五百四十生目 探偵
なんで私は蒼竜バーになんているんだろう。
パイロンの実で酔ってるせいかそんな気持ちが増してきた。
まあ誰もこいつが蒼竜だとは知らないの……だが。
「ええっ! マスター、ソーって言うの!?」
「そーくんって気軽に呼んでね!」
「マスター……思ったより気軽ですね……!」
すでにうちのメンツと打ち解け初めている!
蒼竜は偽名のソーを名乗りノリノリのメンツ。
これは私が真面目に対処しなくては!
「さて、こちらが注文の品です」
「はーい……おおっ!? ここバーだよね!?」
「少し皆様のお心に添えるように努力しました。お客様がた、冒険者ですよね? その独特の雰囲気や、節々から感じる力でわかりますよ」
「やっぱりわかっちゃうかなー!」
そりゃ私から逆算すればわかるわな!
さらに蒼竜は他者の心を条件付きで読めるっぽい。
私の"見透す眼"みたいだが私のは今想っている感情や思考で蒼竜は相手の根みたいな部分を理解するらしい。
だからなんとなく全員冒険者だとわかったのだろう。
まずスウマに出された料理はしっかりと焼かれ皿に出されたステーキ肉だった。
なんのお肉かはわからないけれどパット見で美味しそうとなる程度に良い品質のもの。
ここがレストランなら煙を上げた分厚いものが運ばれてくるがここのステーキはすでに切り分けられていた。
煙やにおいも薄めでおそらく冷ましてある。
でもおいしいように加工してあるみたいだ……
それらの下にあるのは豆のサラダ。
あっちもおいしそう……
そしてお酒も。
豪快……なグラスはさすがに置いていないものの大きな氷が沈んでいてキレイな酒だ。
なんとなく豪快さと華麗さが合わさっているように見えて良い。
「あっ……これって……」
「当店自慢の1品、チーズだよ。付け合わせたピクルスと共にどうぞ」
「お……おいしい……! こんなに2つが合うなんて……!」
さらにスレイカは渡されたピクルスやチーズを食べて感動していた。
ちょっと気になっちゃう。
さらにスッと出されたのは比較的小さな器。
最初の寄りは大きいけれど透明なお酒が入っているようだ。
スレイカは感謝しつつ受け取り飲む。
ホッとひと息はいたあたり美味しかったらしい。
蒼竜がなんやかんやべしゃりしているのを横で聞き流しつつ私は私の食事を受け取る。
……なんかでかくない?
いやきのみがでかい以外は普通のナッツ和えなんだけれど。
備え付けの器具がナイフとフォークの時点でおかしいでしょ。
え?
これ酒と合わせる気ある?
「それは迷宮から取れた珍品、オオマルパイワンの実を、お酒に合うように加工したよ。食べてみると不思議にお酒が進む、とてもいいものだよ」
「は、はあ……」
「これが合うお酒です」
隣にコトンと置かれたのは辛めかもしれないが普通のお酒に見える。
そんなにおいだ。
とりあえずいただきます。
ナッツは硬かったがなんとかナイフが通る。
ひと口サイズに切ってから口に運んで。
私はここで覚悟の場所を間違えたと確信した。
口の中から噛むほどに伝わる不思議な魅力の味……!
これは。
パイロンの実……!
しかし先程の説明や私の知るパイロンの実とは似ても似つかない……まさか!
近種ッ! 嘘だろうわざわざ選定してきたの!?
くっ……蒼竜が見せる顔が苛つく。
酒を飲んで流し込んだ。
辛めの味わいが子の木の実とよく合う。
私を酔わせたら向こうも困るだろうに……
むしろ酔わせたら互いに困るという重圧で私がうろたえて耐えるのを面白がるのか……!
私は酔っても正体を明かさない自信はあるし蒼竜もそこは踏んでいる。
蒼竜のことをうっかり呼んでも酔ってるのならば誰も気にしないという戦法か。
くっ……蒼竜め……!
「それで、冒険者の方々がココに来るということは、ご依頼もあって?」
「いやあ、今日は仮のメンバーであるローズさんがいるからね、少し奮発したってわけで」
「わたしたちも……たまにはこういうお店で……飲んでみたい!」
「うん? 依頼?」
「ああ、ローズさん、ここは確かにバーなんだけれど、同時に情報と探偵を請け負っているんだ。凄腕でね、狙った情報は逃さないと言われているとか」
「そんなことを……」
「ええ、僕の実益をかねてやらせてもらっています」
そういえば蒼竜って探偵もしていたっけか。
なんでここにいるかはわからないけれど。
「ゲ、ゲフンゲフン。その、普段はどんな感じの依頼を?」
「頼まれれば割となんでも。依頼主のペットがどこに逃げたか、夫の不倫相手は、それに……国を狙う悪は誰か、とか」
蒼竜が言ったことは私にしかちゃんとは伝わらないだろう。
それでもなんとなく空気感が締まった気がした。




