五百三十生目 極限
蛇腹剣ゼロエネミーは伸びるさいの運動エネルギーも大きい。
振られる惰性で伸びるというよりは自らの意思でグンと伸びるわけだ。
それは全身を使った屈伸からのジャンプに似ている。
その勢いで鋭く尖った先を使った突きを喰らえばグフがどれだけ固く防具も着込んでいようと……
その勢いで突き飛ばして。
壁にまでふっとばした!
「ゴハァ……!?」
壁に穴が空いて胴鎧前にもそこそこ穴が空いた。
"無敵"を使っているから相手は心情的にもだいぶしんどいだろう。
"峰打ち"も使っているから死ぬことはない。
ただ今の1撃はキマった。
グフは精神的にも肉体的にもしばらく立ちたくないだろう。
私はグフを警戒しつつ背後からの攻撃をゼロエネミーを変化させ盾で受けた。
『ぬっ、バレていたか! やはり水の攻撃は好かん、どうもうまくいかんからな』
オクマホが放ってきたのは水の槍。
結構重かった。
盾ゼロエネミーの防ぐ能力が高いから大した被害がないだけで。
ちゃんと見て対応したからね。
向こうからしたら見ていなかった瞬間だろうけれど。
オクマホの方では4人の魔法や武技が飛び交っていた。
そのうちの1つ光がこちらに来る。
私の身を包むと雷撃のような光が立ち昇る。
この力は……
「ごめん! 流れ弾がとんだ!」
「こっちは大丈夫ーオオルさん」
「今の魔法は、次の物理的な1撃だけかなり強くしてくれる魔法、役立ててほしいなぁ」
なるほど確かに力が溢れてくる。
使い捨てのようだが便利なのに違いはない。
遠慮なく使わせてもらおう。
『ええい! 俺を怒らせたな……ならば、もう手加減など擦る必要はないな! 全力を出してやろう……!』
最初から全力でしたよね。
そんなツッコミは心の中から届かずオクマホはさらにスミを吐き出す。
あたりに撒き散らすように吐いたら。
一気に姿が固まる。
それはまるで幻想のように。
「で……でっかくなった!?」
オクマホを頭部部分にすっぽりはめるように。
オクマホそのまま大きくしたかのような……
見るひとによってはまるでおぞましき海洋の神がごとき存在がスミで生み出されていた。
そしてスミたちが一気に燃え盛る。
魔炎だ。
『ふはははは! 恐れおののけ! 俺の最終兵器、俺による、俺のための力! 戦闘パターンを急に変えてきてかなり痛かったが、この上なら関係はない……キサマらはなすすべなく轢き潰されろー!』
オクマホはその8本の腕をたくみにうねらせて……
「"龍螺旋"!」
『ん? あ、な、なんだっ!?』
私が武技を発動させる。
この技は大振り。
まず発動前に大きく空に蛇腹剣が舞う。
そして折を見て一気に襲いかかった。
オクマホも何が来るかわからず防ぐ構えを取り。
その上から大きく薙ぎ払われる。
……防いだ腕たちが斬りふき飛んだ!?
なんという威力だ。
胴体にまでしっかり当たる。
「うおっ……! し、しかしこれおわぁっ!?」
"龍螺旋"のさらなる効果。
あたった箇所に連続して大爆発がおきる。
それはもう……纏ったスミがみんな爆発の渦に巻き込まれるほどに。
私の纏っていたインスタントな力が失われる。
これ……めちゃくちゃ強いな。
スミと爆発が晴れたところにいたのは。
グロッキーに陥っているオクマホ本体のみだった。
「ワンチさん、今の魔法もういっかい!」
「つ、つよ……あっ、さっきの魔法はスマンねぇ、1度使った相手には、少しの間また使えないんだぁ」
「そうでしたか、でもこの威力を見たら納得です」
「いや俺達同じ魔法もらったことあるけれど、こうはならなかったぜ……?」
「まあそれは、力量差問題でしかないからそのうちはねってっとっと!」
オクマホに対して追撃の構えをとってたらまた別方向で動きがあった。
慌ててターンしつつ避けるように跳ぶ。
斬撃の光が私に飛来してきていた。
連続でとんできて盾化したゼロエネミーで受け流しつつ。
最後は本体であるグフがやってきた。
剣化させてむこうが鈍く破壊するかのように振るう剣を受ける。
「まさか復活するなんて!」
「ツメが甘いんだよテメェはよぉ!! 後がない奴のこわさを知らねえ!」
何度も剣を受け弾くけれどそんなに剣戟は得意じゃない。
ただなんというか獰猛な獣がツメで襲いかかってくるかのような錯覚に襲われる。
とにかく背後に跳んでから急に前へ跳んですれ違う。
やっと距離をとれた……
それにしても追い詰められた、か。
見てみると唇から血を流している。
噛んで敵愾心を復活させたのか。




