五百二十四生目 愚痴
他のみんなが改めてオクマホを追いかける中私は横入りしてきたグフに対して近づく。
オオルもグフと睨み合っている。
「あのー、横殴りはやめてもらいますか? さっきもわざと私の頭ごと狙っていましたし、さすがに正当な理由はないと思って理由をこじつけ動いているようでしたから、だめなのはわかっていますよね? ですから――」
「――うるせえ! 偶然避けただけで講釈たれる気か!? 雑魚はすっこんでな!」
「……では、攻撃は故意と認めるんですね?」
「な、なんなんだよ……だったらどうした!」
それが聞きたかった。
まわりのみんなもグフすらも「
あっ」と言いたげな顔をする。
しかしグフはすぐに反論してオクマホのほうに目を向けようとしてから……
私は魔法を唱えつつ素早く取り付き組み倒して同時に影からとげなしイバラを取り出す。
さらに倒れた拍子に"無敵"をこめつつ頭突き。
さらには取り出したイバラをわざと高い位置に掲げてから武技"縛り付け"を発動。
「……は?」
そのまま昔近接戦闘術としてカムラさんやリビングアーマーに教えられた通りに関節をキメつつ上乗りになってしっかりと動けない体勢で縛り上げた。
「はい、大人しくして! 冒険者は互いにルール違反をおかした場合、相手を拘束する、緊急逮捕の権利があります!」
「あだだだだ!? な、なんだこの力、オレが抜けられねえ……」
「あーあ、相手が悪かったなあグフ、その方は――」
「ちょっと、何をしているの!?」
「――うん?」
こちらがグフ相手に奮闘していたら向こうから叫び声が。
見たらオクマホが低い天井ギリギリを飛びつつ何か力を溜めていた。
光を見る限りなかなか危ない力が集まっている……
『はぁ、はぁ、はぁっこんなにも数が来られるとさすがに……だが、まだ俺は本気を、本気を出していないぞぉ……!』
「みんな!」
「うん、距離をとって!」
私の掛け声にスウマが反応し全体指示をする。
私やグフ以外オクマホから距離を取り……
オクマホは自身の身体から墨らしきものを出して身体の外側を覆う。
『王たるもの、座して待つべし。ここは、臣下に任せた!』
王ではない。
とかツッコむまもなく墨の塊が放たれる。
それはオクマホ独自らしい魔術陣2つに導かれ……
竜へと化けた。
「「はっ?」」
全員が素っ頓狂な声を上げる。
それはこの部屋を圧倒的に狭くするような存在感。
黒墨でできた存在ながら……
圧倒的な生物としての力を感じる2頭。
オクマホが生み出した……いや喚び出しのか。
まだこんな奥の手を隠し持っていたのか……!
「い、一時退散ー!」
私達はスウマの掛け声で一斉に逃げ出した。
[スミゴン 能力本体依存]
[スミゴン 本来は存在しない生物。高度な魔力操作で何らかの黒い液体が竜の意志をもった。あくまで竜型ゴーレムであり竜そのものではないが、戦闘能力は非常に高い]
私達は物陰に隠れていた。
さっき去り際に"観察"かけたけれどシンプルに嫌な結果だった。
オクマホ1体ならともかくオクマホとスミゴン合計3体は私だけでいけば最悪ハメられて大打撃を負ってしまう。
恐いのは連続で攻撃が当たることでこちらが怯んでいるところに避けようのない攻撃たちがドンドンと来ること。
できることなら1対1を保ちたい。
「ぐっ、いい加減、離せ……!」
グフももちろん連れてきている。
拘束したのはいいけれどただただ邪魔ではある……
とりあえず持っていたお縄を離す。
グフは体勢を崩してたおれこんだ。
とにかくあちこち竜からブレスが吐かれている。
炎……ではなく魔炎のブレスだ。
スミゴンは自分の身体がスミなのに攻撃もスミを使っているのはなかなかズルい。
生き物ならば自分の血をバンバン放出しているようなもの。
それなのに耐久力に減少が見られない以上時間経過でどうこうはなかなか望めないか。
私達はうまいこと鉄砲水の流れている洞窟通路に隠れられたため向こうからはなかなか見つけられないだろう。
オクマホ本体による超広範囲魔炎は味方を巻きこむからしないだろうが……
逆に私たちが着火したらダメージはあるだろうけれど誰も近寄れない最悪な状態になるだろう。
水もだめだ。
オクマホはタコ……当然スミも水溶性じゃない。
粘度が低いだけだ。
弾かれるなりなんなりで終わりだろう。
まあ私も水魔法は得意じゃないし。
だとすればやはり……
「アイツ、報告よりもずっと危険度が高いじゃないか!」
「しかたないよ、直接戦闘はほぼ初めてなんだ。魔物によって追い込まれたら危険度が跳ね上がるやつもいるからね……」
オオルとスウマが愚痴をこぼした。




