五百四十一生目 上戸
蒼竜が言ったこと……
帝国で蒼竜が動いていた件だ。
蒼竜はなぜかその筋で有名な部分があるらしい。
世界中に顔を出していて不審がられないのだろうか。
まあ同一人物だと思う方が無理はあるのかな。
その間にも雑談は進みお酒も進む。
私はその話をきいたり流したりしながらナッツを食べ酒を飲んで。
……先にお酒がなくなってしまった。
「おや、そろそろみなさんに、お水も出しましょうか」
「おや、ありがとうマスター」
私達は水を受け取り喉に流す。
ふんわりと果物のスッキリとしたかおりがした。
うーんおしゃれ。
「そーくんは、結局なんでこの街に?」
「うーん、あちこちに手を広げてはおきたかったから、その一端ではあるんだけれど、最近はどうやらかなりきな臭い話を聞くようになったからねえ……まあ、酒の席でする話でもないけれど」
それはそうか。
詳しくききたいけれどそれをやると絶対はぐらかされそうだ。
それに私もぶっちゃけ……まぁまあやばくなってきた。
さらに酒も進んで私の場合はナッツに苦戦して。
食べるたびに謎の悲鳴を上げかける。
くっ……おいしい!
それはみんなも同じようで。
「うあー! うまい! マスター! カクテルぅ、もういっぱい!」
「うふふふふ、ふふふふふふふ、ふふふふうふふうふふ、おいし、わたし、わたしはおつまみもう少し……」
「おおう……すごいことに」
蒼竜も少し引く程度にふたりはアルコールの効果を十分に発揮させていた。
まあ今の所客は少ないけれど……
スウマに至っては居酒屋飲み一歩手前だ。
バーは基本的におしゃれである。
そして酒を楽しむ。
酔ってはしゃぐ方向性とはだいたい違う。
「ふたりとも、バーなんだから飲みすぎたり、はしゃぎ過ぎたりしないでね、ふへっ」
「「はーい」」
もはや私がたしなめる側に回るしかない。
蒼竜最初の目論見から外れたこととなった。
賑やかながらなんとも不思議な光景が続くことになっている。
まずスレイカ。
わかりやすく笑い上戸である。
普段は物静かだからこそ結構
「それでさーどうなのよローズさーん。うちのメンツで誰かイイヤツいた?」
「いや、イイヤツって……私はまだ、そういうのは良いかなって思ってて」
「またまたー! アタシたち、マジで死ぬ時は死ぬよ? 見つける時に見つけなくちゃあさあ!」
「そう言って……スウマさんもふふっ、ふふふ……! ぜんぜん、相手の噂を聞きませんよ?」
「いやいや、アタシはまだこれぞって相手がいないだけだから。まだこれからだから。それ言ったらスレイカはどうなのさー!」
うわあスウマは絡み酒だ!
どんどん無駄に距離を詰めてくる。
「うふふふふ、ふふっ、わたしにその話、振ってもいいと思うのですか?」
「……え!? す、スレイカ、まさか相手が!? 嘘だあっ! スレイカ、普段はそんなこと一切言わないじゃないかぁ!」
「そんなぁ、話すことじゃないですからねえ、ふふふふふっ」
「えーっ! 誰々ー! スレイカの相手だなんて誰なのー!?」
「うわお、スレイカさんお相手本当にいるんですねぇ、んんん」
食べたナッツが無理やり意識をピンクのモヤにかけてこようとする。
なんという強力な力。
これがパイロン科の力……!
私は新しく告がれたなんか光っているカクテルを飲み込む。
間違いなくおいしいかおりのものだがなんとなく変な気持ちはする。
普通は酒を楽しみ間にナッツをつまむものでは。
「スレイカァ、ほらほら言っちゃいなよー!」
「そうですねぇ、うふふっ、教えても良いのですが、男性たちには秘密ですよ? からかわれてはたまらないので……実は、以前からお見合いをしていて、製布店の……その筋では有名な方とお付き合いさせてもらうことになりまして。結婚を前提なんです、わたし、冒険者を続けられるかもしれません……」
そっと小声で私達に耳打ちしてきた。
なんだろう。
聞いてはいけないことを聞いているようでぞわぞわする。
それは酔いのせいなのかなんなのか……
おっと気になることがあったような。
「ひええっ! おめでとう!! って……うん? 冒険者を続けられるかも? むしろ、冒険者をやめるほうじゃなくて?」
「ええ……実は、家の服屋を継ぐかどうかの瀬戸際だったんです……かわりに親が提示したのは、結婚して相手を家に入れること……けれど、そんな理由で相手と付き合うだなんて、不誠実だし、絶対にうまくいかないことはわかっていたんです……
けれど、お見合いを通じて、自分だけの相手を、うっふふふふふ、ふふふっ、見つけて、ふふふふふっ!」
うーん仲間内では衝撃の告白のはずが笑い上戸で台無しだ。




