五百十九生目 深淵
グフたちと出会った。
鉄砲水の向こう側とはいえ互いにくってかかりそうな勢い。
「やい! オマエひとり置いていっただろ! こっちに流れ着いてきたぞ!」
「アアン? 誰かと思えばてめえらか! オレ様が"魔炎"マジックロードを狩ると言っただろう!? こんなところまできて文句垂れやがって、こいつらはオレ様の信念のもとに動いている、誰を切り捨てようが盾にしようが了承済みだ、オマエたちに何を言われようとな!」
「「そうだ、そうだ!」」
取り巻きたちが取り巻きたちらしくグフの発言を支持する。
逆にいっそのこと清々しいレベル。
「知らねえ! 力があるからってなんでも許されてたまるか!」
「うんうん、そんな無法地帯、生きづらいだけだもんね……」
「はっ、弱虫共の遠吠えなんて知るか! 弱そうな飛び入り女にチビスケの猫、どんくさいだけのトカゲに奇抜さで目を惹こうとする女、そして気が強いだけでひょろっちい女と、しょべえしょべえ!」
「「しょぼいしょぼい!」」
その時。
みんなの悪口を言われ力をもつことの傲慢さに私もイラッときたが。
それなのにみんなはまるで「あっ」と言いたげに声を潜め1点を見ていた。
……私を。
なのでさっきまでヒートアップしていた場がなぜかどんどん冷却されていく。
さすがになにかおかしいと向こうもすぐにきづく。
困惑した空気が流れた。
「な……なんだ? ともかく、オレ様が"魔炎"を見つけ倒す。邪魔するなよ!」
捨て台詞だけ吐いて足早に去っていく。
向こうもこちら側が先に見つけららたくないのだろう。
よし……ちょっと努力して見つけるか。
「みんな、みんなと私で別れて行動していいかな? 斥候して先に見つけたい」
「え!? 良いけれど危険……ではないか、ローズさんなら」
「それに、二手に分けれたほうがこの広い空間では早そうだしな!」
「頼みますね……」
「先にこっちが見つけたら、どう連絡しようかぁ」
「あ、私が念話あるんでリーダーに常時繋いでおきます」
「べ、便利……!」
スウマに"以心伝心"をオン。
念話程度のやり取りなら現状でも負担を駆けずやれるはずだ。
「送りました」
「……あ、きたきた。助かるよ」
「それじゃあ、先行きます!」
私は脚に力を込めて……
軽く全力で駆け出した。
「えっちょっ」
「は、はやぁ!?」
そんな声を後ろで聞きながら。
みんなに見えない位置まで行ったら4足形態に戻りさらに速度を上げる。
さらに光神術"サウンドウェーブ"と"エコーコレクト"で遠くまで音を広げる。
広がった音は私の耳の中へと帰ってきて……
大雑把だが脳内マップが補完される。
疑似エコーロケーションだ。
多分この近場からはわかりやすい力の波動を感じない。
つまりはもっと深く。
もっと先へ。
グフたちよりも先だ。
普通なら魔物たちへの警戒もあって速度を飛ばし続けるのは危険。
それに冒険を楽しむのならこんな片っ端から叩いて回るだけの作業はしない。
飛び入り参加な分私がみんなの手助けにならないと。
地面を蹴り曲がり角で壁を蹴り。
やはり"魔炎"マジックロードの影響か明確に敵意を持つような攻撃的魔物が少ない。
ある程度なら速度で振り切る。
そのまま角を曲がって……
多少の鉄砲水なら床を蹴って天井を蹴って床につく。
そして出来得る限り時間ロスなしで駆け抜ける!
いやあこうして動けるのも前単独行動時に慣れたおかげ。
普段は重りを背負っているから身体も軽い。
そのまま遠くまで駆けていく。
かなり奥地にきた。
最速で迫ったはず。
むこうからの発見連絡はまだない。
割と長く進んだしなんだか暗いを通り越して真っ暗になってきた。
さすがに真っ暗は高速移動の障害になる。
光神術"ライト"で周囲を照らしながら進む。
さすがにここまで来たら道のりはともかくわかる。
濃い力の気配。
撒き散らしているのではなくにじみ出ているような強者のオーラ。
本人の持つレベル的エネルギー量がそのまま外部に影響を与えている……
こういう場所では特別なものを摂取しやすく高く売れたり便利なものになったりするのだが。
あえて無視して駆ける。
やがて進んで進んですすんでいった先に。
深い暗闇の空間を見つけた。
そこはまるでグルシムがいたような深淵……
そしてしっかりと存在感がある何かがいた。
それはこちらにも気づいているらしくゆったりと腕を動かす。
すると空中に青黒い炎がいくつも浮かんだ。




