五百三生目 追跡
ホテルに一泊する。
また案内してもらった先は豪華絢爛なホテルだった。
たまに思うんだけど……足元見られてる?
豪華ホテルの人たちは忙しそうだったが良くしてくれた。
なんでバタバタしていたかはわからないけれど……
誰かVIPでもきたのか。
翌日は朝早くから情報収集のために動く。
私はこういう時軽く胃にものを入れておくタイプだ。
携帯食料としてある甘干肉を口に含む。
私の肉食獣寄りの牙たちとレベルの高い顎ならカチカチに固められた肉だろうと容易くさける。
甘干肉と言われるのはわけがあって普通の安物干し肉とはものが違う。
肉の部位からこだわり非常に丁寧な加工のされた食品でニンゲンですら口に含めば肉の甘味が溢れかえるという1品。
アノニマルースの肉加工屋が出していてわざわざこれを買いにくる住民もいる。
保存携行食だから普段遣いにはいらないんだけどね本当は。
コレが良いのは特殊な調理スキル効果による能力増進効果があること。
この世界の調理は美味しさや栄養面の他に食べた人の能力を一時的に補正したり特殊な技能を一時的に得られるものも。
この甘干し肉も単純だが便利な効果がある。
活力アップだ。
しばらくの間元気になってやる気がアップする。
栄養ドリンク系とは方向が違うので安心。
そして何よりおいしい。
歯に当たった時牙で楽にほぐれてゆき唾液とまじりあって強い肉の甘味を広げていく。
ほんのりとスパイスを感じたあと熟成させた生肉のような濃厚な肉汁を再現したかのような味わい。
そして1つ食べた後の満足感!
食事自体をこれだけで収めると不健康だがしばらくは満足できる。
さて出かけよう。
日がまだぎりぎり出ていない時間帯。
煉民主国はとても金属業に精を出している。
何せ街の至る所で炎と煙が見られるのはなかなかない景色だろう。
竜と炎もよく祀られる。
朱竜信仰だ。
面白いのは本物を知っているだろうにかなり変化させたデフォルメ型を使っているということ。
特に竜そのものより炎のイメージを固めている。
偶像崇拝をあまりしないのかな煉民主国は。
まだ朝早く灰か塵か霧かすらはっきりしない。
鼻孔をくすぐる火のにおいに晒されながとりあえず街をグルグル探索する。
……ふーむ。
怪しい人影がちらほら。
だのにこちらへ向かう気配がない。
気づいていないわけではなく気づいてスルーしている。
武器のない女性が土地勘もなくフラフラしているところを絡みに来ないのは治安がいいからというわけではなさそうだ。
いたしかたなし。
逆にあとをつけてみよう。
一回向こうの認識を振り切る。
向こうがこちらを完全に意識しなくなった段階で追跡を開始する。
ここらへんは慣れである。
昔はドライに任せっぱなしだったけれど既に私だけでもなんとかできる。
ドライには狩りのさいおろそかになりがちなさらに追跡されているかどうかを探ってもらう。
(さすがに今こちらに見てくるやつはいなさそうだな)
怪しいニンゲンたちは普通に道を通って駆けていく。
誰もいないから大きな街道でもお構いなしだ。
だいたいこういう時にはよくないことが起こっているんだよね私……
そのまましばらく追跡したら人数が増えてきた。
5人……10人……13人……まだ増えるかな。
ちょっと相手するには重たい数だ。
逆に言えば多少目立つリスクこみで動きたい何かがあると。
やだなあ……
誰かおえらいさんを襲うみたいな計画だと心配事が増える。
そういう関係の話になったら私だけで対処に当たらないことが大事。
それはもう散々大河王国で学んだ。
とりあえず追っていったら最終的な数は26人になった。
いやあ……多いな。
同時に統率がとれている。
何かしでかすのなら不意打ち一発で出来得る限り殲滅しないと。
移動をやめ1つの建物に入っていく面々。
グルグル複雑に移動していたのは様々な警戒のためだろうけれど。
にしても……この建物って。
「冒険者ギルド……? 私がお世話になったほうとは違うみたいだけれど」
この街の東側と西側にそれぞれ1つずつ国営の冒険者ギルドがある。
細かい個人やグループの冒険者ギルドは別。
私は西側に登録したけれど東側に不審者たちは集まった。
屋内となると追跡は少し難しくなる。
できなくはない……けれど。
なにより戦闘が難しくなる。
よし。
とりあえず外から"鷹目"と"見透す目"それに光神術"エコーコレクト"でうかがおう!
また内から外を探知されるとやっかいだから空魔法"ステルス"を使う。
昔はなかなかやっかいな魔法だったが亜空間に身を隠すというものだ。




