五百二十五生目 二頭
敵側の戦力が一気に膨れ上がったせいで場のムードは落ちていた。
「ここはやはり、1度帰って情報を持ち帰るのが優先だなぁ」
「死んだら……元も子もないですからね……」
ワンチやスレイカも諦めムードが漂っている。
グフは倒れたままこちらの空気を様子見をしているようだ。
さっき不意に"無敵"を直接浴びた影響もあってかおとなしくしているようだ。
外では常に重い足音が聞こえたまに一掃するかのような炎の音が響く。
幸いなことに足は速くない。
さらに単独では負けると思われていて2頭固まって動いている。
このままではここが発見されるし……
よし。
やるか。
「じゃあ、私がドラゴン2頭を惹きつけるから、その間にオクマホ……"魔炎"マジックロードの相手をお願いできるかな。それなら、この状況でもなんとかなると思う」
「「ええっ!?」」
とりあえず口では話しつつもさっさと魔力隠蔽型の魔法行使で補助をみんなにかけていく。
時間はかかるけど相手が魔法探知可能でも引っかからずにすむ。
「確かに"魔炎"マジックロードを4人で戦うのは厳しいし、まだ手を隠していそうだけれど、抑えてさえくれればドラゴンたちをなんとかして見るから」
「い、いや、むしろ……ローズさんが大丈夫なのか……? ドラゴン2頭って……」
「そこはあまり心配していないかな。だって……わりとこのぐらいのピンチは抜けてきたからね」
私の確信めいた言葉にみんなの士気が少しずつかわる。
「まさか……行けるのかなぁ」
「もちろん! このメンバーなら行ける!」
「いえいえ、竜2頭の方ですよ……! 個人で立ち向かうだなんて、しかも少なくとも、オクマホが出した程度には強いんでしょうから……!」
「もちろん! ただそれには、作り出した側の"魔炎"マジックロードを抑えてもらわないと、指示や補助をされて押し切られちゃうからね」
「そ……それならっ! なっ!」
みんなの士気が再度立ち直った。
これならいける。
私は最後に効果時間の短い補助魔法をかけ終えて。
「わかった……リーダー命令! ローズさんはドラゴンを、私達はオクマホを叩く!」
剣ゼロエネミーは飛行と水棲の魔物に対して特攻を持つ。
それはオクマホに対してもそうだし……
おそらくはこのスミゴンたちに対しても。
驚異となる攻撃に対して主の命令がないゴーレムは単調に追っかけてくれるはずだ。
私は身を乗り出して剣ゼロエネミーを構えながら……
スミゴン2頭へ向かっていく。
改めて対峙するとデカい。
ゆうに10メートルはある。
時折角が天井をこすっている。
体格もがっちりしていて元がスミなのに鱗がしっかり体表を覆っていた。
頭から覗く鋭い相貌はむしろ本物よりも本物らしかった。
職人のつくる像みたいだ。
「グノオオオォォォ!!」
「ゴォォォォォォォ!!」
2頭が意味のない言語を発する。
ただまあ意図はわかる。
『よし! 見つけたか! いけ! 襲え!』
オクマホへの発見合図と恐慌与えだ。
私には効かないけれど威圧感たっぷりだしなんならうるさい。
剣ゼロエネミーを軽く振り脳裏で魔法準備完了の感覚がよぎる。
私は勢いよく近づいて相手の動きを見てから跳ぶ。
足元へ一気に魔炎が広がった。
もう1頭の竜は勢いよく首を振って向かってきたのでとりあえず壁に着地。
壁を勢いつけたまま駆け抜け赤い光を纏わせる。
このままだと質量で負けるからギリギリまでひきつけてから……
食らいついてくる瞬間に上空へ跳ぶ。
勢いそのまま慣性つけた状態で浮く。
上下逆さまになり敵はわざわざ自分から下げた首を真下にもってくる形に。
私だってそんなに剣術はうまくないが……
こんなパワープレイならできる!
ドライが剣でアインスが空中制御。
私ことツバイが試合運び!
武技"ズタ裂き"で頭から長い首をズタズタに切り裂く!
背中に咆哮を聞きながら地面に降りて駆け抜ける。
こわいこわい。
狙い通り片方は出血……出墨して耐久値が減少にはいっていく。
そして足が遅い2頭の背後をとったので。
足が遅くて的がデカく重量もあるのならこの魔法。
土魔法"Eスピア"!
まるで研いだ鋼の槍みたいに土槍が2頭の地面から飛び出す。
巨大で動きがなかなか取れにくいここでの戦闘ならば想像以上に効果的だろう。
発動させればたちまち2頭の身体を大きく貫くほどに巨大。
手応えあり!
混ぜてしまいたくない魔法なので遅らせてもう1発片方に撃つ。
向こうもこの程度で致命傷にはならないから力を込めて土槍を砕く。
さすがに敵内部に干渉すると一気に魔法抵抗力が高まるのは魔法界の常識。
もともと短時間高威力に設定してあったけれど急激に保持魔力を奪われ砕かれ光となって消えていく。




