五百二十生目 闇焔
浮かんだ"魔炎"に照らされてそいつの正体があらわになる。
マジックロードの全身はどこかしらぬめり光を照り返す。
頭と手だけのような構成で手は8本あり。
その頭は黒く巨大で膨らみ鼻や口が見当たらない。
2つの目だけがギョロリとこちらが隠れている方を探すように見つめていた。
…………タコだぁー!
そうかぁ確かに聞いていた話をまとめたらタコだ。
色が黒いとか触手たちから手のような指があるとか大きいとか差異はあれど。
"観察"!
["魔炎"オクマホLv.66 比較:そこそこ強い 危険行動:ダークフレア]
[オクマホ 普段は海の底に群れで暮らしている。トランス前の個体たちを引き連れ大きな煙幕結界の中で賢ク生きる]
[魔炎 ニンゲンたちがつけた2つ名。その炎は魔力を燃料にどこでもなんでも燃やし尽くす]
やっぱり"魔炎"だった!
マジックロードことオクマホはその腕2本を前方で組む。
『フッ……俺の抱いた漆黒の炎に、誘われた虫がまた1匹……近くにいるのはわかっている、通路ごと焼き払われたくないのなら、姿を見せるがいい……』
……えっ。
なんなんだろうこの……えっ。
とりあえず念話で言っていること的にはまだ時間が稼げそう。
今のうちに空魔法"ステルス"と"サモンアーリー"を準備。
念話を飛ばして……
『"魔炎"マジックロードを見つけたよ』
『え! だったらすぐそっちへ……』
『いや、まとめてこっちにワープさせるので、そのかわりすぐ戦闘する準備をお願いします』
『えっ!? あっ、えっと、ちょっと待って!?』
多分スウマがみんなに伝えてくれるはずだ。
その間に私は他の魔法で補助魔法を足して強襲準備。
「おーい……おかしいな、俺のカッコいい台詞に惹かれて出てきてもおかしくないものの……いや、まだだ、まだそうと決まったわけじゃない……思ったより遠かったのかもしれないし……」
やっぱり正確な位置を掴みそこねているようだ。
それ以上に気になる部分はあるもののツッコんだら負けな気がする。
そもそもこっちのこぼしている言葉は私に聞き取れないと踏んで直接喋っているし。
私は潜んだ場所から動かず様子をうかがう。
オクマホは組んだ腕をといて自身の頭をかく。
『おーい! 燃やすぞ! 脅しではないからな! きっとそちらはハッタリだと思うだろう、しかし! 俺の魂に抱く闇の炎は、以前この迷宮を騒がせ、この洞窟内で暴れていた魑魅魍魎たちを、全て灰燼と化した。逃げ場などないと心得ろ!』
……なんか……
一応ある程度は情報と一致するんだけれど。
なんか……誇大広告していないかなキミ?
念話を全方位に飛ばして聞かせているとかいう無駄に器用なことをしているけれど。
『俺の抱いた闇の焔は水ごと燃やす! そうっ、あれはっ、過去、俺が海にいたころだ……』
なんかはじまった。
『あの頃は退屈だった、どいつもこいつも俺の力を認めようとしなかったし、なによりもあまりに安穏としすぎた環境だった。誰も己を鍛えようとはしない……ただ惰性で生きていくだけの堕落しきった生活。俺の抱いた闇の焔がうずき暴れるのを必死に抑える生活だ……しかしある日、俺はより広い世界を見てくることを仕事にしろと託された。一度出れば生きては故郷の水に帰れぬ過酷な道……もちろん俺は喜び勇み、その役を受けた』
つまり故郷で暴れてたから体良く故郷から蹴り出されたわけだ。
『俺は過去すら焼き尽くすモノ、故郷の海を後にし、世界の常識を学んだ。やはり俺の頭脳と抑えきれぬ闇の焔は、広い世界のためにあったのだ。学び、強くなり、迷宮を渡ってここまで来た! ここを俺の迷宮とし、俺が帝王として君臨するための王城とする! だからこそ、余計な虫は今のうちに払うのだよ!』
なるほど外にでてテンション上がってなんやかんやうまく強くなっちゃって調子に乗っちゃったと。
これはあれだ。
だれかがお灸をすえなくちゃいけないやつだ。
彼はより大きく腕たちを振り回して仰々しくポーズを取る。
いちいちこう……なんというか……
いやこの世界はわりとこっち側の力を普通に扱えるからアレなんだけれど……
『大丈夫、いつでもいけるよ!』
『わかりました、待機してて、ワープしたてで送ったら総攻撃で』
おっと念話が混線する。
遠くからスウマの念話がきた。
「仕方ない……顔くらい見たかったんだけれど」
そしてオクマホは念話じゃなく声でつぶやく。
相変わらずバレてはないらしい。
『さあ、おしゃべりはここまでだ! 俺の抱く闇の焔はもう抑えきれん、消えろ!』
そして念話でわざわざ攻撃を押しえてくれた。
なんだろう……悪いやつでは……なさそうなんだけど。




