五百三十五生目 三面
ホルヴィロスと3体の私がめちゃくちゃ忙しく仕事をこなす。
正直雑談もあんまりできないほどに。
それでもちょこちょこホルヴィロスは私達に話しかけるけれど。
「3匹……? の好きなものってみんな同じなの?」
「うんん〜? そうでもないかなぁ。けっこうバラバラだよお〜。わたしなら、あま〜いものがすきかなぁ。アイスもいいけれど、スライムをニツめてサましたグミみたいなのもいいよね〜。後は、おもいっきりソラをとぶのもきもちいいよね〜!」
「"私"ならやっぱ噛みごたえがあるもんかな。味よりも、口の感じで決まるな。骨のようなゴリゴリのや、筋の通った肉、身の締まった野菜もありだな。ただ……"私"は喰うよりも喰い破る方が好きだ。目の前の難敵、ヒリつくような強敵、引けないような大敵。そう、そんな奴らの喉を喰い破るのが好きであってこういうのは違うぅぅ!!」
「ほら働いてドライ、マジで終わんないから……私は、これ割と変だと思われがちなんだけれど、薄味のものが好きなんだよね。舌や鼻に残るような辛味や甘みはどうしても苦手で、後からふんわり香るのが好きなんだよね。あ、でも無味無臭が良いってわけじゃないからね。それと……走り回ったり読書したり、そういった時が好きかなぁ」
「びっくりするほど統一性がない……」
ホルヴィロスが驚いているけれど私としては元々こんなものだったからなあ。
私達は3つの身体をそれぞれ動かし効率よく働く。
私が視界内にふたりいるのはなんだかシュールだが安心感もある。
そして何かホルヴィロスは悩んでいるようにも見えるけれど……
「ホルヴィロスは、私達のことは一応は話していたよね? やっぱり変に見える?」
「いやいや! ローズが変だなんてそんなことはないよ! 魂もよく見ると同じだし……ただ、なんだか、これでみんな同じ自分だってローズは思えているのかなって」
「それは……なあ?」
「うん〜! むしろさいしょのころは、バラバラだったんじゃないかな〜?」
「え?」
「そうだねえ、むしろ互いが互いの脚を引っ張り合うというか……むしろ主導権の奪い合いというか……互いが互いの嫌いなところがあって、そのせいで常に不満を抱えているような状態になっちゃった。全部私なのにね」
昔は色々と大変だった。
私は水中も嫌いだし空も嫌い。
戦闘は苦手で血の味は鼻にこびりつくような甘みで嫌い。
それでも……
「全部、ローズ……」
「そうだねぇ! ぜーんぶ、いろんなめん、いろんなスガタ、ひっくるめてわたし!」
「私達は、私の1つの側面でしかない。バラバラなようで、みんな一緒じゃないようで、得意な姿すら違っても、それは私の1側面を強化しただけにすぎないから」
「まあ難しい話じゃないさ。あれこれあって、"私"達は乗り越えたんだ。自分は、どうあろうと、弱い部分含めて自分だって認めれてな」
「弱い部分も、自分……」
ホルヴィロスはなにか思うところがあるらしい。
少し考え込んで何かを飲み込もうとしているような……
ホルヴィロスの胸の内っていうのはなかなかよくわからない瞬間がある。
普段は好意100%で接してくるからこそ余計にこういうときわからなくなるのだ。
ただ……
「まあ私達は必要に迫られて、徹底的に叩きのめされて、見つめ直されたからね……」
「そもそもも〜っとらくをしたいのに、ながされてこんなふうにはたらかされてるもんね〜」
「余裕があるのに余裕がない……怠惰であることと忙しさに悩殺されることはほぼ同じものだ。勤勉さとはまた違う。だがそれも"私"の側面だ
」
「まあ最近は! 自覚的になったおかげで、だいぶ楽させてもらえているかな。それに……私自身が私の楽しさ、良さを見つけられたし。私は空や水にトラウマを持つけれど、同時にトラウマは過去のもの、私自身空を飛んだり泳いだりは嫌いじゃないし、それがまた新しい世界を開くのが良かったんだ。まあ、それはそれとしてあんまり揺らすと気持ち悪くなるけれど……」
「アハハ、そこはなれだからね〜! ツバイがちまちま本を読んだり、みんなと話し合ったりするのも、なんだかわたしもいいかな〜! ってなったしねぇ〜」
「ビビリで奥手な自分も、キュートなものが好きで愛されたいし愛したい自分も、そして本能的で暴力的で、押し通す我も"私"だ」
「言葉にするのは恥ずかしいけどね!? まあ結局のところ不安定だった私は、どんな私でも自分だって自覚を持てて、こうしてバラバラになっててもそれぞれ勝手に動いても平気になったんだよ」
「イバラのうごきがとまってるよ〜!」
「「おおっと!」」
アインスの掛け声で私ことツバイとドライの作業が再開した。




