百五十九生目 三傑
"変装"での練習を終えて朝食を取り赤蛇や黒蜘蛛と会う時間。
まあ時計とかで決めているわけじゃないからざっくりとした感覚なんだけれど。
元荒れ果てた大地へと移動した。
私が向かう頃には既に黒蜘蛛がいた。
既に傷も魔物らしく癒えているようだ。
前脚にあったはずの傷も。
「おはようございます、今日はみんなはいないのですか?」
「お!?お、おはようございます……ああ、仲間は待機してもらった。我は戦争をしに来ているわけではないからな……」
やたらビビられたがまあ仕方ない。
まだ私がちゃんと交渉する前に私を含めて倒れちゃったしあんだけ戦闘した後ならビビリの対象ではあるだろう。
私だって後日ボコってきた魔物が普通に話しかけてきたらビビる。
「……コホン、別に戦いは戦いで追加で危害加えるとかいびるとかしないから、大丈夫だよ。これからそういうことを含めて話し合うつもりだったんだけれどね」
「ああ……いや、すまない。我自身負けた事が無かったから、なんとなくどうしたら良いかがわからなくてな」
傲慢ではなくただ事実を述べていると言った調子。
まあ負けたら死という事が多い世界でなおかつ蜘蛛たちの守護者扱いだったから本当に勝ちのみが存在価値扱いだったのだろう。
「ところでなんだが……」
「はい?」
「ここ、こんなんだったか……?」
「違うと……思う」
「……なんなのだこれは」
黒蜘蛛がそう思うのは仕方ない。
私も事情知っているはずなのに同じ想いだった。
目の前……戦場となり荒れ果てていたはずの大地は現在位置的な中央を中心点にニョキニョキと草花が生い茂り不自然なまでの成長速度で環境が緑化している。
きのこなんて凄い、いかにも食べごろどころかお化けきのこと化しそうな勢いで大きい。
確かに龍脈を引き直したらたまたまここに龍穴ができてしまったがここまで植物が育つだなんて。
「ま、まあ悪いことじゃあないんじゃない……?」
「む、むう、まあそれもそうか……」
互いにこれで納得するのが平和……
という感じのやり取りをしていたら赤蛇が遠くからやってきた。
……あ、めっちゃ驚いている。
「――うわっ!? なんだ!? なんでここに草が大量に生えているんだ!?」
ごめんなさい、私も分かっているけれど良く分かっていないんですよ。
気を取り直して。
植物は放置して私たち3匹は隅で近くに寄り添い集まった。
植物がグングン育つ中に入るのは不気味だというのが1番の理由である。
「それで、昨日は色々あったけれどそっちがその気じゃなければこっちは手を出しません」
「ああ……もう戦う気はない。俺は俺の配下に手を出す気がないなら、それで良いとすら思っている」
「さて、そちらの配下が出してきた降伏勧告だがこちらからも色々と話をつけたい。良いか?」
「うん、とりあえず良い話は聞けそうというのは聞いています」
万能翻訳機を2頭に渡して3匹で話し合い内容を決める。
ただまあ言葉にすれば簡単だが実際相手2頭は頭がそこそこ良くて自身の群れに少しでも不利益なことには敏感だった。
特に私側はともかく……
「この蜘蛛たちと同じ扱いになるのは困る!」
「何を! そちらこそさっきから我が群れにばかり不当な扱いをしおってからに!」
「それを言ったらそちらも先ほど蜘蛛側だけ有利になるように蜘蛛側の領域を多く引こうとしたじゃないか」
「ええっと……」
こうやって2頭でヒートアップしていってしまうため一応勝った私が2頭を抑える係に回った。
とりあえず話を聞いて分かったことは……
蜘蛛側はぶっちゃけ黒蜘蛛がブレーンの役割を果たしているため言えば何でも聞くため彼らの良い未来は黒蜘蛛の頭脳にかかっている。
何でもというのは何でも。
誰と誰が子をなさせるのかも戦いのために誰が犠牲役を担うのかも。
死ねと言えば喜びも悲しみもとくになく淡々と死ぬ。
とは言っても手先とはまた違う。
彼らは彼らなりに勝手に生活していてブレーンである黒蜘蛛を象徴として集った仲間内での殺し合いは極力しないだけだ。
食事の取り合いは勝手にするし生活圏は各々勝手にある。
ただし呼べばどこからでも駆けつける関係だ。
だから個々に今回私たちとの話し合いを理解させて活かすのは難しいが全体としては黒蜘蛛が完全に代表として私に降伏することは可能、ということだ。
つまりは黒蜘蛛の下に蜘蛛たちがついているところに私が黒蜘蛛の上には立つが私はそれぞれの蜘蛛に直接的な仲間関係を見出すのは難しいということだ。
実質蜘蛛全体が私の配下だがいちいち黒蜘蛛を通す必要はある。
まあ私としてはそこまで困らないかなと言ったところ。
ぶっちゃけ蜘蛛たち全員の食事確保は難易度が高いし管理も面倒。
それならば普段は黒蜘蛛に丸投げしても問題ないこの体系で良いだろう。