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十五生目 人間

視点変更:とある人間



「はあぁ……どこに行ったかな……」

 私は今この森の中でちょっとした落とし物を探している途中。

 この森では私は部外者、気をつけてはいたんだけれど……


 私はまだ駆け出し冒険者のエリ。

 レベルはやっと5になったくらいかなー。

 今は仲間と共に町からキサラギ森林に冒険をしに来た……んだけれど。

 ギザガコウに見つかるという大失態。

 あの巨虎は私達を見つけ次第延々と追いかけ回す。

 二人いた仲間のうち一人が囮となって逃げれたけれどおかげでみんなとはぐれてしまった。

 まあそれだけなら町に帰るアイテム、穴抜けの糸を使えば良いんだけれど……

 地図を、落とした!

 それに気づいた私は未だに帰れずにウロウロしている。

 別にまた買えば良いのだけれどタダじゃない!

 私達駆け出しは地図を買う余裕もあんまりないからな〜。




 空にまばゆい光が打ち上がるのを見つけた。

 まただ、さっき上がった時とは違う場所だけれど。

 あれ低位光神術のライトだよね?

 仲間たちは使えないけれど私は使えるやつ。

 だから仲間じゃないのはわかるけれど別の冒険者かな?

 遭難信号? まさか糸も持たずに魔物がいるところに来たの?

 まあ私も地図を無くしたからどっこいどっこいだけどさ。

 仕方ない、アテもないしちょっとあそこにいる人と合流しよう。

 そんで糸一緒に使ってあげる代わりに地図探してもらうか譲ってもらおう。


 道中は一人ということで低位光魔法ディテクションで警戒レーダーを動かし、まだ私は覚えていないけれど買っておいたスクロールによる低位光魔法スニークで音を消す。

 スニーク便利よね、自力で覚えるまでは購入するに限る。

 大量に作られてるらしくて安価だし。

 ただし町中では効果がかき消される防御策があるケドね。

 スリ対策かな。


 私は草をかき分けてもちょっと走っても音が出ない魔法スニークで魔物に遭遇しないように移動する。

 流石に私一人じゃあ戦うのは厳しい。

 レベル2や3のミニ級魔物なら何とかなる。

 私でもレベル5とかはミニ級でも戦いたくないかな。

 レベルが9や10あるモンスターは最悪。

 私しか観察使えないから追われたギザガコウがビッグ級なのは置いといてレベル8だったのはヒヤヒヤした。

 大きさがビッグ級でレベル8は私達3人が奇襲かけて一斉に挑んでも、まあ勝てなかったろうなあ。

 私のリボルバーガンでは殆ど威力も命中率も無いしね……


 なけなしのお金で買った中古の品。

 リボルバーガンは6連発できる弾を一つずつ込める必要がある銃。

 弾はケチって最低威力ながら実弾が必要ない行動力を消費して放つ魔力弾。

 赤字にならないためには重要なことだから!

 調整の仕方が悪いのか狙った所に全然飛ばない!

 まあ、牽制程度にはなるかなーって。

 銃自体そこまで新しい武器ジャンルじゃないから仕方ないかなという面もあるらしいけれど、私としてはこれが命綱!

 新しいものに惹かれずにナイフとかが良かったかなー。

 まあ、私サポートに回ってたからパーティの時はコレでよかったの! それに赤字にならないためには重要なことだしね!


 そんな事を考えたらライトを打ち上げていた現場についた。

 まず思ったのはなんとも血なまぐさい。

 レーダーにはおびただしいほどの生体反応。

 人と魔物が血に塗れてたおれている姿を想像しながら木陰から覗く。

 ……!?

 何、あれ。

 群がられているのは……ビッグギザガコウ!?

 いや、既に死体!

[ギザガコウのしかばね]

 誰かが斃したのかしら?

