五百二十八生目 距離
グフの暴れっぷりは見事のひとことだ。
三つ巴とはいえ5名を相手にして戦えるだなんて……
どちらが討伐対象なのかわからない。
そして。
『お、おお、おお!? まさか、本当に俺の臣下を2体共々倒したのか!?』
『倒させてもらったよ、力は強かったけれど、指示する係がいなかったから倒せたよ』
『う、うぐぐ……しまった! だが、それでもまさか負けるとは……!』
オクマホの念話に乗って返す。
悔しげにしているもののタコの顔はよくわからない……
それはともかく。
やはりオクマホは強い。
この乱戦でどうやら回復魔法もないらしく"ズタ裂き"の出血もなんとか止まったみたいだが。
大きな傷らしき傷が見当たらない。
どれもうまく防ぎそらしぬめられせて避けている。
常に動いている割に乱れも見られないし。
激昂しているようでいて立ち回りは冷静そのもの。
常にどうやれば勝てるかこの状況から抜けられるか考え続けている。
あの2体のスミゴンを出してもこの余裕……まだ生き残る技術はあると見てまちがいないだろう。
「うおおらあぁ! 雑魚どもめぇ! 俺様が本気を出せば、もう捕まるわけねぇだろぉ!」
グフは……強い。
来たばっかりだからそんなに生命力が削れてないのもあるんだけれど。
基本的に4人を狙い4人からの攻撃はオクマホに隠れオクマホは流れでなぐってすぐに4人の中へと殴り込む。
三つ巴という状況を凄まじく悪用している。
ちょっと感心しちゃうね。
納得はしないけれど。
というわけでまずグフを狙う。
私がグフを強めに見るとビクッとされてそそくさとオクマホの側によって戦い出す。
……警戒されている。
とりあえず直接前に突き進んでいく。
オオルとワンチもついてきた。
スレイカが後方で弾を詰めスウマはひと息つき道具を漁っている。
『まとめて燃えろ!』
「く、来るなら来い女!」
「それじゃあ、遠慮なく!」
オクマホの"魔炎"が構えてくる。
グフはオクマホに片腕魔法を牽制しつつ剣をこちらに向けてきた。
そして私は……
剣ゼロエネミーの真価は本来この形状でブンブン振り回すものじゃない。
より強い……より強大な力がある。
剣ゼロエネミー変形!
剣ゼロエネミーが複雑な形に一瞬で溝が刻まれる。
それはまるで蛇腹のように。
この状態で……
"回転斬り"!
武技を放つにはわりと距離がある。
けれど私は回転をつけて腕を引きながらぐるりと回り……
敵ふたりのほうに向かった瞬間大きく腕を振るった。
それだけで光を纏った剣ゼロエネミーは大きくその姿がブレる。
大きく姿を変えてリーチを伸ばす。
「「なっ!?」」
まさしく伸び食らいつく蛇。
ただしその横腹は全てを斬り刻もうとする。
オクマホもグフもタイミングを合わせてうまく出し抜くつもりだったのだろうけれど……
まだ見せていない手があるこちらの方が有利だ。
「け、剣が伸びガハッ!?」
「あの距離から双方にぐあっ!?」
「す、すげぇ、まだあんなことが!」
「高ランク帯が持つ武器、こんなにすごいなんてなぁ」
オオルとワンチに感心されつつ武器を戻す。
この状態だと遠心力でとにかく威力があがるから中距離で戦いたい。
それを察してふたりが前に飛び出てくれた。
オクマホは体勢を整えて空中から改めて魔炎を。
グフは魔炎を警戒して足取り早く跳び上がってから剣を構えなんらかの武技準備。
うーんどっちも直撃させたはずなんだけれど。
やはりとんでもなく強いのは間違いない。
生命力そのものは目に見えて減ったので戦闘を継続させるというのがとてもうまいのだろう。
とにかく蛇腹剣ゼロエネミーを連続で振るって向こうを防御に集中させた。
魔炎はどうしても広く攻撃はしてくるものの4人でも耐えられる程度には浅めの燃え方が基本だ。
みんなに火魔法"ホットスプリングキュア"で継続回復の補助をかけつつ……
『俺の抱く闇の焔で燃えろ!』
『"クールダウン"!』
火魔法のなかでも対象の熱を奪う魔法。
通常の魔法では相殺できるような力はないし対象が現象。
主に物質の熱を奪うのがこの魔法の力なのだから意味がない。
しかし魔炎は特性上絶対にスミを媒介にする。
スミは物質。
狙い通りスミの熱が急速に奪われていく。
私達のところに届く頃には弱火になっていた。
「「うっ! ……え?」」
『馬鹿な! 熱を相殺!? そんな使い方が……』
『今思いついたよ!』
そして私は火無効持ち。
この程度の火で痛むところはない。
スミを突っ切ってオクマホの前まで来て。
即武技"叩き付け"で大上段を叩き込んだ!




