五百三十六生目 内臓
ホルヴィロスが何に悩んで色々聞いてきたかわからないが……
冷静に考えて普通に引かれているのでは?
という気分になってきた。
だって性格の側面がまったく違う3つが別れて同じような姿で作業しているってかなり奇妙な光景なのでは。
ちょっと焦ってきた……
「あっ! 別にローズのことをどうこう思っているわけじゃないからね!?」
「え? あ、また心が尻尾に出てた……?」
「ローズのことならなんでもお任せだからねっ」
元気そうなしっぽを見せてくれる。
ただその宣言はなんとなくこわいのでやめてほしい。
「じゃあなんなんだよー」
「いやええと、ドライ……?」
「そうだけども、他称はわかり辛えから統一してローズオーラで問題ないぞ」
「ええとそれじゃあローズ、心配かけないように言っちゃうと、これは僕の問題に関することなんだ。まあ今はめっっっっちゃくちゃ忙しいから後にさせてもらうけど」
「それでよろしくー! ええとこのキフ先ダンタイさんのハイゴカンケーは……まあ、今までテキトーになげていたおかねを、しっかりキフってカタチにするだけなんだけどねぇ〜」
とりあえずめちゃくちゃに忙しい時を過ごして。
ほぼ朱の大地派夜。
私は分裂を解除して天をあおいでいた。
いわゆるへそ天。
ホルヴィロスも白い身体が真っ白に燃え尽きている。
「ひ、一段落した……」
「ちょっと分神体が死にかけた……」
ひどかった。
これだけひどいのにまだ終わってないのもひどい。
ただまあ期限的な問題もあっていますぐ片付けなくてはならないものだけは片付いた。
夜はゆっくりできる……
「そうだ!」
「え?」
「ローズ、疲れたよね、疲れたよね! ついにローズにこれを使ってもらう時がきた!」
ホルヴィロスに流されるように私は運ばれて。
いつの間にやら部屋内に設置してあった回復植物カプセル的なやつに。
中に入れられて。
「ってええ!?」
「ローズ、癒やしてはいるけれどまたしっかり傷を負ってきたし、今の激務でもしっかり疲労したよね? だったら、ついに! 初めて! これを受けないとねー! 大丈夫だよ痛くないからねー!」
壁に自生している植物。
壁から生えているこれの口から中に放り込まれれば中から外の様子が見られる。
ホルヴィロスがなにか植物のスイッチみたいなものを引っ張るといきなり中からたくさんの液体がせり上がってきた。
おお溺れる!?
「ローズ、それは息を確保してくれる液体だから安心して!」
「おおおおぼぼぼ」
めちゃくちゃ慌てて犬かきをした。
……けれど中が薄いきれいな黄色の液体で満たされて気づく。
ぜんぜん息苦しくない。
これはもしや水中呼吸の魔法!
この植物がやってくれているのかな。
そして身体が浮いて気づいたのは何よりも。
楽。
急に身体にかかる様々な負担が消えていく。
絶妙に液体がぬくいのだ。
全身を温泉に浸したようなあたたかさ……
なんだか身を任せてしまいたいが浮いてはおきつつホルヴィロスのほうをみる。
ホルヴィロスはこちらを見てふと安心した表情を見せた。
「ホルヴィロス、そういえば……仕事中に言っていたことって?」
「ああ、それね……私の悩み……」
ホルヴィロスは自身の内側をモゾモゾと動かす。
ああ見えて実は植物の塊であるホルヴィロスは形の変化させてデフォルトで犬みたいな姿をしている。
そして内側から出てきたのはホルヴィロス唯一の肉質。
ホルヴィロスの内臓だ。
「それは……」
「うん。私の今は分神体だけれど……本体にもある私の弱点。けれど本来、この内臓は機能していないんだ。本来はこの内臓に、なんの意味もない」
「それが悩み……?」
ちょっと話がまだつながらない。
それはただしかったらしくホルヴィロスも否定する。
「ううん、この臓器、弱点だし消そうと思えば消せるんだけれど、それを消したらそれは果たして私として成立するのかがわからなくて……ほら、前言っていた、神は自分の存在確立を自分でしないといけないという話につながるんだけれど」
「ああ、私ならこのスカーフとか、他にも細々と色々あるけれど、自分が自分であることを確保しないと、神は自他の境界線がなくなって、自分というものがなにかに染まってしまうっていう……」
確かに昔神になりたてのころ教えてもらった。
自分がこの胸に生える石になってしまった感じで困惑していたんだ。
「そう……でもローズは、先程見せてくれた姿は、こんな短期間であんなに自分自体を確立している姿だった。服やパッと見の性格まで何もかも違っても、自分だって胸を張っていた。その姿を見て、自分のことを思っちゃってね……」
そういえば意識していなかったけれどスキルでわかれた私はスカーフを巻いていなかったりする。
けれど別にゆらぎはしなかったな。
これが慣れなのかな。




