五百十七生目 水中
あれは持ち上げというやつではない。
むしろ懐疑心というものの塊だった。
別に私が魔物ではないかと疑ったいるのではなく。
「本当にアタシたち、必要だった?」
「絶対いりますってば」
……凄まじく上にみられたがゆえの疑いだった。
私達は泳いで更に進んでいく。
そろそろ浮上ポイントを探すときだ。
とにかく私が実は鬼のように強い力を隠し持っていてそれなのに荷物持ちをやらせてしまっているのでは……みたいな不安げな懐疑心。
色々やめてほしい。
……力は実際いろいろ隠しているし。
…………みんなが必要なのどちらかといえばこの国に馴染むのと情報収集だし。
「なんというか、格が違うって本当にこうなんだなって実感しちゃった」
「最初あった時まるで強さが感じられなかったけど、そりゃあこれだけ実力差があるっぽかったらなあ」
「えぇ……」
普段は抑えているだけなのだ。
無駄に放っていたら威圧だけでは済まないかもしれないし。
っていいたいが余計に誤解を与えそう。
「やっぱり……あんな特別な銃の持ち主は、特別……」
「冒険者としてそこそこやってきたけどなぁ、ここまで強い相手と組むと、自分の道半ばさを知るばかりだなぁ」
「ほんと、私もみんなに助けてもらってなんとか今日まで生きてこれただけだからっ」
「「本当……?」」
それはマジなので信じてほしい。
私は最初からこうだったわけではない。
ソロの強さにいたっては最近見つめ直し鍛え直したところなんだし。
あんまりに別格だと思われてもやりづらいが……時は進む。
その後もちょくちょく戦ったり浮上して休憩したり。
なんやかんや打ち解けて話をしつつ。
やっと上から見たときに向こう岸が肉眼で見える範囲まできた。
……上級冒険者たちは何よりも行動速度が早い。
私たち魔物組と比べてもそこまで遜色がないほどに。
それを今実感しつつもそんな一般人から見たら全力疾走し続けるかのような移動力でやっと向こう岸が見えるあたりこの距離が馬鹿にできないと実感した。
すこし位置がずれただけで明後日の方向に行くというのはこのスケールの大きさゆえだ。
さらに複雑な水流と迷路であみだくじのように侵入場所が違うと全く違う反対岸につく。
私達は順調に目的地付近までこられていた。
「別の2つ名魔物!?」
「あぶねっ! 今までのやつらとだいぶ違うぞ!」
「私は補助を全員にかけきる! その後に一斉攻撃を!」
「なんだか行ける気がするのが不思議なんだよなぁ」
「ローズさんがいるなら……抜けられます!」
多少ハプニングに巻き込まれてボロっとダメージをもらって回復し……
みんなにまたとんでもないものを見たような目線を向けられつつ。
やっと水中から見て絶壁の山にたどり着いた。
つまり。
「やった! この上が向こう岸!」
「ついについたかぁ!」
みんなで感慨深く話す。
さすがに二桁を超える戦闘回数となると互いに信頼感があった。
私はここにヘルプで来たけれどすでに馴染んだ気はする。
……ちょっと目をつけられはしたけれど。
やっと川底から上がり岸上へとたどり着く。
もうほんと……
ほんと嫌なんだよなあ水中。
もちろん私は私自身を乗り越えたから随分とマシになったと思う。
記憶はあるから嫌な原因もわかるし無事な記憶のほうが大きい。
それでも顔をしかめるのだけは許してほしい。
私達は河から出てゴーグルを外し身体をぬぐう……必要もなく魔法で弾かれている。
なのでそのまま進んでいく。
「アタシたちの目標、"魔炎"のマジックロードはこの先、河中の蟻巣と呼ばれる場所だよ。また大瀑布があって、そこから落ちないように底へ向かうと洞窟があるんだけれどそれが複雑な分かれ道になっているんだ。それが蟻の巣みたいだからそう呼ばれているんだ」
リーダーらしくスウマが説明してくれる。
"魔炎"マジックロードのいる場所はただでさえ面倒な水中洞窟の巣穴どこかか……
多分かなり大変だ。
だからこそその中から見つけ出すのには時間がかかり。
グフに出し抜かれる可能性が低くなると。
とりあえず陸上は急がないと……
大瀑布の迷宮というのは伊達ではなくて今さっき通ってきた濁った大河だけではない。
陸を通ってもあちこちから滝の音が聞こえてくる。
この段差も迷宮の厄介な点になる。
迷宮は深く探索しがいがあるものの今日の目的は決まっている。
陸地はズンズン進みやがて向こう側へ。
そこではまた大河が広がっているもののさっきとちがって大瀑布付近ではない。
「ここから降りてほぼ真下……のはず。そこに目的の巣穴があるよ」
スウマの言葉にみんなうなずいて先へ進んでいった……




