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百五十四生目 空白

『いつものって……ああそういえば一時的に性格が幼くなっていたらしいわね。直接会っていないから伝聞だけれども』

『そうそう。今回の戦いではギリギリまで力使ってもらってありがとうね!』

『まさかそれ言うためだけに念話飛ばしてきたわけじゃあないでしょうね』


 念話なのにユウレンにするどい目つきで睨まれた気分だ。

 どうやらまだまだお疲れらしい。

 私も疲れてるところに世辞のような電話が来たらイライラするだろう。

 念話だけれど。


『もちろんそれだけじゃあなくて、教えて欲しいことがあって……かくかくしかじか』

『なになに……

 ふぅん、あんた休みって言葉知っている?』

『もちろん休むよ! おちついたらね』

『まあいいわよ。それのやり方ならこの念話通せばなんとかなりそうね』


 しぶしぶながらもユウレンは私の求めるものをくれるらしい。

 念話を通しイメージデータが流れ込んできた。

 よしよし、だいたいはこの通りにすれば良いんだな。


『媒介は私の血で良い?』

『土の加護がついているって言ってたわよね? 若干強すぎる気がしないでもないけれど、伝導率の低い媒体使うより億倍マシだからそれでいいわよ』

『うんわかった、ありがとう、じゃあこのイメージ図はしばらくちょうだいね』


 ユウレンから送られてくるイメージ図を見つつ作業を始める。


「ええと、今から何をされるのですか?」

「ここの土地が荒れたせいで強い力の塊……龍脈が泉に力を送っていたんだけれど、それが途切れちゃっているみたいだからつなぎ直すんだよ」

「りゅーみゃく? それってつなぎ直せるものなのか……!?」

「やれるだけやる」


 大地に干渉する魔法技術は事前の調査が大事になる。

 そこに書き込む細かい内容はその調査のデータから推測される『やりたいこと』を入れ込むからだ。

 さっき魔法で大地の情報を調べたのはそのためだ。


 ユウレンから貰い受けていたアイテムをバッグから取り出す。

 見ためは19世紀ごろの万年筆だが吸血する魔物の牙を加工して作られた品。

 こいつをギュっと押し込めばチクリと痛みが走る。

 みるみるうちにインク代わりの血液が満たされるのでコレで準備完了だ。


「これで送るイメージどおりに書いてくれるかな?」

「よし、任せて!」


 活発な子の方に万年筆を渡して"以心伝心"で思念を送る。

 ユウレンから送られてきたのを妖精たちに訳したり必要な情報を書き加えて送ったものだ。

 その『イメージ』だが普通に空想するよりも目の前に書き込んでいるかのような感覚ではっきり見える分こちらも向こうもやりやすい。

 かなり便利だが誰も彼もが使えるわけではないようなのでそこは残念。


 口頭で場所や位置をチェックしつつ地面に直接書き込んでいく。

 いくらなんでも普通の万年筆なら地面に文字は書けないがこの万年筆は私の黄色い血液を不気味な輝きを持って地面に記していく。

 あらゆるところに書き込むという力を持たせた魔法技術だ。


 詳しい原理はともかく妖精がむんずと掴んで書いていく文字は拙くとも私みたいにそもそもあんまり持てないよりはるかに良い。


「ここからここまでに今送ったイメージを書いてみて」

「どれどれ……

 ……かきかき……ガリガリ……ゴリゴリ……

 ひゃー、結構疲れるなー!」

「じゃあ私に交代しようか」


 妖精たちは書き手を順番に変えつつ地面に文字を書き綴る。

 とは言ってもいわゆるニンゲンたちの常用語ではない。

 魔法文字とか言われるものだ。


 発音は『自動学習』できなかったが意味は理解している。

 なんだか前世で言うプログラムでもしている気分になる。

 今回したいことは『龍脈が途切れた地点AとBを再びつなぎ直す』だ。


 現在ここ付近を通っていた大地に巡るエネルギーの流れである龍脈は地形が変わるほどのダメージを負った大地を避けて通っている。

 しかしこれだと龍脈が泉に繋がる水脈に触れずに通ってしまう。

 震災で水の流れや地質が変わって畑がダメになるというやつのファンタジーバージョンだ。


 なのでやることは『大地のダメージを癒やし』『地質を改善し』『龍脈にこの場所を通ってもらう』必要がある。

