五百三十二生目 危険
蹴りが頭上を通り過ぎた。
グフに対してストレートなタックルを仕掛ける。
グフは決めるための蹴りが思いっきり外れたことで避けられない。
私のタックルでグフの身体は宙に浮く。
ふっ飛ばすつもりでやったのでちゃんと成功した。
私はふっ飛ばされているグフに対してさらに接近。
拳を握って打ち。
さらに打って。
胴を狙って。
「おおおぉっ!!」
「ハアァッ」
腕を掴んで関節を逆に曲げて。
足を蹴って鈍い音を響かせ。
シンプルな殴る蹴る。
「んが、ガッ、ガアア!!」
それでも向こうは激怒に身を任せ折れた腕で防ぎ反撃しようとしてきて。
抑え込み。
叩き折り。
そして深い爪痕を描く。
私はそもそも剣士じゃない。
獣だ。
(もっとだ、もっと!)
ドライの赴くままに拳を振るい蹴り上げる。
私の腕や足が疲れない筋肉なのを利用して畳み掛ける。
私はアノニマルースの訓練で学んだ型を思い出しつつ技を出す。
アノニマルースではこの世界の武術の他に異世界の武術もある。
私も記憶を引っ張り出せる範囲で引っ張っているが……
それより遥かに実感がこもったものは転移者や転生者の本。
彼らがこの世界に技術を持ち込んでこの世界に落とし込んでいく。
だからこそ武技じゃなくても扱える技があるわけで。
踏み込みと同時に掌を叩き込み……
回るように2回蹴って。
細かく拳を叩き付けて。
上下の急所を同時に殴り打ち抜く。
ひとりの中でもっと強くなりみんなと強くなるために私自身の鍛え方も昔と変えている。
より戦い方を増やし。
より相手とのしのぎあいの仕方を覚えて。
結局私の根が……ドライの心が剣士には向いていない。
私の身体をフルに使って戦う時にゼロエネミーそのものは持つより自立させて戦ったほうが強い。
つまり私自身も肉体で戦ったほうがぶっちゃけ強いのだ。
防具の効果や私自身の硬さも含めて殴ったり蹴ったりしても身体が傷まない。
思いっきり攻撃した際に腕や脚の筋肉が悲鳴を上げることもない。
脳内興奮物質が出るままに人体の急所を狙った拳を振るい続け……
最後は膝で思いっきり蹴り上げた。
グフはまともに応対出来ずに宙へ浮いて……
落ち倒れる。
「あ……ば……ばか力……」
グフは言葉にならない言葉をパクパクと話したあとに倒れてしまった。
彼の背景は後で調べるとして……
オクマホのほうだ。
「ローズさんナイス!」
「まるで鬼神だなぁ!」
「回復はいる?」
「いや、大丈夫です。グフはもう 動けないのであとはオクマホだけですけど、だいぶ追い込みましたね」
4人もかなりのプロ。
戦闘は上位陣であればあるほど信じられないほどに戦闘速度が増すためこっちに速度があっている時点でだいぶ速い。
一般人から見る私達の戦闘って早すぎて目ではまったく追えないくらいだ。
オクマホは炎の攻撃を牽制に使いつつ物理的な攻めを中心に組み立てて反撃しているようだ。
炎系統の攻撃はすでにだいぶ防がれてしまうからね。
魔炎もつかうのを諦めている。
ただ……
「やぶれかぶれパンチ!」
「うわあまた来た!」
「回復回復! さっきより強いじゃないか!」
オオルやワンチが必死な顔をして8本の腕から逃れるように駆けて乱打されている。
しかも1発1発が重い。
変なこだわりがなければこっちのほうが強いんじゃあ?
そもそも火魔法に"ヒートストロング"がある時点で自身の筋力を補助しつつ殴れるわけか。
単純な乱打でもかなりの威力を誇るわけだ。
そんなサポートをする気はないが敵ではなく味方を助けないと。
前衛組に合流して剣ゼロエネミーに手をのばす。
剣ゼロエネミーがすっ飛んできて私の手内に戻った。
「「か、かっこいい……」」
今味方だけじゃなくて敵からも聞こえたような……
タコ相手に素手はあまりに分が悪い。
今度は逆に剣ゼロエネミーの"叩き付け"がかなり有利だ。
『よくはわからんが、そっちの揉め事は終わったらしいな! だが、キサマらはまだ俺の真なる焔に触れてはいない!』
念話を飛ばされている間も戦いは続く。
ワンチが前に出て棒槍でオクマホの腕連撃を受けつつさばき。
オオルは剣に生命力を吸わせて地面に指すとオクマホの足元付近から爆発が起こる。
おそらくあれが1番ダメージ効率のいい武技。
地面から叩きつけるわけか。
すぐにスウマから"ヒーリング"が飛びつつスウマ自体も鉄球を叩きつける。
『これは俺ですら制御しきれぬ危険な焔……! くっ、俺の3本腕が疼く……!』
ただオクマホの念話はただのハッタリではなさそうだ……
今までよりもゾクリとするような危険さを感じる。




