四百九十五生目 暗雲
「あんな風に、限られた中でも全力で戦闘が出来るのは、かなり恵まれた環境……都でもあんなふうに贅沢な回復薬の使い方が出来たら……」
ランムが何か考えているけれど私は雷神とジャグナーの前に行く。
ふたりとも良い疲労感がありそうだ。
「お疲れさま、すごく良い戦いだったよ」
「……ぁ……」
「だよね、ジャグナーは武具も一新……いや、強化? してめちゃくちゃ強くなっている。ここまでまっすぐに力を引き出せるだなんて。けれど、それを言うなら雷神さんもだよ。いくつかまだ調整中であれだけ引き出せたんだよね?」
「ああ、軍内最強の名をほしいがままにするまであとわずかだろうな。純粋な戦力で言えばこいつ以上は軍では難しいだろうな。ま! オレは問題なく指示と指導役に徹するから問題はないんだがな!」
「……ぇ……」
「そう謙遜するな、オマエはみんなのためにここまでやってこれたんだから」
雷神は申し訳無さそうに下向いているものの正直現時点でもめちゃくちゃ強いんだから問題はない。
これだけの武装を同時に使いこなせるのは間違いなく雷神だけだろうし。
ランムはハッとして私達の方を見てひとこと。
「このふたりは、ローズオーラさんより強い……?」
何気ないひとことだったのは誰にでも明らかだった。
しかしなぜか雷神とジャグナーふたりの顔色はさっと悪くなる。
「…………」
「いや……それは……」
「……うん? ふたりともどうしたの? そりゃふたりともめちゃくちゃ強いんだから、まともに模擬試合したらさすがにわからないよ?」
「………り……」
「ああ、同意だ……ふたり同時にかかったところで、勝つビジョンが見えないぜ……」
大げさである。
確かに私は一応神だから神クラスではない単なる生命体には絶対的とも言える有利がある。
ただそんなの除いて純粋なバトルならば割とわからないものだ。
神クラスの相手に対しては神力がなければ話にならない。
神のスキルである"神罰"系や"神域"系それに"宣言"。
他のもあるけれど神力がなければスキル云々関係なく無抵抗で刺される。
またはあらゆる抵抗が跳ね返される。
昔の魔王がニンゲンたちに対して絶対的な優位性を保っていたのもこのせいだろう。
基本的にワンチャンスが無理でノーチャンス。
「いや、さすがに回復なし神力なしだよ? 模擬試合でそれしてたら終わらないし……」
「いやあ……無理だろ、しかもその上でオマエは支援型だからな。オマエの強さはつながりからわかるようにはなってきたが……めちゃくちゃだ。これが俗に言う格が違うってやつなのかってなるぜ」
「……ん……」
「そこまでではないと思うんだけど……」
さっきから背後で見ているランムの目がどんどん細くなるからそこまでにしておいてほしい。
ヨイショする意味はあんまりないと思うんだ。
「わたしと手合わせ願えますか?」
「イヤですっ!!!」
なぜか少し前からランムが戦いを挑むようになってきた。
今回街の調査だから私関係ないじゃん!
これはなかなかしつこくて他のところを案内しても……
日にちが変わっても……
調査最終日にすら……
結局帰還日の朝まで言われてしまった。
「結局駄目だった……」
「逆になんで月組のみなさまと拳を交わすという叛逆行為と受け取られかねないことやると思ったんですか……」
朝日さんさん登る中鳥車に乗り込んだあとも窓から残念そうな声がランムから聴こえる。
ほんと勘弁してほしい。
「それにしても、少し冷えますね……街の外側だからでしょうか?」
「え? でもここはまだ、完全気温調整する魔法陣効果内のはず……」
「……え、それって一体何を……」
ランムの続く言葉よりも今ランムが言った肌寒いことのほうが気にかかった。
ニンゲンは私より冷気に敏感なはず……
ただ気温調整が壊れているとは思えない。
というより本当に気温的な冷えなのか?
そこまで思い立った時に。
……ゾクリと悪寒が走った。
空が昏くなる。
真っ暗闇とまではいかないが……
朝日のはずなのにまるでもう暮れるかのように。
雲が出たわけではない。
不自然な世界の变化。
これはまずい!
「……え? 天候がいきなり……」
「月組のみなさん! 身を守る準備を!」
私の掛け声で緩んでいた空気がいきなりしまる。
月組は戦えることくらい見ていればわかったけれどさすがだ。
鳥車から続々飛び出してきて身構える。
「何かは知らんが全員持て!」
「助かるイマ!」
イマが鳥車の中に詰め込まれた黒い箱を次々ぶん投げる。
的確に投げられた箱かばんを受け取る月組たち。
何の中身なんだろう。