 とは言っても撃退ならともかくむやみに殺すのはなー、と。


 土地の権利者も冒険者組合も言っているようにむやみな殺生はその土地に棲む魔物のバランスを崩してしまう。

 もちろん、いるだけで人間やその土地に有害だと指定される"ネームド"魔物モンスターは別だけれど。

 ネームド、二つ名を持つ魔物は積極的に発見報告と討伐が推薦される。

 組合が危険と判断してネームド認定し、それを強力な冒険者たちが狩る。

 しかもこのネームドとやら、先程のむやみやたらに死が積み重なってバランスが崩れた際に多く発見される。

 だから人は魔物との介入はなるべく撃退程度にして戦利品を得るぐらいにおさめよとされてるんだよねぇ。

 組合のパンフレットで死ぬほど見た。

 確か書いてある事はこうだ。


『魔物保護法

 魔物保護区域に置ける魔物を殺す事を固く禁ずる法律です。

 内容は魔物と接敵したさいに撃退以上に深追いし殺生することを禁ずる法律です。

 狩猟許可を持った冒険者のみなさんは指定された魔物以外はけして殺さないでください。

 ただし通常戦闘は許可、また推奨されています。

 理由は自身の命の保護と冒険者の強さを鍛えるためです。

 殆どの魔物はこちらの方が強く戦えると見せつければ命を守るために逃げます。

 もし敵わないと判断したさいに無理矢理戦わず戦線離脱してください。

 またそのさいに便利な道具を事前に購入するのをオススメしています。

 もし狩猟認定されていない魔物を狩った事が判明したさいには法律に基づく罰則がもたらされます。

 10年以下の懲役または金貨100枚の罰則に問われる可能性があります。

 この魔物保護法は魔物間のバランスを保つための法律です』

 もちろんここまで酷く罰せられた件は少ないだろうけど、金貨100枚!

 1枚あればその日の食費と言われる銀貨100枚分で金貨1枚なのに!


『魔物たちは魔物間のバランスが崩れると"ネームド"と呼ばれる凶悪な魔物が生まれる可能性が高くなります。 "ネームド"は冒険者組合でも積極的な討伐依頼を出す、自然界でも人間界でも驚異的だと認められる異常個体を指します。

 "ネームド"が過去起こした驚異的事件は未だハッキリと記録され繰り返してはならないと誰もが思わざるをえないでしょう。

 特筆すべきなのは"ネームド、魔王"事件。魔王と呼ばれたネームドが出現しあらゆる国を巻き込んだ戦争状態に陥りました。

 魔物たちは魔王に引き連れられいくつもの国を落としましたし現在も名残りがあります。

 人類が結託しついに魔王を討伐したさいに世界中に誰もが理解出来る不可思議な声を響かせたと記録されています。

 記録によると、魔物が再び追い詰められたさいにまた蘇る、と書かれています。

 もはや遥か昔で記録しか残ってはいませんが当時魔物討伐が活発化していたとの事です。

 殆どの土地を人が住み魔物を駆逐した頃に"魔王"は発生されたと歴史は語ります。

 統計的にも自然界のバランスが崩壊すればするほど"ネームド"が発生しています。

 絶対に指定以外の魔物を狩らないよう気をつけてください』

 こんな感じの文章がいたる所にあった。

 私も歴史で知っているし、まあよほどバカな人でない限りはみんな知っている歴史。

 何せ絵本にもいくつかなってるし、歌にもなってるからね。

 本当にそんな事件が起きたのかという懐疑派も少なくはないけれど、私は冒険者としてキモに命じている。

 金貨100枚はいやだなー! って。




 ギザガコウの肉に群がる魔物たちは私達には気づいてない……少し安堵。

 実際に不意の狩猟対象以外と命がけの戦いに陥ってしまった後、ガンガンいってしまい殺してしまう冒険者も少なくないらしくって……

 素直に報告される時もあるが隠す冒険者も少なくない。

 今も様々な地域で魔物たちのバランス崩壊が報告されている。

 もちろん、多数の"ネームド"も。

 そして組合と私達弱小冒険者が頭を悩ます、と。

 ただ、逃げる道具もなく結果的にそうなったというタイプはまだ良い方。

 冒険者というよりも無法者たちが自らのレベル上げに、快楽に殺しまわるやつらもいる。

 そいつらに私達冒険者が間違わられたら最悪だ。

 調査は行なわれるものの『自然に還った』事になってしまえばもはや証拠がない。

 あのギザガコウを殺したやつも魔物たちに遺体を食べさせる気だ。

 なんで私が人の手か思ったというとギザガコウの死因だ。

 首を一閃?

