲から逃れていた。
そして逃れた範囲から仰向けに倒れたロガの上まで一瞬にして戻ってくる。
「お前でストレス発散!」
イタ吉が切ったその札は……鬼札だった。
武器の光が変わる。
単純な発光から……強調するような赤へと。




