五百十四生目 遭難
夜の見張りは私が申し出た。
私の探知能力からして誰も異論はなく。
そのかわり途中で交代するということで話はついた。
「まあ、私なら寝ながら探知できるので安心してください」
「頼もしいを通り越して、もう野生の獣みたいなんだけれど……」
「あはは……」
スウマのいうこと間違ってはいないからね。
隠しているだけで。
別にバレても問題はないのだが円滑に話を進めるにはこっちのほうが便利なのだ。
さすがにグフも夜は歩みを止めるだろうとみんなは判断した。
夜。
月も見えないので暇ではある。
なのでチマチマと魔法効率化理論について教えられそうな部分を書きまとめていく。
一応本の形にして正式なものとして売りに出すのはまだ後だ。
コレはあくまである程度わかっている相手彼ら向けにパパッとまとめるもの。
どうせこんな洞窟奥には来ないんだ。
暇も暇である。
魔物たちはチョロチョロと遠くにいるがまるで危害を加える気がない。
まあ炎を焚いていればたいていの魔物はこないものである。
たまに寄せられるやつがいるからそれだけが危ないだけで。
なので作業がはかどるはかどる。
こういうときは睡眠無効のスキルがありがたい。
眠りたい時に眠れるからね。
神の身体になったことで昔より断然眠りの質も上げられているので眠りまでの間隔もあけられる。
ニンゲンは戦いで24時間保てる強靭な狂人もいると聞くが私も今なら近いことはできる。
完全に眠らずとも肉体や脳の休憩はできてしまうわけだ。
時間も唱えれば出るタイプの魔法で把握してある。
……ん?
敵意……ではないんだけれど。
少し気になる反応がひっかかった。
私はメモを置いて立ち上がりみんなを起こさないように外へと向かう。
反応があったのは害意のない生命体。
ただ……流されて来たというか。
非常に生命活動が弱々しい。
これは溺れ流れついている……?
だったら何であれ助けなければ。
曲がりくねった道の先にいけば水との境目に人影が。
……倒れているらしい。
警戒心を解かずに近づく。
最接近して相手の状態を診る。
どうやら水を飲んでいるようだ。
ほうっておけば死ぬ可能性は高いため私かこのニンゲンどちらかの悪運が高かったらしい。
とりあえずちゃちゃっと前の相手と同じように回復させる。
気を失ってはいるようだが命に別状がない状態まで戻せた。
男性だが持ち運ぶのには問題ない。
手で運んで焚き火のまえに置いておいた。
身体が温まれば目を覚ますだろう。
……おや?
テントの中からひとり起き上がってきた。
「んー……? 交代そろそろだと思ったけれど、誰か別の人がいる……?」
「あ、スウマさん」
「ん……あれっ!? なんでグフの取り巻きがここに!?」
「え、そうなんですか? 溺れていたので助けたんです」
どうやらここで倒れていたのはグフの取り巻きだったらしい。
そういえばいたような気もする。
グフの印象が強すぎてほとんど
記憶にない。
スウマはそっとこちらに近づいてきた。
「溺れて……? まさかグフたち、この夜にも進んでいるの!? それで体力が尽きたやつを切り捨てて……なんてやつだ、今までよりも酷い!」
「何かを焦っているのかな……何か悪いことが起きていないといいけれど……いや、既に悪いことそのものは起きているか」
私は横目で起きない姿を見る。
正式な医者に見せたほうが良いのはたしかだけれど顔色はよくなっていっている。
「悪いことっていえば……今朝のあれだね。冒険者ギルドの摘発。グフも悪いヤツだし冒険者ギルドでの摘発だし、何か噛んでたんじゃないかな」
「だから慌てていたと……だとすると、グフはピヤア団の一員……?」
「ピヤア団? ピヤア団ってあの、
悪いことならだいたいしてるって噂の?」
「うん、捕まったのもピヤア団らしいから」
おっ。スウマが食いついた。
ピヤア団のことももっと深く聞きたかったんだ。
「へぇー! ピヤア団がこの街で潜伏していたんだ! ピヤア団なんて、ちょっと遠くの話かと思っていたよ。あ、でも……」
「でも?」
「ピヤア団と関係あるかわからないけれど……最近この国で不穏な動きがあるんだよねえ。まあ、一介の冒険者じゃあなんも関係ないけれど、なぜだか最近やたらと武具の流通が多いんだ。一体誰が買ってるんだか……なにより、おえらいさんたちが裏でコソコソやってるというのを、アタシもさすがに何度か聴いたことあるし、なんだかうさんくさくなっちゃったからそろそろ国を移動しようかって話してたんだよ」
今そんなことになっていたんだ。
予想以上にしっかりうさんくさい……




