五百十生目 和食
河の迷路を進んでいく。
とはいえ真上を流されないように張り付くように移動しているため迷路はそんなに攻略していない。
だけどまあ高い山になっている部分も多くあるし単純にまっすぐ突っ切ることは難しい。
「ここは、前来たときにだいぶ水流がきつかったところだから、下がって崖で水を受けつつ進むよー」
「うっぷ、水を飲んじゃいそう」
「口を閉じたほうが安心だよう、ローズさん」
スウマやワンチと共に慣れない私をカバーして共に進んでくれる。
強い水流があるところは流されなくても勝手に口の横から水が入ってくるんだよね……
というわけで素直に口を閉じる。
迷路の方へと降りていき崖に張り付くようにして泳ぐ。
迷路そのものもある程度彼らの頭の中にあるのか迷わず進行。
なお手早く使えそうなものや金になりそうなものを拾ったり水草を切ってバックに詰めているのは見逃さない。
私の中で魔法を使ったりして集めた情報を完全整理したもの……脳内マッピングを役立てる必要がなさすぎてすごい。
これが上級冒険者! といった貫禄だ。
ちなみにどこまで大瀑布が続いているかわからないほどずっと河が続いてきた地上の光景から考えてもこの河川内での移動時間はまだまだある。
数時間も泳いでいる私を誰か褒めてほしい。
ただ当然水の中で飲み食いして休むことなんてできない。
……いやまあやろうと思えば出来るんだけれど率先してやろうとは思わない。
それは上級冒険者たちの彼らだって同じで。
「よし、激流地帯を抜けた。この先に浮上できる場所があるよ。そこで休憩しよう!」
島のようになっている河の中州。
ずっとゴウゴウと音をたてて水が進んでいくさまは壮観。
滝は少し距離があるため腹の底に響くような地鳴音はしない。
ここでトンテンカンとキャンプをはって誰かが使ったあとの焚き火跡に私が炭を入れて燃やす。
本来は加工した木材をここのために使うらしい。
しけらず油をにじみ出し特定の火属性魔石と組み合わせればとても燃える草木属性魔石が練り入れられた高級品。
「おおー! やっぱり楽だなあ、その亜空間から出す魔法! こんなにも簡単に良さそうな炭であったまれるとはね。私も覚えようかなー空魔法」
「いやー、空魔法ってすごくコントロールが難しいらしいぜ。普通の魔法でもなかなかコスト高いけれど、空魔法はさらにコストがバカスカなんだってさ」
「ええっ!? そ、それを連発して大丈夫なの、本当に?」
「ええまあ、暴れ馬ほどちゃんとさせると凄まじく楽なんですよ。なんなら、ちょっと魔法自体の効率化について――」
私はオオルとスウマと共に焚き火を囲んでそんなことを話す。
そして少し離れた場所では。
「ここで最近キャンプした跡がない……グフは、休まずに進んだのね……凄まじい無理な行軍を……」
「そうだなぁ、グフはどうでもいいとしても、グフの取り巻きたちがかなり浪費させられているだろうしなぁ、オレたちはさんざん大量の補助をもらって、だいぶ楽させてもらったしなぁ」
「そうですね……普段よりも、かなり楽でした。ローズさんはありがたいですね」
「なんなら、ずっといて欲しいかもなぁ、ハハハ、それだとパーティー制限をこえちゃうから、やらないけどなぁ」
ごめんね固定チームは今の所組む気がないんだ……
それはともかくとして気になる話だ。
一切の休憩なく強行軍しているとは……
どれだけの体力が持つのか。
グフ自体はすごくても取り巻きは微妙だった覚えがある。
果たして耐えられるのか……
正直私の中でもどんどんグフの評価が下がっていっている。
強いんだからもっと真面目に働けばいいのに。
そうこうしつつごはんタイム。
食べられる時にちゃんと食べておかないとね。
全部保存がきくように耐水袋詰されている。
中身はさすが上級者といった感じ。
みんな手を抜いていない内容だ。
まさしくお弁当と言った感じの代物。
そして私は……
「なにそれ!?」
「もちろん、魚の塩焼き。あ、でもこの大陸の魚じゃないから知らないかも」
「あー、だからか、見たことないのは」
いわゆる姿まるまる塩焼きした魚。
身体が途中から3つに別れだし尾ひれが3つという変わった形を持つ魔物ではない魚で……
誰が呼んだか三叉槍魚と言う。
……私の知っている秋刀魚といろいろ違う!
というようなツッコミは既にこの世界に来てやりなれてしまった。
異世界なので当然なのだ……
他にも味噌汁におつけもの。
アノニマルース米(仮称)や野菜の煮物がある。
こんな外で食べるのも変な話だがちゃんと亜空間に保存してあったので平気。
というよりタブン和食セットというこれらはめちゃくちゃ珍しく見えるよね。




