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五百七生目 密林

 そして悪口を聞きつけたのか大男がオオルに対して食いかかってきた。

 身長差のせいでほぼ子供をいびっているように見える。

 しかしオオルは物怖じせず牙を見せつける。


「んだグフ、朝っぱらから酒臭えのに仕事しに来やがって」


「オメエラこそ、4人しかいねえのに、アイツを狩りに行く気なんじゃあねえだろうな!」


「ハッ、臨時にひとり入ってきてくれたから問題はないさ。それよりも、そっちこそこっちの邪魔をしないでくれるかなぁ?」


「ダハハハッ、むしろオマエラ程度のところがオレサマが狩るのに時間のかかっている2つ名の魔物、"魔炎"マジックロードを狩れるとでも? それに……あー、なんだ? そんなよくわからん弱そうなヤツと即席で組んでやれるとでも? まったくおめでたいやつらだ、これは忠告だが、命を失う前にやめておきな」


 それだけ言うだけいうと上機嫌そうにカウンターのほうへ行く。

 ……なるほど。

 狩る相手が被っているわけか。


「はぁ……ほんと酒臭いな」


「"魔炎"狩りは絶対負けるわけにはいかない……アイツは冒険者の病巣(びょうそう)だ」


「それが、今日中に出発したい理由だったの?」


「悔しいけれど、アイツが……グフと取り巻きが負ける展開になるとは思えない。だけれど、アイツはこの街の品位ごと冒険者たちのイメージを下げている。そんなのはもう許せないんだ」


 よっぽどたまったものがあるのかスウマが拳を固める。

 いつもあんな態度でこられているのかな……

 しかも仕事もかぶっていると。


 冒険者ギルドでは強敵相手の撃破には複数チームに依頼をお願いすることがある。

 誰かが倒せればいいというやつだ。

 チームごとに協力したり対立したりしながらも最終的に被害が発生しなければ良し。


 ただ冒険者たちだって生活もあるしニンゲンたちのチームによってさらに向上していきたいものたちもいるだらう。

 そうなるともう競争心剥き出しである。

 少なくとも今回は向こうのグフのほうがあまりに態度が悪かったけれど。


 今回私はこっちのパーティーだ。

 せいぜい足を引っ張らないように働こう。










 準備を整えいざ戦場へ!

 つまりは迷宮だ。

 私はサポートということで全員分の荷物を持ちつつ最後方で警戒担当。


「……いや、本当にすごいな」


「これがランクU……冒険者ギルドの、切り札的ランク……」


「あんまり広く知られると困るから、秘密にしててね」


「ああ、そりゃそうさ! いかにもこき使われるもんねそれは」


「うーん、見習うところがあるなぁ」


 私はみんなの荷物を亜空間にぽぽいっと入れてしまった。

 (くう)魔法"ストレージ"は便利だけど四次元なカバンじゃない。

 限度があるため便利な運び屋扱いされても困るのだ。


 迷宮の入り口は意外な場所にあった。

 たいていは過酷な場所にあるけれど。

 街中にある家のひとつからいけたのだ。


「ここの街ができる前は、結構激しい環境の場所だったらしいんだけど、朱竜様が平らにしちゃって、その上に街が出来て、と同時に個人が家を建てちゃったんだ」


「法的に問題なかったとは言え完全に虚をつかれる形となったんどけれど、持ち主が言うには特定以上の力を見せつけなければ入れさせないってことらしいよ」


 スウマは話しつつもらった合鍵で扉を開く。

 中にはちょっと休憩できそうな椅子や机そして大扉。

 あの大扉から異世界への魔力を感じる。


 迷宮の入り口だろう。


「じゃあ、入ろうか」


「多分グフは先に中へ入っている。アイツ、酒のんでいて探索もナメているけれどギフテッド持ち……つまり天才なんだ。取り巻きをつれ、なにも気にせず進軍するから半端じゃないほどに速度が早い。グフより先に"魔炎"マジックロードを見つけよう」


「「おおー!」」


 スウマの言葉にみんなで勝どきを上げてワンチが扉を開く。

 先の見えない階段がどこまでも続く。

 この瞬間に感じるどこかしら冷たい風はいつも冒険者としての心が湧き立つ。


 さっきまでは賑やかだったみんなが真剣な顔つきになり。

 静かに階段を降りていった。








 ついた先はむせ返るような湿気に覆われていた。

 朱の大地では感じることのないようなムシムシとした熱気。

 あたりは緑で覆われ視界は驚くほどに悪い。


 そんな環境はまさしく密林。

 ただしここは密林の迷宮なんてものではなく……


「まったく、こんなに植物たちが覆っている景色なんて、ここでしか見ないよな。まるでファンタジーだぜ」


「別の大陸ならあるところにはあるよ?」


「ええっ!? オレはよう、これはこの迷宮だからこそって思っていたよう」


 ワンチやオルルがおどろくのも無理はないか。

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