 なのでまずは回復効果を発動させる術式を刻んでいた。

 地面に対して行う"ヒーリング"だ。


 普通の"ヒーリング"は対生物のみなので私の血を媒介にどこからか力を貰いながら治す必要がある。

 そこで龍脈が通っている部分にも書き加えてエネルギーをここから引っ張るように指示させる。

 まあ妖精たちにしたら意味の分からないフニャフニャ線の絵をたくさん書いている感じだろうが……


 ただ治るということを信じて書き綴ってくれたおかげか魔法文字が徐々に上達している。

 さすがに雑に書くより丁寧な方が効果は大きいからね。

 それに私の血は『土の加護』を受けている。


 妖精たちの想いがそのまま私の血を通して大地に伝わるだけでも魔法的効果は大きくなるはずだ。

 真剣にひたすら書き綴って途中まで来たら線をつなぐ。

 めんどくさいのは今回の線はわざわざ曲線にしなくてはならない点か。


 自然物に対して行うさいに魔法文字の効果をつなぐ線は曲線が推奨される。

 ギザギザでもだめで流れるようなカーブを何度も描きつつつなぐ。


「あー、またガタッてなった!」

「大丈夫、私の血は余裕があるし消せば書き直せるから落ち着いていこう」

「見て書いているはずなのに難しいものですね……」


 ひたすら書くこと数十分。

 ようやく第一段階を書き終えた。

 『指定の土地を回復する』『そのさいに使用するエネルギー源を指定』『指定されたエネルギー源はポイントaにある』『ポイントa』『ポイントaは要求されたさいにエネルギーの余裕があればその分を分けるのを許可する』


 ざっくり今書いた内容はこうなる。

 もっと効率性を求められるかもしれないがシロウトとそのシロウトに教わりつつやる子どもといった感じだし製品化したりせずに一回きりだからこれでもいいのだ。

 一旦水でも飲みながら休憩。


 もちろん妖精たちは根をはって水を吸う。


「ふぅ〜、これであとどのくらいなんだろう」

「うーん……まだ半分行ってないかな」

「マジかー……」

「わ、私たちの集落を守るためです! やります!」

「お、おう! もちろんボクだってやるさ!」


 妖精たちがへばらないようにペースは調整しないと。

 完成した魔法技術記述を保存する。

 保存は楽で特定の単語を入れ込めば今までの経過をまとめて保存してくれる。


 1度保存すれば保存主が削除したり何らかの魔法的干渉で破壊されない限りは地面をこすっても消えたりはしない。

 本当は目立つから外部から見えにくくする『このデータを隠す』やロックを書けて干渉を避ける『このデータに鍵をする』などもあるのだが今回はわざわざそこまでする必要は無いだろう。


 そして保存の1番大きな点は『実行』が出来ることだ。

 さてさて思った通りに動いてくれれば良いんだけれど。

 ただぶっちゃけ1回で動いてくれるものだとは思っていない。


 手順を踏んで、起動!


 ……


 起動!

 ……

 しない!


「あれ、どうしたの?」

「うーん書いてもらった魔法記述が稼働しない」

「え!? どこか間違えてしまいましたか?」


 どこだ……

 保存した内容を『編集』する。

 どっかで詰まっていたら思惑通りうごかなかったりうんともすんともいかなかったり。


 "以心伝心"で描いたイメージとの差異をチェックしにらめっこ。


「すいません、うまくやれなくて……」

「いや、コレなんて滅多に一発ですんなりいけないから……」

「難しいもんねエー」


 脳内でガリガリ音がしそうなほどに集中しよーく見極める。

 ……あっ。


「ここ、先頭の空白が大きくなっている」

「え、空白?」

「空白の大きさで意味が違っちゃうから……」

「空白……」


 妖精たちはこれは難しいぞということがよく分かった顔をしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 154生目 誤字、では無いが文法の使い方に気になるところがあったので、訂正入れておきます。 魔法文字やら言われるものだ。 ↓ やらの使い方は複数の名称に対して平行に使うことが主流と思…
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