五百四十二正面 出張
スレイカが笑いながら話した内容をまとめた。
つまりこのままでは実家の仕事を継いで金持ちから冒険者まで相手をする大きな衣服店を継がなければならなかった。
スレイカの実家である店はスレイカの冒険服も卸しているように防具店としても名高い。
それを着てスレイカが成功側に回れたのが一番のすれ違い部分となった。
つまり実家としてはスレイカがこのまま元冒険者が自分も着て無事でしたと服を売り出してくれればすごい効果がある。
さらに材料も冒険者ギルド経由が大きい。
顔がかなりきくようになるため実家に戻さない理由のほうが少なくなっていた。
もちろんそれなりに資産も築いたので家族としてはさっさと危険な職から引いてほしいという気持ちはわからなくもない。
今後もそうそう資産が崩れないだろうし。
ただスレイカの肌感覚ではまだ行けるため拒否。
代わりの条件として家に夫を入れることになった。
ただそのままではスレイカは相手に失礼だと判断。
自分で全ての複雑な点をさらけ出しても付き合ってくれる相手を見つけ出すためお見合いをする。
もちろんスレイカの容姿や実家はかなりいい。
とんでもないオッサンたちが狙うようになったが……
スレイカの打ち明けでだいたいが避けていくようになった。
そしてその先で出会ったひとり。
実は元々『冒険者スレイカ』のファン。
依頼をするものとされるものの関係で会っていた。
知っていたふたりは自然に惹かれ合ってゆき……
価値観のすり合わせも行って。
「めでたく結ばれるってわけかぁ〜!」
「うふふふふ、まだ気が早いですよ……もう少し、互いの家で調整がいるんです……ローズさん、わたしたちが結婚した時はお便りを出しますから、ぜひワープで会いに来てくださいね」
「んっん……その時はもちろん、ぜひ。ところで、その髪ちょっと舐めんんんん!」
「ん? ローズさん? 今何か……?」
「いえ! なんでも!」
「ほえー……」
良かった全員まともに聞いていない。
いや! 背中をこちらに向けて震わせているやつはいる!
蒼竜め……!
私も今何を口走るのか私自身もよくわからない部分がある。
先に口から出てなんかその後に思考が追いついてくるような。
いやあかなり酔ってきたな……!
そのせいか酔ってると思いながらもなんか酔ってることにめちゃくちゃポジティブ。
いいんじゃないたまには!?
私だって酔いたい時はある。
「マスター! 酒ぇー!」
「お客さん、水飲んでよ水」
「うおお、水うまい水うまい」
「う、うふふふっ、そんな暴れるように、ふふふふ水……ふふふふ!」
「はああ……割とちょっと舐めたら……頭とかきれいに整えられて……いや……んんん」
まずい。
だいぶ場が混沌としてきてた。
酔っ払いたちの集大成と化してきている。
私はともかくとしてだいぶ舌の回りがおかしいスウマと壊れた機械みたいに笑ってるスレイカがまずい。
蒼竜も若干苦笑い。
その日は結局ふたりが満足するまで飲んでいた……
翌日。
私は酔いの冷めた体で蒼竜へ会いに行った。
蒼竜は普通にバーで作業をしていたので簡単に会えた。
「……というわけで、こっちはたまたま偶然ここに来たわけだけど、そっちは?」
私はとりあえずこちらの事情を話す。
といってもなんら狙ってないせいで百の偶然なんだけど。
「なるほど、ざっくり言うと君もきな臭さを嗅ぎつけたわけだ。まあ僕も、少し気になることがあってここにも店を開いていたんだけれどね」
「そんなにあちこちにあるんだ……大丈夫なの? そんなに店を作っても」
「うん? ああ……もしかして、ローズたちみたいに分神が1つしか作れないとでも? そこは神の格が違うんだから、全世界にいくつもの僕がいるよ。そのうちの1つくらい、この大陸に忍び込ませるくらい簡単な話さっ!」
「ああ、うん、なるほど……」
それで腑に落ちた。
蒼竜にとって1つの場所にいるのは1つの場所に縛られることを意味していないのだ。
私よりもずっと自由な身分である。
悔しいが大神に比べたら神格は複数の分神に対応できない。
それと同時にわかったことがある。
肝心な時にいないのは単にサボっているだけで別に来られないわけじゃないな……!
「それに、別に趣味でやっているだけじゃない。ほらあそこ、この像をひっくり返すと……僕をイメージしたマークが掘られている。そんな作りが建物全体にあるから、自然にここにいる者たちだけには僕に想いが寄せられるようになるんだ。出張版蒼大地だねっ!」
あのなんだかザワザワした気持ちはこのせいかー!