 デカい刃物を振り回す無法者以外誰が考えるか。

 けれどそれも魔物たちが食い荒らしてしまっている。

 そして遠くから観察する私……ハッ私もしかしておびき寄せられた!?

 ち、違いますよ! 犯人じゃないですよ!

 一通り慌てた後に私はよりしっかり身を隠した。

 

 現実逃避の思考から帰ってきた私は現実を見ることにする。

 ウヨウヨいる魔物たち!

 とてもじゃないけれど私では太刀打ち出来ない。

 今はギザガコウの肉に夢中らしい。

 刺激しないように人がいないか探そう。

 懐から望遠鏡を取り出し遠くから見つめる。

 うーん……人は……いない?

 やはり私を犯人にでっちあげるためにおびき寄せられた?

 ……あ、何故かギザガコウの死体に背を向けてる魔物が。

 鑑定は……

[ホエハリLv.12]

 うわ、つよ!

 私はレベル5だよ!

 ホエハリ種自体森の中ではそこそこ強い種族だから私は会いたくなかった。

 レベルは隣も同じくらいかな。

 

 んん? あのホエハリ、周囲に漂うエネルギーを吸っている……?

 ゆっくり吸っている所を見ると私も話でしか聞いた事がない魔法に似ている。

 自動で一定時間行動力を回復する魔法だ。

 確か……上位だったような。

 私は魔法使うのメインだし幼い頃からスキルが無くとも、僅かな大気に溢れるエネルギーの流れを観測するの事が出来る。

 レベルはともかく、魔法の方は無視できない。

 いやだなーネームドかなー。

 ネームドはレベルとか参考にならないくらい強いから嫌だ。

 ただ、レベル12の方はミニ級、もう片方はミドル級だから親子?

 いや、ホエハリだっけ?

 確かこの森に住む魔物の資料で読んだなあ。

 群れをなして子どもは専用の担当が育てるって。

 ということは育て役かな。

 つまりはあのミニホエハリよりも強い!?

 私がガンで撃ってもそのまま突っ込んできてあの背中で串刺し、即、死!

 そのぐらいは強さの差はある。

 うん、近づかないでおこ……

 ああああ!!

 私の地図!!

 あの二匹の近くにあるよ!

 さ、最悪だ……

 私の地図だって断言出来る。

 何せ私が私の行動力を魔力変換してマーキング用につけておいたから、私だけには見れば直ぐにわかる!

 あの二匹、今は動く気配がない。

 それに人もやっぱりいないし回収ムリだな〜

 ただまあ、だいたいの場所はわかったから、また後日パーティで回収にこよう。

 ああ、私が色々書き込んだ地図よ、無事にそこにいてよ……!


 私は穴抜けの糸を使う。

 見た目は綺麗で細い白糸だなーと思う程度の代物。

 しかしこれには使い捨ての転移魔法が込められている!

 近くの町に自動転送!

 スクロール、つまり紙じゃあないのは転送系魔法がスクロールに向かないかららしい。

 詳しいことはまるでわからない。

 まあ便利ならばなんでも良し。

「チチッ」

「!?」

 大声出さなかった私を褒めて欲しい。

 め、目の前にいつの間にか!?

[イナヅチLv.10]

 私よりレベルが倍!? ミニ級でもムリ!!

 即穴抜けの糸発動!

 こうして私の姿は森から一瞬にして消えた。

 ……あれ? そういえばスニークの魔法使っているから声は我慢しなくても漏れなかったんじゃあ?



「……チチッ?」

 イナヅチはたまたま見かけたよそ者が消えた事に少し疑問を覚えたが、満腹だったので直ぐに忘れることにした。



視点変更:主人公



 ん? なんだこれ。

 それに気づいたのは偶然だった。

 丸まってぺしゃんこに踏まれた挙句土まみれになった跡がある。

 今まで近くにあったのに気づかないのもムリはないほどに自然に溶け込んでいた。 

 というか私を含めホエハリって本当に止まっている物への視力は悪いなー。

 けれど……不自然だよね?

 紙なんて、明らかに不自然だよね??

