五百四十七生目 盗賊
そろそろ休憩が終わりかなと思ったあたり。
私はふと立ち上がって。
少し伸びをして……
「ツカエさん、ハコビを鳥車へ。おじいさんはいつでも出られるように。私は、少し話をつけたい相手がいます」
「……わかりました、さあハコビ、こっちへ」
「うん? うん」
「……承りましたですじゃ」
大人組は私の言葉に察したらしい。
私は足に力を込めると……
一気に加速して向かった。
距離はまだあるものの潜伏しているし向こうも何かの道具を使っているっぽい。
私が急速に動き出したら反応が変わった。
一気にこちらへ敵愾心を向けてきている。
そうあの集団気配は……!
「撃て! 撃て! 明確にこっちを狙ってる!」
「やってやれ! 舐めさせるな!」
「「うおおおお!!」」
盗賊たちだ。
いや本当に盗賊かはわからない。
なにせこちら明らかに商隊じゃないのに狙ってきている。
まあ通行料金をせしめる不法な輩も盗賊ではあるけれど。
とにかく向こうから闇の球や弾丸それに矢が飛んでくるのなら気にしなくていいだろう。
どれであろうと敵だからだ!
「ンッ……!」
「ちょっ、どこへ消え!?」
1歩強く踏み込んでいきなり縦方向の動きを加えた。
彼らの頭上に飛んだのだ。
当然ずっと見失うわけがない。
ただ彼らにとって私は速かった。
彼らが目線を上げた時は既に私は背後へ。
そして。
「ぐあああっ!?」
「ちっ、背後!」
剣ゼロエネミーを取り出し早速ひとりを背中からザクザク斬った。
素早くやれば1体の生命力を削りきって気絶させるのは可能そうだ。
もちろん"無敵""峰打ち"入り。
身なりがいかにも盗賊といった小汚い彼らの数を把握しつつゼロエネミーをぶん投げる。
変形し剣の持ち手がなくなってかわりにどんどんと刃が本体周囲を回りだした。
回転ノコギリのような……まさしくチェンソーだ。
たいていの相手ではめちゃくちゃ強い形態をドライに操作任せつつ私は魔法を唱えながら殴る。
素早く懐に潜り込んで殴り飛ばすだけで面白いように決まる。
向こうは盾なんてなくて1つの刃か2つの刃なせいだ。
「ぶほっ!?」
「ヒェェ、何かが飛んでくああああっ!!」
「やべえ! 剣みたいなやつに触れるな! 刻まれるぞ!」
「本体も動きがおかしい! なんだあの速さ!? 囲めねえ!」
私は囲まれないように1連の攻撃を入れたら下がる。
さすがに不意打ちでもないためすぐには沈まないが……
普通につらそうな相手もちらほら。
ここで使うのは地魔法"クエイク"と火魔法"フレイムウォール"。
2つを組み合わせる!
地面に拳を叩きつけるように魔法を放ち……
魔法ミックス済みのものが発動!
私を中心で一気に地面が揺れる。
それは光をもって地面にくっついてるニンゲンたちを一斉にふっとばす。
さらには割れたように見える地面から炎が吹き出す。
炎は盗賊たちを巻き込んで燃え上がり……
ただでさえ地震でふっ飛ばされているところに追撃される形だ。
その代わりあんまり炎そのものに威力は期待できない。
なにせ朱の大地にいるニンゲンだからね。
火への耐性が強いはずだ。
けれど残る火の壁と揺れが彼らの動きを徹底的に阻害する。
あちこちから悲鳴が上がる中私は確実に1体1体殴っていった。
こうなったら囲まれる心配はないので片っ端からちゃんと倒す。
「がはぉっ!」
「これで4人……」
「ぬがぁっ!?」
「よし5人……ん!」
これはいけない。
残りは剣ゼロエネミーにまかせてすぐに戻る。
鳥車の方では既に逃げる準備ができていた。
ただその向こう側から光る気配。
盗賊たちは2手にわかれていた!
「ハッハッー! さあ、ここを通りたくばあああ!? もう戻ってきている!?」
「馬鹿な! 早っ……」
向こうが動くが早いかこちらが間に合うのが早いか。
実はこっそり超低空飛行してきた私の速度にかなうわけもなく思いっきり蹴り込みが顔面に刺さった。
そのまま素早く連続で殴りに入る。
備えておいた地魔法"ランドホンス"を使う!
一斉に地面から低めの土槍たちが生えて盗賊たちの動きを縫い付ける。
「ダッシュ!」
「ハイヤー!」
私が掛けた声に反応して鳥車の手綱が振るわれる。
意味は駈歩!
一気に鳥車が加速していきその場から出発する。
私はこの場にいる盗賊たちをまともに相手にはせずすぐに鳥車を追った。
「ま……まて……!」
「合図、合図だ……!」
空に光が舞う。
派手な音と光……多分この盗賊達はまだ終わっていない。




