五百三十九生目 戦闘
私は席に蒼竜はカウンター内に戻った。
「あれ? ふたりは知り合いだったの?」
「いやあ、それは……」
「すごいです……! こんなイケメンさんと知り合いだなんて、わたしたちにも紹介してくださいよ……!」
苦笑いしか浮かばねえ!
ファイトだ私。
顔を整え尾を整えよう。
「いやあ、少しだけ知り合いで、ほんと偶然なんですよ」
「まあ、数年来の仲ですから」
「えっ!? そんな深い仲なの!?」
「ふ、深くはないから!」
「またまた……」
なんだかふたりともすでに雰囲気で酔ってきている気がする!
ニヤニヤしている蒼竜を睨みつつとりあえずお酒を出してもらう。
全員に違うものがスッと出されてきた。
「まずは、軽いものからどうぞ」
全員に共通しているのはきれいな器に小さなお酒が注がれている。
私は"四無効"があるので毒で扱いのアルコール程度は貫通されない。
ただし毒じゃないとして一時的に受け入れることはできる。
蒼竜にも出来ないテクだ。
「……おいしっ! お酒じゃないみたい!」
「そちらは、よく食前酒としても使われるもの。飲んだ感触が非常にさらりとして果物系の酸味で、飲みやすいのに残る香りが特徴です」
「……これって……昔、父が飲んでいたものに近いような……」
「当店のメニューとしてはお出ししていないのですが、たまたま仕入れられたので、僕のオススメとして東洋酒を少しだけ。特別なまろやかさがあり、本国では浴びるほどに飲む者もいるのだとか。さすがにこの国で、そんな遠くの酒を浴びるように扱うわけにはいきませんが、その気持だけでも」
くっ……普段は全存在ばかにしているようなやつなのに謙虚なふりをしおってからに!
さて私のものはなんなのか。
ふたりは少なくとも喜んでいる。
まず匂い。
少なくとも劇物みたいなにおいはしない。
アルコールってどんなにおいだっけ……
たまに勘違いされるけれどアルコールそのもののにおいってすごく薄いんだよね。
ただアルコールと共にのったにおいをすごく広げる。
飲みまくったニンゲンが酒臭くなるのはそのせい。
まあ悪い香りはしないし危なそうな色でもない。
とりあえずあおってみればわかるだろう。
どれ1口……
……これは!
「すごく正統派に美味しい」
「それは果実酒のひとつで、よく熟成されくさみが取れたお酒になっています。また製造過程でアルコールの多くがなくなるため、まさしく1杯目に優しいお酒となっています」
蒼竜がキュッキュッとグラスを拭きながら教えてくれた。
なるほどアルコールが少なめで優しい……
……うん!?
今グワンと来たぞ!?
あ……あれ。
アルコールは少ないはずでは。
というよりなにか覚えがある。
なんなんだこれは……
私しか見えない角度で蒼竜が不意に嘲笑う。
ぱ……パイロンの実!
こいつパイロンの実で作った酒を!
私の種族的体質としてパイロンの実はアルコールより酔うんだ。
しかも毒素とはまた違う。
嗅覚などから情報を受け取った身体を通して脳が酔うような快楽情報を出すらしい。
脳が麻痺したり受容体に対して疑似ホルモンをぶつけるでもなく自分で勝手に出してしまう。
すごい悪い言い回しをしたらおいしいもの食べて幸福感を感じるようなものごとに近いことが起こる……!
自分で勝手に脳を幸福で麻痺させるのだ。
怪しい薬ではないのに説明すればするほど怪しくなるパイロンの実。
しかし規制されないのは理由がある。
根本的に種族が限られるのだ。
それを得るとアルコールのような症状を遺伝子的に引き起こすごく一部の種族があるだけで後天的にならない。
根本的に他の種族には毒にも薬にもならない無価値な要素。
だから私も弾けない……!
まさかの盲点にやられはしたものの別に私はこれで倒れるわけではない。
なんやかんやパイロンの実には強いのだ。
蒼竜の思い通りになってたまるか!
「それじゃあ早速注文していこうかな。アタシは適当に肉と豆で。ローズさんは?」
「私は……ナッツ系のをなにか。スレイカさんはどうしましょう」
「わたしはマスターさんのおすすめで……あと全員分のお酒を、またお願いしますね……フフッ」
「承りました」
すでにスレイカは雰囲気的に気分が高揚していそうだ。
スウマはまったく平気そう。
雰囲気づくりのためかお店にはまったくメニュー表がない。
そしてこういうお店である以上出てくる食べ物はお酒の合わせだろう。
ある程度向こうに委ねるしか無い……
前世みたいなところならメニュー表含めしっかりしているだろうがここは蒼竜の空間。
ぜったいしっかりなんてしていないからなあ……!