「あの、今たまたま見つけたんですけれど……」

 私がそう言って紙の存在を示すとオジサンも気づいたらしい。

 驚いた様子だ。

「こ、これはニンゲンの!? ちょっと見せて!」

 そう言ってオジサンは少しにおいをかぎそっと触る。

「よし……わ、罠はなし」

 ちょっと待って!?

 罠が仕掛けられている可能性もあったの!?

 人工物怖ッ!

「た、たまにね落ちてるニンゲンのものは他の誰かが触ると罠が起こったりするんだ。近くにランダムで転送させられたりするから結構怖いよ」

 オジサンはホエハリには無い単語を使って会話をすることがある。

 ただ、聞けばちゃんと教えてくれるし私は前世の人間知識をすり合わせて理解してしまうのでそこまで障害ではない。

 ただ……他のホエハリの場合どう思うんだろうねこういうの。

 うわあ……石の中に飛ばされたりしないでよかった。


「ま、まあでもニンゲンのは色々変わってて俺は見つけるのは好きだよ……罠が無ければね」

 まあ、私も興味はある。

 何せ私も前世は人の側だ。

 この世界の人というのも知っておきたい。

「罠が無くて良かったですね。それで何の……それなんですか?」

 しまった、ホエハリに紙なんて単語はない。

 なんて言えば良いんだ。

「ここれは、紙だね。紙は地図が書かれていたりするよ」

 ふむふむ、ホエハリ的には……というかオジサン的には紙はああで紙か、なるほど。


 もう一つわからない単語のは聞こう。

「紙……チズ、ですか? チズとは?」

 オジサンは紙から土を払い押し広げる。

 お、これは地図かな?

「こ、こうやって何かを書いたりするのに使うのが紙というので、地図というのはここに書いてある地形や森の様子を記したものだよ」

 なるほど、さっきの単語が地図と。

 オジサンはホエハリにない言葉でもガンガン開拓してくれる。

 おかけで私のホエハリ語単語も増えて行くのがありがたい。

「へぇ〜、これがここの森ですか! 色々地形がわかって便利ですね〜」

「だ、だよね。なかなか同族で地図を読めるのはいないから活用しづらいけどね」

 ふむふむ……小川の位置から察するに……今はここか……ここらへん?

 むむ、なんかたくさん書き込んであるんだがやっぱりこの世界の人間文字は読めないかー。

「地図の地形で、今はここらへんですかね? せめてコレらが読めたら良いんですが……」

 文字という単語のホエハリ語はないのでコレで代用。

「ん……? あ、あれ、すごいねキミ」

 うん? オジサンがびっくりしている。

 どうしたのだろう。

「文字だってわかるの? 絵じゃなく、読む文字だって」

 あ、そりゃそうか。

 ホエハリに書き文字文化は無い!

 そしてアレが文字という単語か。

 うかつだった、私が前世人間だったから当然のように思ってしまった。

 別に前世人間なのを強く隠したいとは思っていないが頭おかしいホエハリだとは思われたくない。

 そもそも前世とか転生とかホエハリ語には無いから伝えようも無い気もする。

 オジサンのように自力でホエハリ語開発するぐらいの力量はない。

「いやあ、なんとなく、何となくです」

 なので私はかなりの下策を使った。

 そう、なんら弁解になってない誤魔化しである。

「ふうん……? ま、まあ、キミは頭いいからこのぐらいは出来るんだろうね」

 ゴメンナサイおじさん、私は前世パワーにすがっているだけです!

「で、でも俺は何とか最近解読できそうだから単語を拾うくらいなら出来るよ」

 マジかよオジサン天才!

 どんだけ研究熱心なんだ!

 これはあれだな、魔法を研究する過程で人の落としたものに何かヒントないかとか探した結果とかなのか!?

「教えて、ぜひ、教えてください!」

「わ、わわ……そんなに食い付かなくとも、教えるって」

「やった!ありがとうございます!」

 これで人間文化に一歩近づく!

 オジサン、本当に転生者じゃないよね!?

 ホエハリ界の天才、彼個人で埋もれさせるには非常に惜しいホエハリ材だ!


 そして私はその後オジサンにこの世界の文字について時間をかけ教わることとなった。

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[気になる点] 冒険者が魔物の殺傷否定する話なんてどういうことだよw
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