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五百四十六生目 花丸

 休み時。

 火の小鳥は何かと便利で鳥車の荷物として積まれていた火の魔石の上にちょこんと居座っていた。

 うまいこと魔力供給先の変化をできたらしい。


 私は昼時の食事をしながらツカエと魔法の調整を行う。

 火の小鳥は今パッと作り出しただけの幻のような現象。

 魔石の必要量から注意点それに今のうちだからこそできる細かいことも聞いたり話たりしていた。


 幻を現実にするためにはこまやかながら必須のテクがいくつかあるのだ。

 それが今重要なことだ。


「――ということは、魔力切れよりもむしろ警戒すべきは、魔力過多?」


「ですね。もしこの状態で魔力が膨れ上がれば、安定性を欠如して制御を外れるかもしれません。そうなれば……ただの魔法です」


「なるほど……頭が痛くなりそうだー。こんなにここで学びをしなくちゃならないんてね。量も質も優しくないよ」


「できることなら協力しますから!」


 ツカエが頭に手をやって倒れ込むような姿勢をとる。

 実際に倒れるわけではないけれど。

 ハコビは御者の元でせっせと手伝い……もとい遊んでいた。


 いわゆるなんでもやってみたい時期だ。


「アタクシがカルクックにエサを上げるから、エサ袋頂戴!」


「きをつけて接してくださいね……! カルクックが驚いてしまうと、なにをするかはわからないですか……!」


「大丈夫、大丈夫!」


 エサ袋から取り出されたのは根菜。

 人参のようなのだけど色が黄色い。

 さらに形も少し細長いものだ。


 朱の大地ではメジャーな野菜でどこでも見られる。

 味は人参のあまみにれんこんのような歯ごたえ。

 主な調理方法は茹で系で煮たりとか。


「はーい、あーん」


 恐れ知らずというか近くで見たらわりと大きくて恐いカルクックの正面で手をのばす。

 根菜の半分以上が手から伸びていて杖みたいだ。

 もちろんこのやり取りはカルクックも見ていたわけで。


「お、じいさんじゃなくてキミからもらえるのかな? いただきー」


 言葉は通じずとも雰囲気で察していく。

 サクッと大きなくちばしで根菜をつまんで折った。

 カルクックはモリモリと砕いて飲み込む。


 歯はないけれどわりと多くのものを食べられるとは聞いたことが有る。

 その代わり内臓に溜め込んだ石がすり潰すらしい。

 鳥ではよく聞く仕組みだ。


「ほら! 食べられた!」


「ああ……! ほら、前を見て……!」


「え?」


 振り返り満面の笑みで御者おじいさんに話しかける。

 しかしそれがいけなかった。


「残りもいただきー」


「ピッ!?」


 ……がぶりと。

 まるっと手ごと食べられてしまった。

 一瞬ハコビはフリーズしたのちに。


「やだー!! とってええぇ!!」


「お、お嬢様! 手をパーに、パーにするんです!」


 慌てた御者が気になることを口走った気がするがハコビの方が大事だ。

 ハコビは暴れようとして圧倒的に力負けしている。

 そのままでは抜けないのは必須。 しかし急に口から手が抜けた。


 手は開かれ中身がない

 そしてモグモグしているカルクック。

 手を開いた瞬間中身を舐め取って食べたのだ。


「大丈夫ですか……? 魔物の家畜たちはよくしつけられてはいますが、彼らは彼らなりの常識で動きますゆえ、油断はしないようにしてくださいませ……」


「わーん! ベトベトするー!」


「さあさ、手は拭いましょうね!」


 ツカエさんも気づいてそちらにバタバタと向かう。

 ハコビは噛まれてよだれだらけになった方の腕をしきりにふっているが……

 すぐエサ袋にまた手を突っ込む。


「グス……今度はうまくやる」


 すごい根性だ。

 大人たちが全員これは見守っていたほうがいい時と思ってあたたかい目になる。

 こういう気概のある子は将来強くなりそうだ。


「うんうんうまい……もっとくれるの?」


「こ、こんどこそ……!」


 覚悟の差が私視点からしたらすごいシュールだが……

 ちゃんと根菜をもってまずは1口。

 折れたら相手の様子を見つつ持ち替えた。


 今度は根菜を指先で持った。

 これなら……

 また1口つまんだ瞬間に指を離す。


 すると支えがクチバシに移り一瞬で根菜が食べられる。

 これは……成功だ!


「ふ、フフフ……どうお! アタクシだってできるんだから!」


「よかったですわい……!」


「ふう、うまいですねハコビ。それはそれとして、手拭きをどうぞ」


 ハコビが褒められていた顔を見ていて。

 その感情が鼻を掠めて何かの記憶が蘇る。

 それは昔私が幼い頃の嬉しい気持ち。


「良いね! ちゃんとできていた、はなまるだよ!」  


「はなまる……? え、へへ、なんだかおばさんにも褒められて良かった!」


 口から出た言葉は自然に思い出をなぞって。

 想いは誰かに受け継がれていく。


 手を拭いながら笑顔を見せるハコビ。

 その笑顔だけは確かに何の属性にもよらない彼女だけのものだった。

アップデート:少し最後の方に文を足して、情景がわかりやすくなりました

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