百五十六生目 龍穴
「どうやら思ったより効果があったみたい。これで少ししたら大丈夫だと思うよ」
「本当ですか!?」
「ついにか〜!! やってやったぞ!!」
妖精たちはハイタッチしたあと空中で跳ねて踊った。
どうやら私の血の分は元が取れたようだ。
魔法の光が舞い散る中でゆったりと休みつつ経過を見守った。
「うん良いみたいだね!」
1時間ほどでエフェクトが収まって工程終了した。
いざやることがなくなると見守るだけだったが最後までちゃんと動いてくれて良かった。
地魔法"ジオラークサーベイ"を唱えて龍脈の動きを探る。
「……うん、ちゃんと龍脈が水の流れと交わって通るようになったみたい」
「やった! じゃあこれで……!」
「集落へ戻ってみましょう」
空魔法"ファストトラベル"!
僅かな時間で場所が移り変わり泉の湧く集落前へと転移した。
「あらいつの間に帰ってきたの?」
転移後私たちの姿に気づいた集落の妖精が話しかけてきた。
ただこちらの妖精はそれどころではないという態度で、
「泉、泉の味は!?」
「あ、泉が……!」
小さな集落内に響く声は必然とみんなを泉に目を向けさせる。
私もこんこんと湧く泉に目を向けると徐々に泉が輝きを持ち出した。
これは驚いた。
目に見えるほどに龍脈の力が混ざっているのか。
"魔感"で感知出来るそれも泉にみちみちる力として現れている。
溢れんばかりのパワーが泉に水とともにやってきていたのが全く無くなったら、そりゃあ活力もなくなるよ。
ファンタジー的に言えば『飲めば疲れが癒える聖なる泉』だろうか。
周囲に妖精たち……つまり魔物が殺到して根をはり水を飲む光景からは全く聖なるって感じはしないが。
まあ少なくとも恵みの泉に戻れたようだ。
「おいしい! 久々においしい水だ!」
「ああ……またちゃんとこの味が飲めるだなんて」
妖精たちが口々にそう言っているので私もちょっと気になる。
「ちょっと飲ませてもらって良いですか?」
「もちろん!」
「みんな! 私とコイツとこの方と協力して泉を元に戻せました! この方、ローズさんに教わった通りにやったら泉が回復したんです」
「おおー!」「すごい!」「何から何まですまないねぇ」「ローズさんすごーい!」
めちゃくちゃ褒められて少し照れる。
泉の水を少し舐めすくって飲んだらぐっと体中に染み渡るようなおいしい味わいだった。
喉越しも良くかおりも優しく包むようだ。
コレが本来のこの泉なのか!
いくらでもいけそうだ。
存分に泉を堪能したあと一旦みんな休もうということで妖精たちは集落に置いて空魔法"ファストトラベル"で群れへと帰る。
慣れない魔法記述作業で疲れたからね。
……ってなんだろう。
私の群れは戦場だった元荒れ果てた大地から数分歩いたところにあるからここに飛んだのだけれども。
"魔感"に感じるむせ返りそうなほど濃密なエネルギーが地面から噴出している。
見た目にも違いが現れていて苔やキノコみたいなすぐに生える品種が小さく既にこの地に生えている。
……もう一度地魔法"ジオラークサーベイ"!
数分唱えもう一度地の情報を得る。
(はいはーい……うわ、これって)
どうだったアインス?
(このばしょからリューミャクの一部がでてる!)
え、それって大丈夫なの!?
龍脈の力が噴出するって平気なのか!?
(ええっと……そこはダイジョーブ! あまっているのがでてるだけみたい)
そ、そうなんだ……
その後もアインスに詳しく調べてもらったがどうやら平気らしい。
そういえは前世でも龍脈には龍穴という龍脈の力が出る場所があるって言ってたっけ。
まさか新しく引き直したところに龍穴が出るだなんて驚きだが……
とりあえず問題がないならこのままにしておこう。
……私の血を媒介にしたのが大地に対して強すぎたとか、そんなことないよね?
ひとまず……どうしようか。
(置いといていいんじゃないかな?)
(いいとおもうー!)
……うん、ドライとアインスの言うとおり。
放置!
噴出していると言っても一帯の空気が濃く感じる程度で実害はないようだしそのままみんなが待つ元へと帰った。
時間がたって夜。
みんなと話して明日は改めて黒蜘蛛や赤蛇と話す事にする。
殴り合いの時は終わりここから話し合いのときだ。
とりあえずドラーグたちが聞きに行った内容になんとか良い返事が貰えるといいけれど。
今の内に話し合いの内容は少しは考えておく。
空は満天の星で月が2つ私たちを照らしていた。
「妹ー、起きているか?」
「うん? 起きてるよ」
インカだ。
珍しく単独行動で私の寝床(仮)に来た。
周囲はそこらで魔物たちが雑魚寝しているからあんまり関係ないけれど。
「いやあ、最近すごい目まぐるしくて、ちゃんと話せる機会なかったからさ」
「そうかな? そうかも」
確かにバタバタしていてインカとしっかり夜空でも見ながら話す機会はなかったかもしれない。
「まあ、あまりものの干し果物も持ってきたし、ちょっと話そうか」