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五百五十一生目 対決

 私は御者さんやツカエさんと最終確認を行う。


「……では、そのように。ただ、本当に?」


「ええ、撃退の方は任せてください」


「ドラゴンスレイヤーが直で見られるかもだなんて……驚きですね。こんな事態でなければ、胸を踊らせていたのでしょうけれど……」


「ええっと……その、普段兵隊さんたちが追い払っているのとは、何が違うの?」


「では、少しお話しましょう」


 御者のおじいさんはそういいつつ徐々に道からそれ出す。

 旋回の準備だ。

 確かに私も少し差異が気になるな……なんとなくはわかるんだけれど。


「まず、多くの場合人間の生活圏をおびやかしてくるようなドラゴン魔物は、朱竜様に追い立てられ、他の野良魔物に追い立てられ、か弱い人の住む区域にまで来るような、負け竜……まさしく弱者狩りに走る、小型や中型のドラゴンです。ドラゴンの誇りを失い、遊ぶように暴れ、我々人間の兵が集団で打ち払います」


 まあニンゲンも強いとは思うけれど……

 少なくとも生活圏でゆっくり畑を起こしているニンゲンたちが強いわけではない。

 経験値稼ぎに走っているわけだ。


「そして、逆に野生の中で生き、時には朱竜様のブレスすら受けて生還し、さらなる力を得て生物たちの頂点に位置し、より強い相手を狩るドラゴンたちがいます。彼らが、まさしくドラゴンの1つ。だが、それだけでは公にドラゴンスレイヤーとは言われません。やはりドラゴンスレイヤーと呼ばれる人物は……少人数で、強大な力を持ちながら暴れ狂う邪竜を、観測者の前で討つことで、初めてなりますのじゃ」


「つ、つまり……?」


「あなたがローズさんがドラゴンを倒す瞬間を、見届けて初めてドラゴンスレイヤーになるんですよ、ハコビ」


「アタクシが……」


 なんだかそういう話をされると緊張してきてしまう。

 ただまあとりあえず……

 連絡ついた相手でメンバー組めそうだ。


 私は(くう)魔法"サモンアーリー"を発動させる。

 承認を得た相手から喚び出す!

 まずはひとり目! イタ吉!


 イタ吉はイタチ型だけどひとり3つの体という私と対象みたいな性質をしている。

 1匹だけ尾が刃で大きいのが特徴。


 ふたりめはアヅキ!

 その姿はまさしく烏天狗といえばいいのか……

 山伏に似た姿をした烏魔物だ。


 この3匹で戦力十分!

 他にも連絡はいただいているメンツはいたけれどむりして呼ぶほどではない。

 ドラゴンは比較値が少し強い程度だったので。


 もちろん生命力と気絶耐性は異様に高いからそこは気をつけないと。

 後まだボスっぽい男がゴソゴソなにかしている……


「よし……これを使って……スイッチを入れれば……やれるんだな」


「グオオオオッ!! この枷が外れた瞬間、貴様ら全員っ……!?」


 ドラゴンが唸り牙を鳴らす。

 しかしその動きは突然止められた。

 ドラゴンについた装置が何かを注入している……?


「おいおい、喚び出されて早々だが……あれ、ヤバくないか?」


「姿が変わっていますね。非常に纏っているオーラがクサイですね」


 イタ吉やアヅキが顔をしかめる。

 私もただよいだした邪気じみたにおいを感じ取る。

 そして何よりドラゴン自体に変なオーラが纏って強烈な圧を感じる。


 風圧を腕で受けつつ目を細める。

 ドラゴンの姿は元々ザドラゴンという全長が見上げるほど大きく四肢を深く地面に刺して翼を背から生やした赤とか黒とかのまだら鱗がきれいに生えていた。

 それがみるみる膨らんでいく。


 試しに銃弾を放ったらオーラによって強烈な弾かれ方をした。

 なんというか撃っただけの私ですら手が痺れ弾丸がランダムに弾け飛ぶような。

 明らかに変身中まともな相手はしないほうがいい。


 全身の鱗に亀裂が入りその間を埋めるかのように気味の悪い甲殻が生えて割り込む。

 特に前足が顕著でドラゴンの剛爪を覆いさらに鋭く研いだかのような肉厚な剣じみた爪刃があらわれ。

 顔は頑強そうな仮面に覆われたかと思いきや片目だけが顕になる。


 その目は鋭さがない。

 目という器官としては不可思議な赤い光を放ち正気とは思えない様子が誰からもわかる。

 そして……光が収まると眼球が黒く染まり逆に虹彩は白くなる。


 悪魔の目……つまり。


「ピヤア団の変身させるやつだ……! しかもこれって、強制!?」


「また面倒な輩たちですか、アノニマルースとは因縁のような関係ですね……」


「関係ねえ、ぶっ飛ばすぞ!」


 イタ吉の単純明快な掛け声とともにドラゴンも咆哮を行う。

 それは先程までの唸り声ではない。

 そこに言葉としての機能はなく。


「ガアアアアァァァァッ!!!」


 身体を怯ませてくるような正気のない咆哮が私達に向けられた。

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